(4205) 日本ゼオン株式会社 世界経済減速で減収減益
田中 公章 社長 |
日本ゼオン株式会社(4205) |
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企業情報
市場 |
東証1部 |
業種 |
化学 |
代表取締役社長 |
田中 公章 |
所在地 |
東京千代田区丸の内1-6-2 |
決算月 |
3月末日 |
HP |
株式情報
株価 |
発行済株式数(自己株式を含む) |
時価総額 |
ROE(実) |
売買単位 |
|
1,375円 |
237,075,556株 |
325,978百万円 |
7.2% |
100株 |
|
DPS(予) |
配当利回り(予) |
EPS(予) |
PER(予) |
BPS(実) |
PBR(実) |
21.00円 |
1.5% |
100.69 |
13.7倍 |
1,172.40円 |
1.2倍 |
*株価は11/26終値。発行済株式数、DPS、EPSは20年3月期第2四半期決算短信より。ROE、BPSは前期末実績。
業績推移
決算期 |
売上高 |
営業利益 |
経常利益 |
当期純利益 |
EPS |
DPS |
2016年3月 |
295,647 |
29,856 |
32,153 |
18,079 |
79.86 |
15.00 |
2017年3月 |
287,624 |
30,767 |
31,805 |
23,152 |
104.31 |
16.00 |
2018年3月 |
332,682 |
38,881 |
40,893 |
13,056 |
58.81 |
17.00 |
2019年3月 |
337,499 |
33,147 |
36,319 |
18,458 |
84.06 |
19.00 |
2020年3月(予) |
330,000 |
30,000 |
32,000 |
22,000 |
100.69 |
21.00 |
*単位:百万円、円。予想は会社側予想。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。以下、同様。
日本ゼオンの2020年3月期第2四半期決算概要などについてご報告致します。
目次
今回のポイント
1.会社概要
2.2020年3月期第2四半期決算概要
3.2020年3月期業績見通し
4.中期経営計画 SZ-20 PhaseⅢの進捗
5.今後の注目点
<参考:コーポレートガバナンスについて>
付属:Fact Sheet
今回のポイント
- 20年3月期第2四半期の売上高は前期比57億円減収の1,634億円。エラストマー素材は83億円の減収。世界経済減速の影響を受け、合成ゴム、化成品が低調だった。高機能材料は31億円の増収。光学樹脂、光学フィルム、電池材料が堅調だった。営業利益は同30億円減益の150億円。エラストマー素材は合成ゴムの数量減などで36億円の減益、高機能材料は光学フィルム、電池材料の数量増などで4億円の増益。期初予想に対しては売上、利益ともに上回った。
- 20年3月期の業績予想に変更は無い。売上高は前期比2.2%減の3,300億円、営業利益は同9.5%減の300億円を予想。高機能材料は電池材料が引き続き伸長し、光学フィルムも底入れを見込み増収増益予想。エラストマー素材は円高の影響で減収減益を予想。配当は前期比2円増配の21.00円/株の予想。予想配当性向は20.9%。
- 上期実績の通期予想に対する進捗率は売上高、営業利益ともに約5割でほぼ例年と同水準である。同社では、第3四半期以降も米中貿易摩擦継続、英国のEU離脱等、世界経済の先行き不透明感は払拭しきれず、市場環境を見極めながら、着実に収益を確保していく方針とのことだ。2021年3月期の目標である売上高5,000億円以上達成に向け、今期どれだけ上積みできるのかを注目したい。
1.会社概要
自動車部品やタイヤに使用される合成ゴムや、医療用手袋等に使用される合成ラテックスを始めとして、世界的な高シェア製品を多数保有する石油化学メーカー。独創的な技術開発力とそれを生み出す研究開発体制、高い収益性などが強み。
自動車部品、タイヤ、ゴム手袋、紙おむつ、携帯電話、液晶テレビ、香水など身の回りにある多種多様な製品に同社が製造する製品(素材)が使用されている。
グループは、同社および子会社62社、関連会社8社で構成されており、世界16か国に生産、販売拠点を有している。
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(同社資料より)
【1-1 社名と経営ビジョン】
「ゼオ」(Geo)はギリシャ語で大地、「エオン」(Eon)は永遠を意味し、その合成語「ゼオン」には「大地から原料を得て永遠に栄える」という意味が込められており、世界に誇り得る独創的技術によって、地球環境と人類の繁栄に貢献することを経営理念として掲げている(設立時は資本及び技術提携先であった米国B.F.グッドリッチ社の塩化ビニル樹脂製品の商標「Geon」を取って社名としていたが、1970年の資本関係解消を機に表記を「Zeon」と改めた)。
【1-2 沿革】
同社は、古河電工、横浜ゴム、日本軽金属の古河系3社の共同出資により、米国B.F.グッドリッチ・ケミカル社との提携による塩化ビニル樹脂製造技術の導入を前提として、1950年4月に設立された。
1951年にB.F.グッドリッチ・ケミカル社が35%の株式を取得し、技術及び資本の全面提携が成立し、翌1952年に日本で初めて塩化ビニル樹脂の量産を開始した。
1959年にはB.F.グッドリッチ・ケミカル社から合成ゴム製造技術を導入し、日本で初めて量産を開始。自動車向け需要の増大に対応し、生産設備を拡大していく。
