クリングルファーマ<4884> 創薬シーズである組換えヒトHGFタンパク質を有効成分とした製剤で新薬開発

2021/01/21

難治性疾患の治療薬の開発会社で、製品化まで手掛けるバイオベンチャー
創薬シーズである組換えヒトHGFタンパク質を有効成分とした製剤で新薬開発

業種: 医薬品
アナリスト: 松尾 十作

◆ 難治性疾患の治療薬の開発会社
クリングルファーマ(以下、同社)は、難治性疾患に対する治療薬の研究開発を手掛ける大阪大学発のバイオベンチャーである。難治性疾患とは、症例数が少なく、原因不明で治療法が確立しておらず、患者の生活面への長期にわたる支障がある疾患を指している。治療薬の研究開発において、臨床試験まで進んでいるのは4件あり、製品化された薬剤はない。

同社の開発医薬品の元である創薬シーズは、組換えヒトHGF注1タンパク質である。HGFは当初、肝細胞の増殖を促進する因子として日本で発見されたが、その後の研究により、細胞増殖以外にも細胞保護等の組織の機能に作用する事例も報告されてきた。加えて対象となる細胞も肝臓だけでなく、腎臓、肺、皮膚等に対しても治療効果のあることも報告されている。

HGFは発見から長い年月が経過しているため、物質特許は既に失効している。同社は、組換えヒトHGFタンパク質を医薬品の製剤として設計・開発する過程で、製剤組成では2種類、用途特許でも1種類、都合3種類の特許を取得している(図表1)。

製剤組成では「HGF製剤」と「神経疾患の治療に適したHGF製剤」で、日本、米国等で特許を取得している。前者は長期的な保存に適するための安定性を目的とした凍結製剤である。後者は長期的な安定性に加え、神経疾患の治療に適用できるように組成を改良した凍結乾燥製剤である。用途特許はHGF製剤を脊髄損傷急性期に用いる特許である。

◆ 開発中新薬
臨床試験まで新薬開発が進んでいる対象疾患は、①脊髄損傷急性期、②筋萎縮性側索硬化症(ALS)、③声帯瘢痕はんこん、④急性腎障害の4疾患で、基礎研究では、⑤眼科疾患、⑥その他の神経系疾患がある。

① 脊髄損傷急性期
脊髄損傷急性期とは、脊髄が事故や転倒により強い衝撃を受けることで、脊髄の組織が損傷し、運動障害や感覚障害を発症する疾患である。国内では年間5千人程度の新規患者が発生し、難治性から現在の患者総数は10万人から20万人とも言われている。

同社は、組換えヒトHGFタンパク質を投与することで、脊髄内で損傷を受けた神経細胞の回復が図られ治療効果があるとして20年7月から第Ⅲ相試験注2を実施中である。

販売元は丸石製薬(大阪府大阪市)、卸売及び流通は東邦ホールディングス(8129東証一部)が担当する。丸石製薬は独占的販売権を持ち、病院に対するプロモーションも実施、丸石製薬から仕入れた薬剤を、独占的卸売権を持つ東邦ホールディングスが病院に届ける。

② 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
ALSは、難病指定を受けている難治性神経疾患の一つである。運動神経細胞が選択的に障害を受けることから筋力の低下、筋肉の萎縮が引き起こされる疾患で、国内の患者数は約1万人、発症後3年から5年で約8割の患者が死亡すると言われている。既に医薬品として2剤が承認されているものの、対症療法が既存治療法となっている。

組換えヒトHGFタンパク質を使用し、モデル動物で薬理効果を確認する実験をしたところ、運動機能の回復、発症の遅延、生存期間の延長等の効果が確認された。第Ⅱ相試験注3を実施中だが、患者に対する投与は既に終了し、患者の経過観察期間及び治験内容の分析中で、治験内容の公開は21年後半の予定である。

臨床試験は医師主導治験注4であるため、同社は治験薬提供者として関わっている。治験終了後の事業化については、治験が行われている大学病院との間で同社が独占的に行う契約となっている。

③ 声帯瘢痕
声帯は酷使されると炎症を起こし、さらに喫煙、飲酒、胃酸逆流等が加わると声帯粘膜が損傷することで、声がかすれたり細くなる、場合によってはほとんど声が出なくなる。こうした症状が声帯瘢痕である。現在は有効な治療法はない。

同社、京都大学、公益財団法人先端医療振興財団との共同研究で、組換えヒトHGFタンパク質を使用し、モデル動物で薬理効果を確認する実験をしたところ、声帯機能の改善が認められた。20年11月時点では第Ⅲ相試験を計画中であるが、治験費用の調達を目的に各種公的資金である補助金申請、及び提携候補先を探している状態である。

④ 急性腎障害
急性腎障害とは、数時間から数日という短い期間において、急速に腎機能が低下する状態から、尿を介した老廃物の排泄が困難となり、体内の水分や塩分量等を調節出来なくなる疾患である。原因を特定できない場合が多く、有効な治療法が確立されていない。

米国で腎臓専門クリニック(Rogosin Institute)の協力を得て臨床試験をした。第Ⅰ相試験注5が終わり、第Ⅱ相試験の計画を策定している。また日本での第Ⅰ相試験の計画も策定している。米国、及び日本での同社単独の開発継続は困難と判断し、開発資金を得るために提携パートナーを探している状態である。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
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