くすぶる不安、されど続くリスクオン

2025/05/16

足元の米国株市場は戻り基調が鮮明になっています。週初の12日(月)の取引では、主要株価3指数(NYダウ・S&P500・ナスダック)は揃って200日移動平均線をクリアしてきました。その後のNYダウは伸び悩んでいるものの、S&P500とナスダックは上値を伸ばしており、少なくとも、先月(4月)の急落時のような不穏なムードが払拭されている印象です。

こうした株価上昇の主因となったのは、米国の関税政策の動きです。英国との交渉がまとまったことをはじめ、中国との協議では、関税率が大幅に引き下げられたことで、米関税政策の影響で想定されていた「最悪のシナリオ」が回避されることで安心感が広がりました。とりわけ、対中国では、協議の前に、「(関税率)80%ぐらいが妥当」というトランプ米大統領の発言もあったのですが、結果的には、それを上回る関税率の引き下げだったこともサプライズとなりました。

さらに、16日(金)にかけて中東3カ国を歴訪中のトランプ大統領ですが、エヌビディアやアマゾン、AMD、オープンAIといった米テック企業のCEOも動向しており、その中で、投資や大規模な取引の実施が発表されるなど、米企業の中東におけるビジネス拡大期待が高まったことも、株価上昇の支援材料になった格好です。

そのほか、一時は米国市場のトリプル安(株安・債券安・通貨安)で、投資マネーの米国離れも意識されていましたが、足元の動きを見て、再び米国市場に資金が向かっていることも考えられます。

もっとも、対中協議では、「関税を武器に交渉のテーブルにつかせ、中国からの譲歩を勝ち取る」というディールが機能したかと言えば、そうはなっていません。現時点では、米中ともに振り上げ過ぎた拳をおろしただけであり、必ずしも米国の思惑通りには進んでいないため、政治・外交的には成功とは言えません。

また、株価的にも4月の急落時に割高だったPERの修正が進む前に再び上昇基調に戻しているほか、米10年債利回りをはじめとする金利も14日(水)の時点で4.5%台まで上昇しています。とりわけ、米金利については、景気減速不安が後退するのではという見込みが高まったことで、利下げ期待が萎んだ格好と同時に、関税収入の減少が見込まれる中で、これから減税政策を打ち出してくることを踏まえた、財政悪化懸念が反映されている可能性もあります。

そのため、「不安がくすぶりながらも、リスクオンが続いている」足元の米国株市場ですが、ここからは、割高感を意識しながら上値をトライしていくことになるほか、進捗が見られた関税交渉も、全面撤廃ではなく、歴史的に見ても高い関税率は残ったままですので、実体経済に与える影響がこれからの経済指標等で表に現れることも考えられます。

となると、足元の株高基調がどこまで続くのかが焦点になりますが、その節目として、今月28日(水)に予定されているエヌビディアの決算が天王山になるかもしれません。

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