1965年にはC4留分からブタジエン(合成ゴムの主原料)を効率よく製造する同社の独自技術であるGPB(ゼオンプロセスオブブタジエン)法による生産を開始した。
B.F.グッドリッチ・ケミカル社が事業の中核を塩化ビニル樹脂事業にシフトするのに伴い、特殊合成ゴム事業を譲り受け、1970年資本提携も解消へ。これに伴い1971年に英文社名をGeonからZeonに変更した。
同じく1971年にはC5留分から高純度のイソプレンや石油樹脂、合成香料の原料などを抽出する独自技術GPI(ゼオンプロセスオブイソプレン)法を開発し生産を開始。
1980年代に入り、合成ゴムに加えて、フォトレジストなどの情報材料、合成香料、メディカル分野など新規事業への展開を積極化させていく。
1984年、現在では世界シェアトップとなった水素化ニトリルゴムZetpol®を高岡工場で生産開始。
1990年、GPI法によって抽出、合成された高機能材料事業の主要製品であるシクロオレフィンポリマーZEONEX® を水島工場で生産開始。
1993年、電子材料事業で中国に進出した。
1999年にはゼオン・ケミカルズ(米国、現 連結子会社)が、グッドイヤーから特殊ゴム事業を買収し、特殊ゴム分野で世界トップメーカーとなる布石を打つ。
2000年、水島工場での塩化ビニル樹脂生産を打ち切り、創業事業の塩化ビニル樹脂事業から撤退した。
21世紀に入り、LCD用光学フィルムゼオノアフィルム®の上市、グローバル生産・販売体制の強化、シンガポールにおける溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)の商業運転開始、富山県氷見市のLCD用光学フィルム設備を増強、世界初 スーパーグロース・カーボンナノチューブの量産工場稼働、住友化学とS-SBR生産販売のための合弁会社設立など、積極的な事業展開を進めている。
【1-3 事業内容】
同社の主要製品は、原油を蒸留分離して得られるナフサを熱して抽出される炭素数の異なる様々な抽出物を原材料としている。ナフサを熱すると、順次、一酸化炭素ガス(C1)、エチレン(C2)、プロピレン(C3)が抽出される。
同社は、プロピレン(C3)を抽出した後のC4留分から独自開発のGPB法によって抽出したブタジエンや、その後のC5留分からGPI法によって抽出したイソプレン・モノマー、ピペレリン、ジシクロペンタジエン、2-ブチン等を原材料に加工を行い、合成ゴム、合成ラテックスを始めとした各種素材を生産している。
(同社資料より)
生産した素材そのものを顧客に販売する素材型ビジネスが中心の「エラストマー素材事業」、素材を同社において一次加工し顧客に販売する部材型ビジネスが中心の「高機能材料事業」、「その他の事業」がある。
*いずれも2019年3月期実績。消去、全社前の構成比。
<エラストマー素材事業>
「エラストマー」とは、「ゴムのように弾性に富む高分子化合物の総称」(三省堂 大辞林より)で、合成ゴムがその代表例である。沿革にあるように同社は1959年に日本で初めて合成ゴムの量産を開始しており、同事業は会社の基盤を支える事業である。内訳としては大きく、合成ゴム事業、合成ラテックス事業、化成品事業(石油樹脂、熱可朔性エラストマー)に分類される。
➀合成ゴム事業
<製品例:タイヤ>
世界トップクラスの品質を誇るタイヤ用合成ゴムを、世界の主要タイヤメーカーに納入している。製造している合成ゴムの種類には、耐摩耗性・耐老化性・機械的強度特性に優れるスチレンブタジエンゴム(SBR)、弾性・摩耗性・低温特性のバランスに優れるブタジエンゴム(BR)、天然ゴムとほぼ同様の特性をもち品質安定性に優れるイソプレンゴム(IR)等がある。
今後はSBRの特性を更に改良した低燃費タイヤ用のS-SBRの需要が急速に拡大すると見込んでおり、これに対応した供給能力増のため、シンガポール工場の第1系列が2013年9月、第2系列も2016年4月に稼働を開始した。シンガポール工場の供給能力は7万トンとなっている。
<製品例:自動車用部品>
(同社資料より)
自動車エンジンにおいては、ラジエーターホース、フューエルホース、タイミングベルト、オイルシールなどの各部品において耐油性、耐熱老化性に優れた特殊合成ゴムが用いられている。
世界No.1の特殊合成ゴムメーカーである同社はその品質の高さを評価されており、自動車用特殊合成ゴムの中で高いシェアを有している。中でも、タイミングベルト用の水素化ニトリルゴムZetpol®は耐熱性、耐油性、機械的強度特性に優れており、世界で高いシェアを占めている。
また従来品の性能を大きく向上させたZetpol®の新製品を開発した。これは従来製品比で+10℃も耐熱性を改善させたもので、従来のシール・ガスケット部品の長寿命化に対応できるだけでなく、次世代バイオ燃料を用いたエンジン向けにも需要が拡大すると見込んでいる。さらに、押出加工性が良好であることからホース用途にも展開が広がってきた。顧客の評価も上々で、高価なゴムの代替材を中心として、国内、アジア、欧米で採用が進んでいる。
➁合成ラテックス事業
合成ラテックスとは、合成ゴムを水中に分散させた液状ゴムのことで、ゴム手袋をはじめ、紙加工、繊維処理、接着剤、塗料、化粧パフ等に使用される。化粧用パフ用アクリロニトリルブタジエン(NBR)ラテックスは世界でも高いシェアを有している。
➂化成品事業
C5留分から製品化を行う同社独自のGPI法により粘着テープ・ホットメルト接着剤用素材、トラフィックペイント用バインダー等、幅広い製品化を行っている。
<高機能材料事業>
独創的技術である高分子設計や加工技術によって、高付加価値を有した材料・部材を扱っている。
光学樹脂関連及び光学フィルムなど高機能樹脂事業と、化学品、電子材料、トナー、電池材料など高機能ケミカル事業、メディカルデバイス事業からなる。
➀高機能樹脂事業
