9月10日妥当レンジ 28,547円~30,863円
米株市場の小休止から上値重いが、感染者減少が下支え

【「IFIS/TIWコンセンサス225」によるマーケットの妥当レンジの推計】

投資のポイント 

<月内は国内感染者の減少傾向を好感する動き>
■日経平均株価は8日(水)に終値で3万円台を回復した後も上昇トレンドを継続している。先週1週間の上昇は1,253円となり2週連続で千円超の上げとなった。売り方の買戻しもあるが、菅首相の退陣を受けて次期政権の経済対策への期待が強まったことや、新型コロナウイルスの新規感染者数の減少トレンドが続いていることが大きな要因である。8日に発表された景気ウオッチャー調査(8月)は現状判断DI、先行き判断DIともに前月を下回ったが、(前回のレポートで指摘したように)8月分の経済指標は芳しくなくても影響は限定的にとどまっている。
■NY株式市場は米国でのデルタ株感染の増加による米経済の鈍化懸念や中国の不動産大手(中国恒大集団)の債務問題、米株の割高感が意識されていることなどから停滞が続いている。ただ、米国も感染者数のピークアウトが確認できれば(テーパリングの実行による懸念は残るものの)足元では大きな調整は生じないと考える。
■9日にECB理事会が開催され、10月以降、今後3カ月の買い取りペースをこれまでの2四半期より「適度に低いペース」にすると決定した。ただし、具体的に何億ユーロを買い入れを減らすかは示さず、ラガルド総裁も「テーパリングではない、単なる微調整である」と述べたことから市場が大きく反応することはなかった。これはあくまでも米FRBが年内のテーパリング開始を示唆したことによる対応と思われる。
■今週は国内では、16日に貿易統計(8月)、米国では15日に鉱工業生産(8月)、16日に小売売上高(8月)が発表されるが特に影響はないものと思われる。
■日経平均株価は3万円を回復したことから割安感は薄らいでおり、上値は重くなりつつあると考えられる。先週のコンセンサスDI(コンセンサスEPSが前週に比べて増加した企業数の比率)は、プラス比率が一転して50%を割り込んだ。一時的な現象かどうかはもう少し観測する必要はあるものの、多少の警戒感は必要かもしれない。ただし、感染者の減少トレンドと自民党の総裁選(29日)までは次期政権への期待感が残ることからやや強含みで推移するものと考える。

 

 

 

 

◇日経平均妥当水準(レンジ)

28,547円~30,863 (前回28,173円~30,488円)

「IFIS/TIWコンセンサス225」(9月10日)来期予想ベースEPSをもとに算出

◇IFIS/TIWコンセンサス225(9月10日)

今期予想EPS 1647.18 (前週1708.76円)
来期予想EPS 1756.63 (前週1770.46円)
再来期予想EPS 1842.63 (前週1854.31円)
今期予想PER 18.15 (前週17.05倍)
来期予想PER 17.30 (前週16.45倍)
再来期予想PER 16.49 (前週15.71倍)
来期予想PBR 1.21 (前週1.17倍)
来期予想ROE 7.02% 前週 7.13%)
来期予想
インプライド・リスク・プレミアム
6.56% (前週 6.75%)

9月10日経平均終値より、PER、PBR、ROE等を算出

  

 

 

日経平均株価は前週に引き続き週間で1,253円と千円超の大幅上昇。しかし、一方でコンセンサスEPSが伸び悩んであり、妥当レンジの上限近くに達した。コンセンサスEPSの伸び悩みは自動車、電鉄、通信、一部の電子部品などに見られる。コンセンサスDIのプラス比率は50%を割り込みやや懸念が残る。米国市場が小休止になっていることから上値は重いと考えるが、新型コロナの新規感染者数の減少ならびに自民党総裁選への期待が下支えすると考える。

来期予想ベースのプラス企業比率は、 62.061.564.261.362.048.5
再来期予想ベースのプラス企業比率は、57.8%→62.763.262.261.949.1
コンセンサスEPSの減少は特定銘柄(ソフトバンクG)の影響が大部分であるものの、コンセンサスDIのプラス比率が50%割れと急低下。一時的な現象か?

[注:例年4~5月は、対象決算期変更の影響があるのでイレギュラーな値になることに留意]

出所:IFISコンセンサスを基にTIW作成
いずれも2014年1月から表示

 

 

 

「IFIS/TIWコンセンサス225」について
IFIS/TIWコンセンサス225」は、株式会社アイフィスジャパンが集計しているアナリストコンセンサス・データ等を原データとして、2009年4月より株式会社ティー・アイ・ダヴリュが東証株価指数(日経225)に対応するように構成銘柄のEPSを算出・集計したものである。今期予想EPS、来期予想EPSの変化を追うことによって、マーケット全体の業績見通しを確認する。
理論上では株価は、自己資本配当率(ROEと配当性向の積)、EPS成長率、無リスク証券の利回り(国債利回り)、リスクプレミアムの4要素で決定される。株価をこれら構成要素に分解することによって、株価変動の要因について考察するとともにファンダメンタルからの妥当な株価(マーケット)水準を思量する。なお、リスクプレミアムを正確に計測することは、一定期間を経た後でないと困難なことであることから、当レポートではインプライド・リスクプレミアム(株価と他の構成要素からの逆算値)を使用している。
4つの構成要素の内、株価の短期的な変動に最も影響を与えるのがリスクプレミアムである。リスクプレミアムは、無リスク証券の金利に対して投資家が要求する上乗せ金利と定義されるが、投資家心理(マーケットセンチメント)、他の投資対象(金融商品)との利回り格差の変動などによって変化する。長期的な見通しの変化が無い中では、インプライド・リスクプレミアムは一定のレンジ内で推移する傾向にある。日経平均株価の妥当水準を算出には、インプライド・リスクプレミアムの一定レンジからの逆算によって行っている。
〔今期予想ベースEPS、来期ベースEPSにおける“今期”、“来期”の取扱い〕
会計上の業績計測期間ではなく、本決算発表を基準とする。例えば、2011年4月30日現在では、2011年3月期は決算発表前であれば今期、決算発表が行われていれば前期、となる。
〔予想EPS増減社数〕
今期ベースならびに来期ベースを示している。週間(週末値)のデータを基に、前週末に比べてEPSが増加・変化無し・減少した企業の数。
〔予想PBR(今期末)〕
前期末BPS(1株純資産)に今期予想EPSを加えて、予想DPS(1株配当)を控除した値(=予想BPS)で株価を除した数値。中間配当は考慮していない。
〔予想ROE(来期ベース)〕
前述の予想BPSで来期予想EPSを除した値。
〔リスクプレミアム〕
特に断りの無い限りインプライド・リスクプレミアムを表す。計算式は、{ 1-予想配当性向×(1-予想B/Pレシオ)}×予想ROE-無リスク証券利回り

 

株式会社ティー・アイ・ダヴリュ
独立系証券リサーチ会社TIWのアナリスト陣が、株式市場における時事・トピックスや業界動向など、取材に基づいたファンダメンタル調査・分析を提供するともに、幅広い視野で捉えた新鮮な情報をお届けします。