秋の「相場ラリー」の裏に潜む「歪み」を見極める

2025/09/26

今週の株式市場ですが、日経平均が連日で最高値を更新しているほか、米国株市場でも、伸び悩んではいるものの、主要株価指数(NYダウ・S&P500・ナスダック総合)が最高値圏を維持しており、日米の金融政策イベントを通過した先週からの株高基調が続いています。

その背景には、大手のテック株やAI関連企業株が市場を牽引していることや、金融政策イベント通過後のアク抜け感などが挙げられます。

AIをテーマにした関連銘柄の株価上昇については、9月9日の取引終了後に発表されたオラクル決算で、旺盛なAI需要が確認されたことをきっかけに勢いを取り戻し、マイクロン・テクノロジーやアルファベット、アップル、パランティア・テクノロジーズなどの銘柄について金融機関のアナリストが投資判断を引き上げたことや、イーロン・マスク氏によるテスラ株の大量購入、アルファベットが裁判でグーグルの事業分割を回避できたこと、エヌビディアによるインテルへの出資など、ニュースや話題が相次いだことがさらに株価を押し上げました。

その一方で、PER面でみた株価の割高感や相場の過熱感を警戒する見方も存在しています。長期のPERの動向を示すCAPEレシオは37倍台まで上昇しており、歴史的に見てかなりの割高水準となっています。もちろん、「割高イコールすぐに売り」とはならず、足元の株高基調がまだ続くことが考えられますが、割高ながらも株高が続く構図は、かつてのITバブル時以来ということもあって、当時の状況と比較して、足元の相場の過熱感に警戒する声も一部で出始めています。そのキーワードのひとつとなっているのが「循環投資」です。

1996年から2000年にかけてのITバブル期に問題視された米企業間における「循環投資」とは、主にIT関連の新興企業やベンチャーキャピタルが、相互に、あるいは特定の企業グループ内で出資し合うことで、実態以上に企業価値を人為的に吊り上げていた行為を指します。企業は新たな価値を生み出しておらず、帳簿上で資金が循環しているに過ぎませんが、「収益性」よりも「将来性」を優先して相場が熱狂していた状況では、企業の財務実態が精査されにくく、株価は上昇を続けたものの、行き詰まりが見えたタイミングでバブルが崩壊していった経緯があります。

足元のAI相場についても、ITバブル期を彷彿とさせるような巨額の投資が活発に行われていますが、今回も同様に「循環」的な動きがあるのではないかという懸念の声が上がっています。

例えば、巨大なクラウドプラットフォームを持つ大手テック企業(マイクロソフトやアルファベット、アマゾンなど)が、有望なAIスタートアップに巨額の出資を行う見返りとして、そのスタートアップが自社のクラウドサービスを長期的に利用するといったケースです。これは一見、健全な戦略的投資に見えますが、出資された資金が結局は出資元のサービス利用料として還流する側面も持っています。また、エヌビディアがオープンAIに出資し、オープンAIがオラクルのクラウドサービスを購入し、オラクルがより大きなサービスを提供するためにエヌビディアから先端半導体を購入するといった流れも資金の循環的な側面があるのではという指摘もあります。

もっとも、現在の米大手テック企業はすでに巨額の資金と利益を生み出しているなど相違点はありますが、「投資が収益という成果を生み出すことができないと、いずれ行き詰まる」という本質は変わらないため、相場の論点のひとつとして意識しておく必要がありそうです。

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