◎光学樹脂関連及び光学フィルム
GPI法によってC5留分から抽出、合成されたシクロオレフィンポリマーは、独自技術で開発した熱可塑性プラスチックで、製品としてZEONEX® とZEONOR®がある。
ZEONEX®は高透明性、低吸水性、低吸着性、耐薬品性を活かして、カメラレンズやプロジェクターレンズなどの光学部品、シリンジやバイアルなどの医療用容器に使用されている。
ZEONOR®は高透明性や転写性、耐熱性等を活かし、透明汎用エンプラとして、導光板や自動車部品、半導体容器などの幅広い分野で使用されている。
シクロオレフィンポリマーから、世界初の溶融押出法で開発された光学フィルムがゼオノアフィルム®で、光学特性、低吸水・低透湿、高耐熱性、低アウトガス、寸法安定性に優れ、液晶テレビやスマートフォン、タブレット端末のディスプレイに使用されているほか、有機ELディスプレイなど幅広い用途での利用が期待されている。
(同社資料より)
また、同社では世界で初めて「斜め延伸位相差フィルム」を開発し、生産している。
有機ELの光反射防止フィルムとしての採用も進んでおり、今後も中小型用フラットパネルディスプレイ向けの需要拡大が見込まれることから、高岡および氷見の2工場(合計 年間生産 1,500万㎡)に加えて、2013年10月に福井県敦賀市にも工場が完成。
他にも、携帯電話、スマートフォン、液晶テレビ用途に代表される、電子デバイス向け塗布型有機絶縁材料ZEOCOAT®がある。ZEOCOAT®は、透明性が高く、吸水性が非常に低いほか、膜からガス成分を発生しにくいためディスプレイの画質と信頼性の向上を同時に達成することができる。
今後、液晶に比べ薄く成型できる有機ELディスプレイ向けに拡販を積極的に進めるとともに、新しい半導体を用いた薄膜トランジスタやフレキシブルディスプレイ用の絶縁材料での採用を目指している。
◎電池材料
リチウムイオン電池用材料として負極及び正極、機能層(耐熱セパレータ―)用バインダー、シール剤を供給している。
現在、リチウムイオン電池は携帯電話、ノートパソコンなどのモバイル機器の電源として広く使用されている。
また、スマートフォンの急速な普及により、その高容量化は強く求められている。
さらに、軽量・小型でありながら、大きなエネルギーを蓄えられることから、ハイブリッドカー、プラグインハイブリッドカー、電気自動車向け、スマートグリッドなどの産業電源向けの採用も始まっているが、一方で、高温下で使用した場合、寿命が低下しやすいといった課題があった。
同社は、リチウムイオン電池バインダーの高機能化を進め、正極用バインダーとして寿命の低下抑制に大きく貢献する水系機能性バインダーの開発に成功し、また、リチウムイオン電池の蓄電容量を従来比5~15%上げられる負極用バインダーの製品化にも成功した。
正極・負極・機能層(耐熱セパレータ―)用バインダー及びシール剤はリチウムイオン電池の「安全性」、「寿命」、「電池容量アップ」に寄与し、電気自動車の普及に貢献するものと考えている。
リチウムイオン電池の将来性に注目し、早くから取り組んできた同社では、エナジー用部材事業の2020年のありたい姿として、「リチウムイオン電池バインダー市場でのトップシェアを維持」するとともに、急速充電など自動車用途でのニーズに応えた新しい材料機能の普及拡大や次世代の新しい電池の実現に向けた機能性材料の提案ができることを目指している。
(同社資料より)
◎化学品
C5留分より得られる原料を活用して食品・香粧品用の合成香料や、特徴ある溶剤及び植物調整剤などの特殊化学品を扱っている。
グリーン系の合成香料では世界一のシェアを有している他、医農薬中間体の原料やフロン代替用途などの溶剤・洗浄剤・ウレタン発泡剤及び機能性エーテル溶剤など、幅広い産業分野に特徴ある製品を供給している。
②メディカルデバイス事業
メディカルデバイス市場は、景気の影響が少なく、また日本における高齢化の進行と新興国の市場拡大で成長が見込まれる一方、医療機器の製造・販売会社に対する法的要件が厳格であるほか、薬事承認申請作業が必要で、医療従事者との関係作りが不可欠であること等から参入障壁が高く、魅力的な市場であると同社では考えている。
同社は、1974年に人工腎臓の開発を開始したのを皮切りにメディカルデバイス事業を積極的に推進し、1989年に子会社ゼオンメディカル株式会社を設立し、同社グループ内で開発・製造・販売・薬事のすべての分野における対応が可能な体制を構築している。
消化器系製品では、胆道結石除去用の差別化製品である「オフセットバルーンカテーテル」、国産初の胆管カバードステント「ゼオステントカバード」、また循環器系製品では、急性心筋梗塞時等に心臓の拍動を補助するデバイスとして、世界最細径の「ゼメックス IABPバルーンプラス」など、豊富な開発実績を有している。
(同社資料より)
現在注力しているのが、胆道結石による痛みからの解放につなげる結石除去デバイスである。
同社の開発製品であるゼメックスクラッシャーカテーテル、ゼメックスバスケットカテーテルNT、エクストラクションバルーンカテーテルなど、巨大結石から胆泥・胆砂まであらゆる胆道結石を除去できるデバイスをラインアップしており、結石除去デバイス全体で50%のシェア獲得を目指す。
また、2016年3月には、ガイドワイヤータイプとしては世界初の光センサー型FFRデバイスを上市した。光ファイバー型センサーであることから血圧測定のズレが起こりにくい。ガイドワイヤーとしての操作性も高い評価を得ており、シェアを伸ばしている。
【高機能新規素材開発例 ~カーボンナノチューブ(CNT)~】
積極的な研究開発によって様々な新素材を世の中に送り出してきた同社だが、今後大きな成長が期待されるのが「単層CNT」だ。
①単層CNTとは?
