SBIグループにおける金融事業の広がり
・SBI HD(ホールディングス)のインフォメーション・ミーティングはいつもおもしろい。北尾社長の2時間のプレゼンテーションは迫力がある。今年5月に開催された東京会場(1300名参加)は都合がつかなかったので、6月の名古屋(約800名参加)に出かけてみた。
・印象深い点を取り上げてみる。2025年3月期の業績は好調であった。ROEは12.8%となり、これは野村HDの10.0%、大和証券G本社の9.8%を上回った。
・セグメントは、①金融サービス事業、(税前利益2253億円)、②資産運用事業(同54億円)、③PE投資事業(同671億円)、④暗号資産事業(同212億円)、⑤次世代事業(同-99億円)の5つである。暗号資産事業もしっかり稼いでいる。株主優待で、暗号資産XRPが付与されるコースもある。今回申し込んでみた。
・次世代の金融業を創造すべく、既存の生態系(エコシステム)と融合するようなデジタルスペース生態系の構築に力を入れている。BC(ブロックチェーン)などのデジタル技術が進化している。今年8月に暗号資産CFO(Contract For Difference:差金決済取引)を開始した。暗号資産ETFや暗号資産組み入れファンドの立ち上げも検討している。
・創業30周年の2029年3月期には、1)グループ顧客基盤1億件(2025年3月期5442万件)、2)税前利益5000億円(同2823億円)、3)海外事業利益比率30%(同17%)、4)ROE 15%(同12.8%)を目指す。金融を核に、金融を超える各事業の生態系の融合を図っていく。
・①証券事業では口座数3000万件(現在1400万件)、②銀行事業ではSBI新生銀行が公的資金返済を済ませて再上場を実現する、③資産運用事業ではAUM(運用資産残高)20兆円を超え、④デジタル金融でさらなる拡大を進める。
・証券事業では、個別株オプション、暗号資産CFDの新サービス、ST(セキュリティ・トークン)はよるトークン化資産(社債、不動産、PE等)、ビットコイン先物の上場(堂島取引所)、安心・安全な取引(FIDO認証:生体認証の活用)の整備を推進している。
・銀行事業では、SBI新生銀行の約2300億円の公的資金を返済し、再上場後、同行をコアとする「第4のメガバンク構想」を強力に推進する。SBIグループは既に全国100社超の地域金融機関と提携している。
・地方創生に向けた地域プラットフォーム事業、地域金融機関のクラウドベース勘定システム共有などを図っていく。また、地域の事業継承問題の解決に資する事業継承ファンド(1号:2019年109億円、2号:2022年312億円、3号:今年中に500億円目処)を拡大していく。
・海外事業では、銀行(韓国、ロシア、カンボジア、ベトナム)、証券(タイ、カンボジア、インドネシア、ベトナム)、ノンバンク(ニュージーランド、オーストラリア)、保険(カンボジア)などで、領域を広げている。さらに、サウジアラビアへの展開も強化している。
・資産運用事業では、オルタナティブ商品の提供を一段と拡大する。KKRのオルタナ資産、Manグループのオルタナ戦略ファンド、フランクリンテンプルトンのデジタル資産などと連携している。これらを含めて、2025年3月期のAUM 10.5兆円を2027年度中に20兆円を突破させようとしている。
・国内の暗号資産領域では、税制を含む制度改正の動きが活発である。キャピタルゲイン課税が分離課税(20%)となれば、取引は一段と拡大しよう。SBI HDは米国のCircle社とJVを設立し、国内におけるUSDCの普及を推進している。USDCは米ドル連動のステーブルコイン(1対1の対応で米ドルに連動する仮想通貨)で、米国政府もその活用を推進しようとしている。
・PE投資では、先端テクノロジー分野のベンチャー企業への投資を継続する。SBIデジタルスペースファンドでは、最大1000億円規模を目指し、AI、ビックデータ、半導体、フィンテック、ロボティクス、ヘルスケア、デジタルスペースへの投資を開始している。Preferred Networksに投資しており、今後のIPOが有望である。
・SBIグループはNTTグループと資本業務提携を結んだ。住信SBIネット銀行の全持分34.19%をNTTドコモに売却した。一方で、NTTがSBI HDに8.19%出資して、互いの連携を図っていく。Web3領域で、NTTグループとの連携を強めていく。通信と放送の領域での展開も広がってこよう。
・米国では、メディア・IT・金融の融合が進んでいる。情報流通のハブとして、互いの親和性は高い。デジタル金融とAIの結びつきも強まろう。
・実際、米国のオルタナティブ運用会社であるブラックストーンは、出資先のキャンドルメディアを通して、グローバルにIPコンテンツを持つ企業を次々と買収している。
・銀行のJPモルガンチェースは、自ら立ち上げたチェースメディアソリューションで8000万人を超える顧客基盤と取引データを活用して、より的確にターゲット顧客にリーチできる広告プラットフォームを作り上げている。
・SBIグループもメディアの領域に本格参入する。金融サービス、金融データの活用、情報のデジタル化、5400万件の顧客基盤、地域とのネットワークという点でデジタルスペースの生態系を活かすことができると判断した。SBIネオメディアHDを設立し、1000億円規模のコンテンツファンドの新設を予定している。
・北尾社長は、本音でビジョンとメガトレンド、自社の戦略を語ってくれる。これからの金融がどのような方向に進むのか、一目瞭然で分かってくる。まさに自らの事業拡大に向けて、仕上げの局面に入っている。今後5年の成果は大きなものとなろう。大いに期待したい。
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