7月1日妥当レンジ 27,645円~29,815円
米金利低下が株価をサポートするが業績悪化が懸念
【「IFIS/TIWコンセンサス225」によるマーケットの妥当レンジの推計】
投資のポイント
<米国経済指標の悪化が続く>
■先週発表された米国経済指標はいずれも景気減速を示す内容であったことから、株価下落が先行したものの、米長期金利が大幅に低下したことから株の買戻しが生じている。
■6月28日発表のコンファレンスボード消費者信頼感指数(6月)は98.7と前月比▲4.5ポイント低下、6カ月先を見通す「期待指数」は▲7.3ポイント減の66.4と2013年3月以来の低水準。29日にパウエルFRB議長がECB主催のシンポジウムで「(より大きなリスクは)物価安定の回復に失敗することだ」「労働市場は金融引き締めに耐えることができる状態にある」述べ、大幅利上げへの警戒感が強まった。30日発表の米個人消費支出(PCE・5月)は消費の伸びが鈍化する一方で物価指数は6.3%と高水準横ばいであった。7月1日発表のISM製造業景況感指数(6月)は53.0と前月から▲3.1ポイント低下した。これを受けて、米アトランタ連銀が米実質GDPを予想する「GDPナウ」は4-6月期GDPを前期比年率▲2.1%と予想。2四半期連続でGDPがマイナスとなることでリセッション入りが明確になりつつある。こうした一連の経済指標悪化を受けて、米10年国債利回りは3.2%台から一時2.8%を割り込む水準まで低下。長期金利低下を受けて1日の米国市場は反発し、週明けの東京市場はその流れを受けて買戻しが入っている。
■国内では、30日発表の鉱工業生産(5月)が前月比▲7.2%と2カ月連続でマイナスとなり、基調判断が「弱含み」に引き下げられた。1日発表の日銀短観(6月)の業況判断DIは大企業製造業は3月時点より▲5ポイント低下した。1日発表の有効求人倍率(5月)は前月比0.01ポイント上昇したが、失業率(5月)は0.1ポイント悪化した。経済指標よりもインパクトがあったのがロシアが「サハリン2」の運営の無償譲渡を命じる大統領令を発したことである。エネルギー需要を賄う代替先を確保することが求められ、一段と価格上昇が懸念される。
■リセッション懸念が強まることで金利低下から株式の買戻しが生じているが、今後の業績見通しの悪化には警戒が必要である。コンセンサス予想の変化にも業績悪化の兆しが見え始めている。当面の日経平均株価のレンジを25,600~27,600円とやや引き下げる(表示の妥当レンジは平時を想定したもの)。
◇日経平均妥当水準(レンジ)
27,645円~29,815円 | (前回28,006円~30,179円) |
「IFIS/TIWコンセンサス225」(7月1日)来期予想ベースEPSをもとに算出
◇IFIS/TIWコンセンサス225(7月1日)
今期予想EPS | 1770.07円 | (前週1767.95円) |
来期予想EPS | 1884.14円 | (前週1889.00円) |
再来期予想EPS | 2034.09円 | (前週2035.61円) |
今期予想PER | 14.65倍 | (前週14.98倍) |
来期予想PER | 13.77倍 | (前週14.02倍) |
再来期予想PER | 12.75倍 | (前週13.01倍) |
来期予想PBR | 1.08倍 | (前週1.10倍) |
来期予想ROE | 7.83% | (前週 7.82%) |
来期予想 インプライド・リスク・プレミアム |
7.41% | (前週 7.35%) |
7月1日 日経平均終値より、PER、PBR、ROE等を算出
サハリン2の無償譲渡要求から日本もエネルギー不足(または価格高騰)の影響が一段と深刻化する懸念も。米消費者マインドの低下から半導体不足解消もプラス材料との評価が乏しい。コンセンサス予想も悪化に向かう兆しも。
来期予想ベースのプラス企業比率は、 56.3%→56.6%→57.3%→53.2%→53.8%→50.5%。
再来期予想ベースのプラス企業比率は、60.8%→54.5%→54.0%→53.0%→51.9%→49.5%。
半導体関連・電子部品の弱含み(前週比マイナス)が目立つ。
[注:例年4~5月は、対象決算期変更の影響があるのでイレギュラーな値になることに留意]
出所:IFISコンセンサスを基にTIW作成
「IFIS/TIWコンセンサス225」について IFIS/TIWコンセンサス225」は、株式会社アイフィスジャパンが集計しているアナリストコンセンサス・データ等を原データとして、2009年4月より株式会社ティー・アイ・ダヴリュが東証株価指数(日経225)に対応するように構成銘柄のEPSを算出・集計したものである。今期予想EPS、来期予想EPSの変化を追うことによって、マーケット全体の業績見通しを確認する。 理論上では株価は、自己資本配当率(ROEと配当性向の積)、EPS成長率、無リスク証券の利回り(国債利回り)、リスクプレミアムの4要素で決定される。株価をこれら構成要素に分解することによって、株価変動の要因について考察するとともにファンダメンタルからの妥当な株価(マーケット)水準を思量する。なお、リスクプレミアムを正確に計測することは、一定期間を経た後でないと困難なことであることから、当レポートではインプライド・リスクプレミアム(株価と他の構成要素からの逆算値)を使用している。 4つの構成要素の内、株価の短期的な変動に最も影響を与えるのがリスクプレミアムである。リスクプレミアムは、無リスク証券の金利に対して投資家が要求する上乗せ金利と定義されるが、投資家心理(マーケットセンチメント)、他の投資対象(金融商品)との利回り格差の変動などによって変化する。長期的な見通しの変化が無い中では、インプライド・リスクプレミアムは一定のレンジ内で推移する傾向にある。日経平均株価の妥当水準を算出には、インプライド・リスクプレミアムの一定レンジからの逆算によって行っている。 〔今期予想ベースEPS、来期ベースEPSにおける“今期”、“来期”の取扱い〕 会計上の業績計測期間ではなく、本決算発表を基準とする。例えば、2011年4月30日現在では、2011年3月期は決算発表前であれば今期、決算発表が行われていれば前期、となる。 〔予想EPS増減社数〕 今期ベースならびに来期ベースを示している。週間(週末値)のデータを基に、前週末に比べてEPSが増加・変化無し・減少した企業の数。 〔予想PBR(今期末)〕 前期末BPS(1株純資産)に今期予想EPSを加えて、予想DPS(1株配当)を控除した値(=予想BPS)で株価を除した数値。中間配当は考慮していない。 〔予想ROE(来期ベース)〕 前述の予想BPSで来期予想EPSを除した値。 〔リスクプレミアム〕 特に断りの無い限りインプライド・リスクプレミアムを表す。計算式は、{ 1-予想配当性向×(1-予想B/Pレシオ)}×予想ROE-無リスク証券利回り |