1993年、独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研) ナノチューブ応用研究センター長の飯島 澄夫博士によって世界で初めて蜂の巣上の炭素原子が網目のように結び付いた、筒状分子構造の物質が発見され、「カーボンナノチューブ(CNT)」と命名された。その構造により、単層CNTと多層CNTに大きく分類できる。多層CNTは比較的生産が容易であることから国内外において実用化への応用開発が推進されている。
(同社資料より)
一方、単層CNTは、「鋼の20倍の強度」、「銅の10倍の熱伝導性」、「アルミの半分の密度」、「シリコンの10倍の電子移動度」など、「軽量かつ高強度でありながら高い柔軟性を持つ」、「電気や熱伝導性が極めて高い」といった、多層CNTを上回る優れた特性を持つ。
例えば、リチウムイオン電池の導電助剤への展開、高い伸縮性や強度を持つことから、電子ペーパーや超薄型タッチパネル用の透明導電膜のほか、放熱材料への利用なども考えられている。また、広帯域の光を吸収できる特性があるため、電磁波吸収材としての実用化研究も進んでおり、エネルギー分野、エレクトロニクス分野、構造材料分野、高機能材料分野等、幅広い場面での応用が見込まれている。
(単層CNT融合新材料研究開発機構 HPより)
しかし、従来の単層CNTは、不純物が多く、且つ生産性が低いために、製造コストが高く1g当たり数万~数十万円もしているのが大きな課題であった。
②同社の取組み&位置づけ
このような背景の中、低炭素社会の実現というグローバルな社会的要請に応え、日本で発見された数多くの優れた特性を持つ単層CNTを応用した新製品を世界に先駆けて事業化、工業化するための技術の確立に取り組んでいる。
同社と産総研が、「スーパーグロース法」という2004年に産総研 畠賢治博士らによって開発された合成技術をベースにして、産総研のつくばセンター敷地内に2010年12月に開設した実証プラントで量産化に向けた研究開発および供給(2011年4月から、産総研より量産品のサンプル供給を開始)を担当し、複合材料の用途開発を上記の研究組合が進めている。
産総研 ナノチューブ応用研究センターが量産化のためのパートナーに同社を選定したのは、同社の荒川公平氏(前取締役常務執行役員)がCNT研究開発者として豊富な実績と成果を有していた事が大きな理由だということであり、単層CNT実用化プロジェクトにおける同社の重要性は大変大きなものである。
③今後の展開
スーパーグロース法を基にした量産化技術を確立した同社は、2015年11月、山口県周南市の徳山工場内に量産プラントを竣工させ、世界初の量産を開始した。
単層CNTの量産化技術を確立しているのは世界でも同社のみであり、国内外約100社から問い合わせが来ており、順次サンプル出荷を行っており、同社自らも他社に対し用途提案も行っている。
一方、単層CNTは、ナノ材の一種でありそのサイズが極めて小さい事、形状が繊維状であることから化学的な特性以外に、サイズや形状によって生体への侵入などによる影響があるのではないかという懸念も指摘されている。
現在、産総研を中心に評価手法の標準化、OECDのエンドポイント測定等の取組みが進められており、国際標準化、法規制化が順次行われると考えられている。
<その他の事業>
反応射出成形法(RIM成形法)で使用されるジシクロペンタジエンを原料としたRIM配合液を取り扱っている。
【1-4 ROE分析】
|
14/3期 |
15/3期 |
16/3期 |
17/3期 |
18/3期 |
19/3期 |
ROE(%) |
11.7 |
9.8 |
8.6 |
10.3 |
5.3 |
7.2 |
売上高当期純利益率(%) |
6.63 |
6.20 |
6.12 |
8.05 |
3.92 |
5.47 |
総資産回転率(回) |
0.82 |
0.80 |
0.75 |
0.72 |
0.78 |
0.79 |
レバレッジ(倍) |
2.15 |
1.98 |
1.86 |
1.77 |
1.71 |
1.69 |
売上高当期純利益率、レバレッジともに低下傾向にあることからROEは日本企業が一般的に実現すべきと言われている8%を下回っている。高機能材料セグメントの成長を中心とした収益性の向上が期待される。
【1-5 特長・強み】
1.世界トップクラスの独創的な技術開発力
C4留分からブタジエンを製造するGPB法は戦後の日本化学史上トップクラスの技術開発であり、アメリカ、韓国を始め世界19か国49プラントに技術供与している。
また、C5留分から高純度のイソプレンや石油樹脂、合成香料の原料などを製造するGPI法も同社オリジナルで、水島工場が世界で唯一の抽出プラントであり、他社には技術供与していないオンリーワンの技術である。
この2つの技術に代表される独創的な技術開発力が同社の大きな強みであり、世界的に高く評価されており、国内外で数々の賞を受賞している。技術関係では、GPB法、GPI法はもちろんのこと、1960年から現在までに48の賞を、環境・安全関係では1982年から現在までに26の賞を受賞している。
2.世界的な高シェア
Zetpol®、ZEONEX®、ZEONOR®に代表される同社の独創的技術から生み出された様々な製品は、世界的に高いシェアを獲得している。これ以外にも、化粧品や食品フレーバーに使用されるリーフアルコール、化粧用パフ用NBRラテックスなども「世界No.1」製品となっている。
3.独創的な技術を生み出し続ける研究開発体制
「特定の得意分野で独創的技術を開発し、世界一事業を創出して社会に貢献する。」との基本理念に基づき、研究開発に取り組んでいる。
主要研究拠点は神奈川県川崎市にある「総合開発センター」だが、製造現場に近いところで研究開発を行うことが効率的であるとの考えから、高岡工場に精密光学研究所およびメディカル研究所を、米沢工場に化学品研究拠点を、徳山工場にトナー研究所を、水島工場に化成品研究室を設立した。また海外では、アメリカ・ドイツ・シンガポール・中国に技術サポート拠点を有している。
