12月10日妥当レンジ 28,712円~31,048円
市場の楽観が急速に後退、FOMCを挟んで不安定な局面
【「IFIS/TIWコンセンサス225」によるマーケットの妥当レンジの推計】
投資のポイント
<中国信用不安の顕在化とFOMCを控えて楽観が消失>
■先週の米国市場は、雇用動態統計(8日)における雇用のミスマッチの拡大や消費者物価指数(10日)の大幅上昇というインフレ要因があったにもかかわらず、ダウ平均が1週間で1,390ドル上昇、S&P500指数は10日に過去最高値を更新した。22年には資源価格上昇が鎮静化するとの見通しが台頭したことによるようである。しかしながら、週明けは楽観論は後退している。 14-15日のFOMCを控えて利上げ観測に神経質になっているほか、オミクロン型の感染拡大への懸念、米中南部での竜巻被害(10~11日)など市場センチメントの悪化も影響していると考えられる。
■9日にフィッチ・レーティングスは中国恒大集団の格付けを「部分的債務不履行(デフォルト)」に認定した。しかし、これによる市場の動揺は今のところ大きくはない。6日に中国人民銀行が預金準備率を0.5%引き下げたことや、10日の中国経済工作会議において、減税・金融緩和による経済対策と住宅保有に対する支援を公表したことなどが要因と考えられる。ただし、中国の新築住宅価格は僅かながらであるが2カ月連続で低下し、販売も減少している。中国不動産各社の健全性に対する疑念から広範な中国社債売りも生じており、経済減速への懸念も強まりそうだ。
■米FOMCでのテーパリングの加速は織り込み済みと思われるものの、ドットチャート(FOMC参加者の経済・金利見通し)とパウエル議長の記者会見が注目されるであろう。利上げペースが速まると市場が感じたならば、株価の下落とドル高が予想される。ドル高は新興国からの資金流出につながることから新興国は為替防衛のための利上げによって経済が停滞する可能性が指摘される。
■13日発表の日銀短観で示されたのは、ドル高(円安)と原燃料価格の上昇等から輸入物価上昇から企業の仕入れ価格が上昇しているにもかかわらず、販売価格への転嫁が殆どできていない状況である。企業収益の悪化あるいは価格転嫁による消費の停滞が懸念される。TIWが作成している225銘柄の「コンセンサスDI」(コンセンサスEPSが前週比プラス企業の比率)においても来期・再来期で50%を下回ってきた。
◇日経平均妥当水準(レンジ)
28,712円~31,048円 | (前回28,780円~31,113円) |
「IFIS/TIWコンセンサス225」(12月10日)来期予想ベースEPSをもとに算出
◇IFIS/TIWコンセンサス225(12月10日)
今期予想EPS | 1641.15円 | (前週1645.24円) |
来期予想EPS | 1780.45円 | (前週1780.57円) |
再来期予想EPS | 1883.38円 | (前週1893.34円) |
今期予想PER | 17.33倍 | (前週17.04倍) |
来期予想PER | 15.97倍 | (前週15.74倍) |
再来期予想PER | 15.10倍 | (前週14.80倍) |
来期予想PBR | 1.19倍 | (前週1.18倍) |
来期予想ROE | 7.42% | (前週 7.53%) |
来期予想 インプライド・リスク・プレミアム |
6.96% | (前週 7.05%) |
12月10日 日経平均終値より、PER、PBR、ROE等を算出
米FRBのテーパリング加速が織り込まれれば(その過程で一時的な株式の下落もあるが)、2022年には消費者物価上昇が鈍化するとの観測の台頭から株価は一段高に向かう可能性もある。米国の利上げ見通しと中国の経済減速、ウクライナや台湾など地政学リスク、中国と欧米諸国との対立の深化などリスク要因も少なくはないが現状では企業業績の底堅さがサポートするだろう。
来期予想ベースのプラス企業比率は、 57.5%→54.2%→62.4%→59.6%→54.4%→47.5%。
再来期予想ベースのプラス企業比率は、51.8%→53.2%→65.4%→60.0%→54.3%→48.9%。
[注:例年4~5月は、対象決算期変更の影響があるのでイレギュラーな値になることに留意]
出所:IFISコンセンサスを基にTIW作成
いずれも2014年1月から表示
「IFIS/TIWコンセンサス225」について IFIS/TIWコンセンサス225」は、株式会社アイフィスジャパンが集計しているアナリストコンセンサス・データ等を原データとして、2009年4月より株式会社ティー・アイ・ダヴリュが東証株価指数(日経225)に対応するように構成銘柄のEPSを算出・集計したものである。今期予想EPS、来期予想EPSの変化を追うことによって、マーケット全体の業績見通しを確認する。 理論上では株価は、自己資本配当率(ROEと配当性向の積)、EPS成長率、無リスク証券の利回り(国債利回り)、リスクプレミアムの4要素で決定される。株価をこれら構成要素に分解することによって、株価変動の要因について考察するとともにファンダメンタルからの妥当な株価(マーケット)水準を思量する。なお、リスクプレミアムを正確に計測することは、一定期間を経た後でないと困難なことであることから、当レポートではインプライド・リスクプレミアム(株価と他の構成要素からの逆算値)を使用している。 4つの構成要素の内、株価の短期的な変動に最も影響を与えるのがリスクプレミアムである。リスクプレミアムは、無リスク証券の金利に対して投資家が要求する上乗せ金利と定義されるが、投資家心理(マーケットセンチメント)、他の投資対象(金融商品)との利回り格差の変動などによって変化する。長期的な見通しの変化が無い中では、インプライド・リスクプレミアムは一定のレンジ内で推移する傾向にある。日経平均株価の妥当水準を算出には、インプライド・リスクプレミアムの一定レンジからの逆算によって行っている。 〔今期予想ベースEPS、来期ベースEPSにおける“今期”、“来期”の取扱い〕 会計上の業績計測期間ではなく、本決算発表を基準とする。例えば、2011年4月30日現在では、2011年3月期は決算発表前であれば今期、決算発表が行われていれば前期、となる。 〔予想EPS増減社数〕 今期ベースならびに来期ベースを示している。週間(週末値)のデータを基に、前週末に比べてEPSが増加・変化無し・減少した企業の数。 〔予想PBR(今期末)〕 前期末BPS(1株純資産)に今期予想EPSを加えて、予想DPS(1株配当)を控除した値(=予想BPS)で株価を除した数値。中間配当は考慮していない。 〔予想ROE(来期ベース)〕 前述の予想BPSで来期予想EPSを除した値。 〔リスクプレミアム〕 特に断りの無い限りインプライド・リスクプレミアムを表す。計算式は、{ 1-予想配当性向×(1-予想B/Pレシオ)}×予想ROE-無リスク証券利回り |