JMDC<4483> 利益率改善のペースを決める医療ビッグデータの二次利用拡大の動向に注目

2019/12/24

医療ビッグデータの構築・提供のほか遠隔画像診断等のサービスを行う企業
利益率改善のペースを決める医療ビッグデータの二次利用拡大の動向に注目

業種: 情報・通信業
アナリスト: 藤野 敬太

◆ 医療ビッグデータをもとに事業展開する企業
JMDC(以下、同社)は、主に健康保険組合から得られた医療データをビッグデータ化し、有用なデータに変換して提供することを主要業務としている。前身は02年1月に設立された日本医療データセンターで、オリンパス(7733東証一部)の子会社となった時期を経て、ノーリツ鋼機(7744東証一部)の子会社となり、現在に至っている。

医療情報というセンシティブな情報を収集するインプット部分と、ビッグデータ化して有用なデータとして提供するアウトプット部分で構成されるが、事業開始が早かったという先行者利得もあり、インプット部分とアウトプット部分がうまく機能しあって展開されている。

同社の事業は、中核事業であるヘルスビッグデータ事業に加え、遠隔医療事業、調剤薬局支援事業の3つの報告セグメントに分類される(図表1)。18/3期まではヘルスビッグデータ事業のみだったが、19/3期より遠隔医療事業と調剤薬局支援事業が加わった。3事業とも黒字だが、ヘルスビッグデータ事業と遠隔医療事業で利益のほとんどを稼いでいる。

なお、現時点では3事業の間に強いシナジーがあるわけではないが、将来的には、ヘルスビッグデータ事業で構築されるビッグデータに、遠隔医療事業と調剤薬局支援事業のデータを加えていく、またはヘルスビッグデータ事業のビッグデータを両事業で利活用していくという関係にしていく方針である。

◆ ヘルスビッグデータ事業
ヘルスビッグデータ事業は、同社の中核をなすセグメントである。現在は同社とメディカルデータベースの2社が担当している。同社単体の事業を大まかに分類すると、健康保険組合から得た健康診断等のデータを収集・加工し、健康保険組合及びその加入者に提供する一次利用の部分と、収集してビッグデータ化したデータを二次利用する(第三者に提供する)部分に分類される。

ヘルスビッグデータ事業の売上収益は、(1)保険者支援及びPHR注1(一次利用)、(2)医療ビッグデータ(二次利用)、(3)薬剤DB、(4)その他(新規事業等)に分類できる。(3)の薬剤DBは子会社のメディカルデータベースが担当し、それ以外は同社が直接担当している。後述する医療ビッグデータのサービスが売上収益の中心になっている(図表2)。

現在は医療費増加の抑制のために、健康保険組合は、保健事業におけるPDCA注2サイクルを効率的に回すことを強く求められている。一方、健康保険組合では、PDCAサイクルを回すために、収集したデータを適切に分析する人材を抱えていないことが多い。(1)の保険者支援では、そうした社会環境を背景に、紙・画像レセプトを含めたレセプトデータ、健診データ、台帳データ等をデータベース化し、データを加工・分析できるように支援するサービスである。

健康保険組合から組合員の健診データ等を預かり、データを加工して健康保険組合に渡す。この一次利用の部分だけで言えば、単なる業務委託の業務となるが、この業務に際し、健康保険組合からは、個人が特定されない状態でデータを二次利用(第三者提供)する許諾を得ている。この二次利用の許諾により、健康保険組合にとっては業務委託の費用を低く抑えられる。一方、同社としては、それらのデータを匿名加工して蓄積し、ビッグデータを構築していく。

ビッグデータの優劣は、収集するデータの量と質によるところが大きい。同社には19 年4 月の時点で703 万人分のデータが集まっている(図表3)。 組合管掌健康保険組合員は約2,900 万人いると言われているので、同組合 員の約4 人に1 人のデータを保有していることになる。

PHR は、保険者支援サービスを提供している健康保険組合を対象に、自社開発の健康情報プラットフォーム「PePUP」を通じて、加入者自身が利用する個人向け健康ポータルサイトのサービスを提供している。健康年齢算出や医療費通知等のコンテンツ提供のほか、名医紹介サービス「Clintal(クリンタル)」等のサービスを付加している。18 年12 月末で107.7 万人、19 年9 月末で148.3 万人がID を保有している。

(2)の医療ビッグデータは、蓄積されたビッグデータを利活用したい第三者の企業または組織にデータを提供するサービスである。ポピュレーションヘルス(集団全体の健康向上を効率的に実現しようとする政策)や疫学調査に活用される。前者の顧客は主に生損保企業、後者の顧客は主に製薬企業や研究機関である。

製薬企業と生損保企業を合わせた取引先の数は19/3 期には119 社まで増加した。上位とそれ以外の平均取引額の推移を見ると、上位顧客の取引額の増加が目立ち、全体でも取引金額が拡大していることがうかがえる(図表4)。

子会社が担当する(3)の薬剤DBは、上述のビッグデータとは一線を画し、薬剤に関する静的データを収集し、加工した上で蓄積してデータベースを構築するものである。

◆ 遠隔医療事業
95年創業で、10年6月にノーリツ鋼機グループに入ったドクターネットを18年4月に子会社化したことで立ち上がったセグメントである。現在はドクターネットのほか、ドクターネットの傘下にある有限会社エムアイ・コミュニケーションズと医解网(上海)科技有限公司を合わせた3社が連結子会社となっている。

ドクターネットを通じて、画像診断を依頼したい医療機関と、画像診断を行うことができる読影医をマッチングさせることが主なサービスとなる。読影医がいない医療機関からの需要のほか、医療機関に読影医がいても専門性の違い等で外部の読影医に依頼したいという需要に対応する。19/3期末時点で、契約医療機関が700施設、契約読影医(専門医)650名を抱えている。

◆ 調剤薬局支援事業
18年5月にユニケグループを子会社化したことで立ち上がったセグメントである。現在はユニケソフトウェアリサーチ、日本メディケートプラン、有限会社神田登栄薬局、他1社で構成される。

調剤薬局向けの業務システムの提供を行っているが、システム販売が中心で、セグメント売上高の約8割が既存顧客の買い替え(リプレース)、約1割が既存顧客の新店開局、約1割が他社メーカーからのリプレースまたは新規顧客による新店開局という構成になっている。そのため、導入調剤薬局数は安定して推移している。

現在は、調剤薬局向けの業務システムをクラウド化した新商品を開発している最中である。

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資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。