研究員は現状に満足することなく、適度な危機感を保ちつつ、研究にあたっているということだ。また会社も加点主義に基づく評価を行い、スピードと独創性を重視している。R&D費について従来は対売上高比を基準としていたが、安定的な研究開発を継続していくため、今後は年間160億円程度を目途にしていく考えだ。
2.2020年3月期第2四半期決算概要
(1)連結経営成績
|
19/3期2Q |
構成比 |
20/3期2Q |
構成比 |
前年同期比 |
期初予想比 |
売上高 |
169,031 |
100.0% |
163,358 |
100.0% |
-3.4% |
+2.1% |
売上総利益 |
49,286 |
29.2% |
47,361 |
29.0% |
-3.9% |
– |
販管費 |
31,307 |
18.5% |
32,341 |
19.8% |
+3.3% |
– |
営業利益 |
17,979 |
10.6% |
15,020 |
9.2% |
-16.5% |
+3.6% |
経常利益 |
20,273 |
12.0% |
16,045 |
9.8% |
-20.9% |
+3.5% |
四半期純利益 |
14,549 |
8.6% |
11,550 |
7.1% |
-20.6% |
+5.0% |
*単位:百万円。
減収減益
売上高は前期比57億円減収の1,634億円。エラストマー素材は83億円の減収。世界経済減速の影響を受け、合成ゴム、化成品が低調だった。高機能材料は31億円の増収。光学樹脂、光学フィルム、電池材料が堅調だった。
営業利益は同30億円減益の150億円。エラストマー素材は合成ゴムの数量減などで36億円の減益、高機能材料は光学フィルム、電池材料の数量増などで4億円の増益。
期初予想に対しては売上、利益ともに上回った。
(2)セグメント別動向
|
19/3期2Q |
20/3期2Q |
前年同期比 |
売上高 |
|
|
|
エラストマー素材事業 |
100,224 |
91,920 |
-8.3% |
高機能材料事業 |
42,411 |
45,471 |
7.2% |
その他 |
27,565 |
27,015 |
-2.0% |
調整 |
-1,169 |
-1,048 |
– |
合計 |
169,031 |
163,358 |
-3.4% |
営業利益 |
|
|
|
エラストマー素材事業 |
9,545 |
5,967 |
-37.5% |
高機能材料事業 |
8,745 |
9,189 |
5.1% |
その他 |
1,265 |
1,170 |
-7.5% |
調整 |
-1,577 |
-1,305 |
– |
合計 |
17,979 |
15,020 |
-16.5% |
*単位:百万円。
【エラストマー素材】
減収・減益。
売上高は前年同期比83億円減収の919億円。合成ゴムが世界経済減速の影響を受け、自動車産業および一般工業用向けに国内・輸出・海外子会社ともに低調だった。化成品も、水島工場の定期検査実施により生産量見合いの出荷となり低調で、石油樹脂はアジア市場落ち込みの影響を受けた。
営業利益は同36億円減少の59億円。原価はプラス寄与したが、合成ゴムや化成品の出荷量減少、原料フォーミュラによる価格低下などが影響した。営業利益率は前年同期の9.5%から6.5%へ3ポイント低下した。
合成ゴムのうち、主にタイヤ用途の汎用ゴムにおいてタイヤ向け需要は弱含みで推移したがBRやS-SBRが伸びて数量は前年同期比3%の増加。
主に自動車産業用途の特殊ゴムは世界的な需要減少と市況低迷により数量は同9%の減少となった。
【高機能材料】
増収・増益
売上高は前年同期比31億円増収の454億円。高機能樹脂は光学樹脂関連、光学フィルム関連が堅調。高機能ケミカルは電池材料が堅調だった。
営業利益は同4億円増の91億円。価格低下、販管費増があったものの、光学フィルムや電池材料などの数量増による数量要因に加え、光学フィルムの稼働増で原価要因がプラス寄与した。
営業利益率は前年同期の20.6%から20.2%へ0.4ポイントの低下。
堅調だった電池材料のうちEV向けは数量ベースで前年同期比23%増。国内および欧米自動車メーカー向け販売が好調だった。EV向け以外は、同9%の数量増。パワーツール向け採用機種が拡大した。
【その他】
減収・減益。
商社部門の販売、RIM事業ともに低調だった。営業利益率は前年同期の4.6%から4.3%へ0.3ポイント低下した。
(3)財政状態
◎主要バランスシート
|
19/3月末 |
19/9月末 |
増減 |
|
19/3月末 |
19/9月末 |
増減 |
流動資産 |
227,238 |
208,580 |
-18,658 |
流動負債 |
130,039 |
107,716 |
-22,323 |
現預金 |
37,534 |
35,193 |
-2,341 |
買入債務 |
82,414 |
61,978 |
-20,436 |
売上債権 |
78,352 |
73,145 |
-5,207 |
短期借入金 |
12,125 |
12,125 |
0 |
棚卸資産 |
71,125 |
67,768 |
-3,357 |
固定負債 |
35,742 |
36,266 |
+524 |
固定資産 |
197,700 |
202,503 |
+4,803 |
長期有利子負債 |
12,000 |
12,000 |
0 |
有形固定資産 |
102,323 |
108,380 |
+6,057 |
負債合計 |
165,781 |
143,982 |
-21,799 |
無形固定資産 |
3,197 |
3,057 |
-140 |
純資産 |
259,156 |
267,101 |
7,945 |
投資その他の資産 |
92,179 |
91,066 |
-1,113 |
