6月3日妥当レンジ 16,650円~18,000円
雇用統計ショックから見えた底堅さ

【「IFIS/TIWコンセンサス225」によるマーケットの妥当レンジの推計】

 

<米国経済指標はまだら模様>
■発表された5月の米国経済指標は方向感が不透明である。ISM製造業景気指数(1日発表)は、51.3と市場予想(50.4)を上回った。しかし、新規受注・生産は前月を下回っており、入荷遅延によって押し上げられている。ADP雇用統計(2日)は、民間部門雇用者数17.3万人増と予想(18万人)を下回るものの、4月の数値は上方修正された。ISM非製造業景気指数(3日)は、52.9と予想(55.3)を下回ったものの、全18業種中14業種が改善した。雇用統計(3日)は、非農業部門雇用者数の増加が3.8万人増に留まったものの(4月12.3万人増・予想16.4万人増)、失業率4.7%(4月5.0%)、平均時給は前年同月比+2.5%と改善している。全般的に米経済には力強さは欠けるものの、減速の兆候と見るには早計な状況である。
■しかしながら、6月利上げ(FOMC14-15日)は困難な状況であり、7月(7/26-27)も可能性は大きく低下。6日のイエレン議長の講演でも利上げは緩やかなものになるとと後退した。為替次第によっては、日銀金融政策決定会合(6/15-16)において追加緩和の可能性が残るものの、23日に英国のEU離脱を問う国民投票が控えることから動き難い状況が続くと思われる。
■雇用統計発表からドル円は106円台にまで急速な円高となったものの、円高への抵抗力が増しているのか、東京株式市場は比較的冷静であった。これは、1)消費増税の2年半延期の正式発表(1日)後に、材料出尽くしから既にある程度の株価調整がなされていたこと、2)NY株式が底堅く、市場がリスクオフにあると看做されなかったこと、3)参議院選挙を控えて財政出動への期待感が残ること、4)日本株はバリュエーション面では割安感が強いこと、などが要因として挙げられるだろう。ただし、米利上げが時期の先送りが予想されるだけに、上値の重い状態が続きそうである。当面は17,000円台前半が上限となりそうである。

<コンセンサス予想EPSは今期・来期が前週同様マイナス>
■6月3日時点のIFIS/TIWコンセンサス225(日経225のコンセンサスEPS)は、今期・来期でマイナスが続いている。業績見通しがやや弱含みであるだけに、割安でも強気にはなり難い。

 

◇日経平均妥当水準(レンジ)

16,650円~18,000円 (前回16,800円~18,150円)

*「IFIS/TIWコンセンサス225」(6月3日)来期予想ベースEPSをもとに算出

◇IFIS/TIWコンセンサス225(6月3日)

今期予想EPS 994.85 (前週 1004.62円)
来期予想EPS 1096.54 (前週 1100.95円)
再来期予想EPS 1192.80 (前週 1188.12円)
今期予想PER 16.73 (前週 16.76倍)
来期予想PER 15.18 (前週 15.29倍)
再来期予想PER 13.95 (前週 14.17倍)
来期予想PBR 1.09 (前週 1.10倍)
来期予想ROE 7.17% 前週 7.18%)
来期予想
インプライド・リスク・プレミアム
7.10% (前週 7.11%)

*6月3 日経平均終値より、PER、PBR、ROE等を算出

 

 

図1引き続き割安感が強い。しかし、予想EPSのトレンドがやや弱含みで有ることが懸念材料。

 

 

図2来期予想ベースのプラス企業比率は、 35.1%→67.0%→44.7%→44.6%→43.4%。
再来期予想ベースのプラス企業比率は、42.4%→57.6%→44.1%→48.2%→48.5%。

業績見通しは自動車・海運・電機などが弱含み傾向。

[注:4~5月は例年、対象決算期変更の影響があるのでイレギュラーな値になることに留意]

図3今期・来期ベースのコンセンサス予想EPSは弱含み。再来期はプラスであるが、ソフトバンクの影響が強い。


図4予想ROE(日経新聞市況欄から計算)は決算発表後8%台を回復しているが、前年水準から見れば低下しており、株価の上値を抑える要因になりそうである。

 

出所:IFISコンセンサスを基にTIW作成
いずれも2012年1月から表示

「IFIS/TIWコンセンサス225」について
IFIS/TIWコンセンサス225」は、株式会社アイフィスジャパンが集計しているアナリストコンセンサス・データ等を原データとして、2009年4月より株式会社ティー・アイ・ダヴリュが東証株価指数(日経225)に対応するように構成銘柄のEPSを算出・集計したものである。今期予想EPS、来期予想EPSの変化を追うことによって、マーケット全体の業績見通しを確認する。
理論上では株価は、自己資本配当率(ROEと配当性向の積)、EPS成長率、無リスク証券の利回り(国債利回り)、リスクプレミアムの4要素で決定される。株価をこれら構成要素に分解することによって、株価変動の要因について考察するとともにファンダメンタルからの妥当な株価(マーケット)水準を思量する。なお、リスクプレミアムを正確に計測することは、一定期間を経た後でないと困難なことであることから、当レポートではインプライド・リスクプレミアム(株価と他の構成要素からの逆算値)を使用している。
4つの構成要素の内、株価の短期的な変動に最も影響を与えるのがリスクプレミアムである。リスクプレミアムは、無リスク証券の金利に対して投資家が要求する上乗せ金利と定義されるが、投資家心理(マーケットセンチメント)、他の投資対象(金融商品)との利回り格差の変動などによって変化する。長期的な見通しの変化が無い中では、インプライド・リスクプレミアムは一定のレンジ内で推移する傾向にある。日経平均株価の妥当水準を算出には、インプライド・リスクプレミアムの一定レンジからの逆算によって行っている。
〔今期予想ベースEPS、来期ベースEPSにおける“今期”、“来期”の取扱い〕
会計上の業績計測期間ではなく、本決算発表を基準とする。例えば、2011年4月30日現在では、2011年3月期は決算発表前であれば今期、決算発表が行われていれば前期、となる。
〔予想EPS増減社数〕
今期ベースならびに来期ベースを示している。週間(週末値)のデータを基に、前週末に比べてEPSが増加・変化無し・減少した企業の数。
〔予想PBR(今期末)〕
前期末BPS(1株純資産)に今期予想EPSを加えて、予想DPS(1株配当)を控除した値(=予想BPS)で株価を除した数値。中間配当は考慮していない。
〔予想ROE(来期ベース)〕
前述の予想BPSで来期予想EPSを除した値。
〔リスクプレミアム〕
特に断りの無い限りインプライド・リスクプレミアムを表す。計算式は、{ 1-予想配当性向×(1-予想B/Pレシオ)}×予想ROE-無リスク証券利回り

 

株式会社ティー・アイ・ダヴリュ
独立系証券リサーチ会社TIWのアナリスト陣が、株式市場における時事・トピックスや業界動向など、取材に基づいたファンダメンタル調査・分析を提供するともに、幅広い視野で捉えた新鮮な情報をお届けします。