自己資本 |
256,167 |
264,003 |
7,836 |
資産合計 |
424,937 |
411,083 |
-13,854 |
負債・純資産合計 |
424,937 |
411,083 |
-13,854 |
*単位:百万円。売上債権には電子記録債権を、買入債務には電子記録債務を含む。
現預金、売上債権及び棚卸資産減などで流動資産は前期末に比べ186億円減少。光学フィルム生産設備増設などで固定資産合計は同48億円増加し、資産合計は同138億円減少した。
期末休日の影響で買入債務が204億円減少したことなどから負債合計は同217億円減少した。
利益剰余金の増加などで純資産は同79億円の増加。この結果自己資本比率は64.2%と前期末より3.9ポイント上昇した。D/Eレシオは前期末の0.09から変わらず。
◎キャッシュ・フロー
|
19/3期2Q |
20/3期2Q |
増減 |
営業CF |
19,656 |
11,164 |
-8,492 |
投資CF |
-7,296 |
-10,616 |
-3,320 |
フリーCF |
12,360 |
548 |
-11,812 |
財務CF |
-18,811 |
-2,356 |
+16,455 |
現金・現金同等物 |
33,195 |
32,718 |
-477 |
税金等調整前当期純利益の減少や期末休日の影響により営業CFのプラス幅は縮小。
光学フィルム生産設備増設などで有形固定資産の取得による支出が増加し投資CFのマイナス幅は拡大し、フリーCFのプラス幅は縮小した。社債償還による支出および自己株式の取得による支出が減少し、財務CFのマイナス幅は縮小。
キャッシュポジションはほぼ変わらず。
3.2020年3月期業績見通し
【通期業績】
|
19/3期実績 |
構成比 |
20/3期予想 |
構成比 |
前期比 |
進捗率 |
売上高 |
3,375 |
100.0% |
3,300 |
100.0% |
-2.2% |
49.5% |
エラストマー素材 |
1,981 |
58.7% |
1,900 |
57.6% |
-4.1% |
48.4% |
高機能材料 |
851 |
25.2% |
860 |
26.1% |
+1.1% |
52.8% |
その他 |
567 |
16.8% |
565 |
17.1% |
-0.4% |
47.8% |
消去 |
-25 |
– |
-25 |
– |
– |
– |
営業利益 |
331 |
9.8% |
300 |
9.1% |
-9.5% |
50.0% |
エラストマー素材 |
177 |
5.2% |
144 |
4.4% |
-18.6% |
41.0% |
高機能材料 |
161 |
4.8% |
170 |
5.2% |
+5.6% |
53.5% |
その他 |
-7 |
– |
-14 |
– |
– |
– |
営業外収支 |
32 |
0.9% |
20 |
0.6% |
-37.5% |
50.0% |
経常利益 |
363 |
10.8% |
320 |
9.7% |
-11.9% |
50.0% |
当期純利益 |
185 |
5.5% |
220 |
6.7% |
+19.2% |
52.3% |
*単位:億円。セグメント利益の構成比は、売上高営業利益率。
【各種前提】
|
19/3期 実績 |
20/3期 予想 |
前期比 |
円/ドル |
110.7 |
105.0 |
-5.1% |
円/ユーロ |
128.7 |
120.0 |
-6.8% |
国産ナフサ(円/kl) |
49,500 |
39,000 |
-21.2% |
アジア・ブタジエン(ドル/t) |
1,372 |
1,250 |
-8.9% |
業績予想に変更は無い。減収減益予想
業績予想に変更は無い。売上高は前期比2.2%減の3,300億円、営業利益は同9.5%減の300億円を予想。
高機能材料は電池材料が引き続き伸長し、光学フィルムも底入れを見込み増収増益予想。エラストマー素材は円高の影響で減収減益を予想。株主還元をより充実させるため中間配当を1円/株増配の11円/株とした。年間配当は21.00円/株の予定。予想配当性向は20.9%。
4.中期経営計画 SZ-20 PhaseⅢの進捗
2018年3月期を初年度とする4年間の「中期経営計画 SZ-20 PhaseⅢ」の進捗状況は以下の通り。
<全社戦略>
成長 |
①
② |
オールゼオンの強みを組み合わせる『深化』と、壁を越えて外部と連携する『探索』によって、世界中にソリューションを提供し、社会に貢献する。 『重点開発領域』での新事業創出、新製品開発を加速する。 重点開発領域として、地球環境、スマート化、健康と生活を挙げている。 |
風土 |
③ |
多様な考え方を活かし、まずやってみて、前向きに行動することを尊重する組織風土を育成する。 |
重点開発領域としては、成長可能性およびイノベーションの発生確率の高い領域として「地球環境(省エネ、自動車関連、発・蓄電など)」、「健康と生活(自動運転、医療機器・素材、生活関連など)」、「スマート化(IoT関連)」を挙げている。
「スピード」、「対話」、「社会貢献」の下、仲間との相互信頼を今以上に醸成し、2020年度のありたい姿として、「化学の力で未来を今日にするZEON」を掲げ、連結売上高5,000億円以上の実現を目指している。
<全社業績>
SZ-20 PhaseⅢに入り、18年3月期、19年3月期と2期連続で過去最高の売上高を更新。20年3月期はエラストマー素材事業では自動車産業、一般工業用等が減速し減収減益の予想。一方高機能材料事業は光学樹脂、光学フィルム、電池材料が堅調で過去最高の売上高・営業利益を記録する見込み。全社では微減収とはなるが、3,300億円台が定着したと会社側は考えている。
また、重要な経営指標と位置付けているROEは、シンガポール子会社の減損が終了したため今期8%台へ回復する見込みで、前中計SZ-20PhaseII時水準への回復を目指す。
株主還元は安定的かつ継続的な配当を目標としており、今期で10期連続増配の予定である。
<セグメント別戦略>
|
エラストマー素材事業 |
|
高機能材料事業 |
☆
☆ |
成長市場へのグローバルな対応とコスト競争力強化によって、強みを発揮できる事業を更に深化させる。 蓄積してきた市場からの信頼とお客様との関係を活かして、新たな可能性を探索し、成長に繋げる。 |
☆ |
重点的なリソース投入と外部との連携強化によって、市場成長と技術発展のスピードに対応して事業を拡大する。 |
①エラストマー素材事業
◎投資の状況
川崎工場における特殊架橋タイプZetpol®ドライ品の生産能力増強投資を行ってきたが、2019年9月に完工した。生産能力は従来の1.5倍となった。
また、タイ工場においてアクリルゴム製造工場を建設中で、2020年春完工予定である。生産能力は年産5,000トンの予定。
◎特殊ゴム
環境問題からEVや燃料電池車の普及が見込まれるが、コストや効率面から内燃機関搭載車の販売台数は今後も一定数を維持すると予想される。
そのため自動車産業向けに幅広く用いられている特殊ゴムの重要性は引続き大きく、同社では安定供給により、産業を支えていく考えだ。
Zetpol®は特殊架橋タイプの販売が着実に伸長している。
またアクリルゴムに関しては上記のようにタイでの増産体制を構築中である。
また、2017年に設立したAsiaTechnicalSupportLaboratoryでは顧客対応と、それに伴うゴムの販売等、活動を継続中だ。
◎S-SBR (溶液重合スチレンブタジエンゴム)
住友化学と同社のポリマー変性技術及び生産技術を融合させ、自動車軽量化とともにニーズの高いタイヤの「ウェットグリップ性」、「低燃費性」、「耐摩耗性」の向上を実現する新製品を開発中で、2021年の販売開始を予定。
世界のリーディングポジションを目指していく。S-SBR販売数量は2021年には2017年の約1.2倍まで拡大する見込み。
➁高機能材料事業
◎投資の状況
高岡工場において原反フィルムの生産能力を増強中で2020年春稼働予定。
また敦賀工場にて大型TV用光学フィルムの新ラインを建設中で2020年4月の稼働開始を計画している。生産能力は年産5,000万㎡。加えて、水島工場でCOPの生産能力増強投資を実施中で、2021年7月完工予定である。年産能力は4,600トン。
◎光学フィルム事業の強み
同社では以下4つの強みを持つと考えている。
強み |
概要 |
原料の強み |
オリジナル技術GPI法から得られるジシクロペンタジエンの展開力 |
樹脂の強み |
GPI法により得られた原料から合成された樹脂自体の持つ、耐熱性、耐湿性、加工性などの特徴 |
加工技術の強み |
溶融押出プラス延伸技術は同社ならではの技術 |
一貫生産の強み |
ポリマー設計から製造・加工までを一貫生産できるため市場の要求をスピーディーにポリマー設計に反映することができる。 |
◎高機能樹脂
(車載センシングカメラ用として、高耐熱性シクロオレフィンポリマーZEONEX®T62Rの採用が決定)
ZEONEX®T62Rは、耐熱性が要求される車載センシングカメラのレンズ用に開発された樹脂。
自動車の先進運転支援システムに搭載される重要なデバイスであるセンシングカメラは、高温・長時間の環境下で使用されるが、レンズ素材として従来使用されてきたプラスチックは長時間の高熱による黄変劣化や熱変形のため、高い視認性が求められるセンシングカメラ用途には適していなかった。
また、従来のシクロオレフィンポリマー(COP)は、ガラス転移温度を高くすることで優れた耐熱変形性を有する一方で、高温環境下では黄変し易いという性質があったが日本ゼオンが開発したZEONEX®T62Rは、耐熱変形性に優れ、高温環境下での黄変を抑えることに成功している。
こうした点を評価され採用が決定したとのことだ。
(医療/医薬用途樹脂としての特徴をアピール)
既に薬剤が充填されている注射器「プレフィルドシリンジ」は、感染の危険性を減らすことができる、正確な量の注射剤をあらかじめ充填しておくことで調製時の属人的なミスを減らすことができる、救急時すぐに投与できるといった点が評価され使用が拡大している。
同社は、2019年5月に巨大市場米国での浸透を目指し、シリンジ用樹脂としてCOPの特長をFDA(Food and Drug Administration、アメリカ食品医薬品局)に説明した。
また、2019年10月にはスウェーデンで開催されたプレフィルドシリンジに関する学会で、「ガラスに匹敵する透明性、低不純物性、防湿性、化学的安定性」、「ガラスより優れた機械強度、極めて少ないタンパク質の吸着・凝集」などを発表した。
◎電池材料
リチウムイオン電池の高容量化や自動車への搭載に伴い、安全性向上のため、機能層を形成したセパレータが急速に拡大している。
同社の電池材料は、シール材料においては電池の液漏れ防止に貢献し長寿命に貢献するほか、機能層用バインダーは2015年の上市以降、自動車用を中心に採用が拡大しており安全性を大幅に向上させている。また、正極用・負極用バインダーにおいては、充放電に伴う膨張収縮を低減することで長寿命・安全性へ貢献しているほか、活物質の表面で起こっている化学反応を補助し高出力を可能にしている。
同社の電池材料売上は、リチウムイオン電池市場全体を大きく上回る伸びが見込まれている。
◎電子材料
次世代電子部品向け電子線レジスト「ZEP530A」を上市した。
超高解像度電子線レジストZEP530Aは、解像性とドライエッチング耐性に優れ、プロセスマージンの広い主鎖切断型のポジ型電子線レジストで、薄膜形成が可能である。
高周波用途としての5G半導体、高電圧用途としてのパワー半導体など化合物半導体プロセス用途に適しており、「第5世代移動通信システム:5G」の普及が近づく中、同社では電子線レジスト売上は2025年には2015年比倍増、CAGR(年平均成長率)11%と大きな成長を見込んでいる。
◎メディカルデバイス
低侵襲医療機器国内市場は、前年比2.2%の成長を続けており、中でもFFR(※)は20%を超える高成長市場である。
同社では、循環器系においては、精度と信頼度の向上により2016年に上市した光センサー型FFRで市場シェアアップを目指している。
また消化器系においては低侵襲デバイスの提供に注力しており、2018年には新型胆石除去バルーンや新型胆管ステントを上市したが、今20年3月期第4四半期には新型止血鉗子、新型クリップを上市する予定。
同社メディカルデバイス売上は、2020年度までに2017年度比約2倍まで拡大する計画である。
※FFR(冠血流予備量比)
冠動脈内に狭窄病変があるとき、狭窄病変によってどのくらい血流が阻害されているかを推測する指標
<CSRへの取り組み>
同社はCSR基本方針として、「コンプライアンスを徹底し、社会の安全・安心に応える」、「企業活動を通じ、社会の持続的発展と地球環境に貢献する」、「一人ひとりがCSRを自覚し、行動する」を掲げ、SDGs(持続可能な開発目標)も踏まえ、以下のような具体的なアクションをとっている。
国連グローバル・コンパクト(UNGC)に署名
「UNGC10原則」を支持し、持続可能な社会の実現のため、世界標準を尊重した企業活動を推進していく。
東北ボランティア活動継続中
東日本大震災を受け、2012年10月より7年間で66回開催しのべ520名が参加した。現在は農業支援、漁業支援などを実施している。
CLT工法での社員寮建設
CLTとは、Cross Laminated Timberの略称で、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料。スピーディーな施工が可能、優れた断熱性といったメリットに加え、森林資源の有効活用といった点から近年急速に使用が拡大している。
同社では水島工場の社員寮建設に際し、490万㎡相当分の地元岡山県産間伐材を使用した。
LNESソーラーカード式ランプ
同社がオープンイノベーションプロジェクトとして展開する「project LNES」が、ソーラーカード式ランプを製品化した。
プラスチックソーラーの可能性を追求する「project LNES」は、ナノカーボン技術を応用したソーラーカードをコアテクノロジーとして、さまざまな商品開発を進めてきたが、ソーラーカード式ランプはその第一弾。
日中の太陽光で充電し、ソーラーカードに接続されたランプが夜間に灯る照明デバイスで、クラウドファンディングで資金を募集した。
5.今後の注目点
上期実績の通期予想に対する進捗率は売上高、営業利益ともに約5割でほぼ例年と同水準である。
同社では、第3四半期以降も米中貿易摩擦継続、英国のEU離脱等、世界経済の先行き不透明感は払拭しきれず、市場環境を見極めながら、着実に収益を確保していく方針とのことだ。
2021年3月期の目標である売上高5,000億円以上達成に向け、今期どれだけ上積みできるのかを注目したい。
<参考:コーポレートガバナンスについて>
◎組織形態及び取締役、監査役の構成>
組織形態 |
監査役会設置会社 |
取締役 |
10名、うち社外3名 |
監査役 |
5名、うち社外3名 |
◎コーポレートガバナンス報告書
最終更新日:2019年7月4日
<基本的な考え方>
当社は、株主をはじめとする多様なステークホルダーの利益を尊重し、利害関係を調整しつつ収益を上げ、企業価値を継続的に高めることを目指します。その実現のために、コーポレートガバナンスを通じて効率的かつ健全な企業経営を可能にするシステムを構築する努力を継続します。
また、内部統制システムを整備することにより、各機関・社内組織の機能と役割分担を明確にして迅速な意思決定と執行を行います。その経過および結果については適切な監視と情報公開を行い、経営の透明性の向上に努めます。
<実施しない主な原則とその理由>
(すべての原則について、2018年6月改訂前のコードに基づき記載しております)
当社はコーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しております。
<コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づいて開示している主な原則>
原則 |
開示内容 |
【原則1-4 いわゆる政策保有株式】 |
・他社の株式を政策保有するにあたっては、その保有が取引先、地域社会その他のステークホルダーとの関係強化をもたらし、ひいては中長期的視点で当社の企業価値向上に資するものかどうか等を十分に検討します。 ・このような検討を経て取得した株式については、毎年個別銘柄ごとに保有目的の適切性や保有に伴う便益およびリスクが資本コストに見合っているか等を精査し、保有の適否を検証します。直近では2018年10月31日開催の取締役会において検証を実施し、保有の意義を失ったと認められる銘柄につきましては、縮減の可能性の検討を進めてまいります。 ・政策保有株式の議決権については、投資先企業の中長期的な企業価値向上の観点からその行使の判断を行います。 |
【原則5-1 株主との建設的な対話に関する方針】 |
・当社における株主との対話は広報室が主管し、CSR担当役員が統括します。 ・広報室は、経営企画部、経営管理部、総務部、法務部等と適宜情報交換を行い、株主に対する正確かつ偏りのない情報提供を行います。 ・当社は、四半期毎の投資家向け説明会の開催、当社WEBサイトにて開示する決算説明資料の充実、個人投資家向け会社説明会への参加など、 個別面談以外の対話の手段の充実にも継続的に取り組みます。 ・広報室は、株主との対話にて寄せられた意見について適宜整理・分析を行い、代表取締役に報告します。 ・当社は、インサイダー取引・適時開示等管理規程に基づき、未公表の重要事実の管理を徹底し、情報漏洩のないよう株主との対話を行います。 |