5月22日妥当レンジ 18,600円~20,100円
「TINA」による株高も、米中の相克は深刻に向かう

【「IFIS/TIWコンセンサス225」によるマーケットの妥当レンジの推計】

投資のポイント 

<緊急事態宣言の解除も経済急回復は期待薄>
■25日、政府は東京など5都道県の緊急事態宣言を7週間ぶりに解除した。7月末までを移行期間として、外出自粛や施設の使用制限の要請などを段階的に緩和してゆく。経済の急回復は見込み難く、日本経済新聞が集計したエコノミストの景気見通し(平均)では、輸出は4-6月期に前期比▲19.2%減少、7-9月期+3.3%、10-12月期+3.3%と増加するが回復は緩慢である。4月の全国消費者物価指数(コア・22日発表)は▲0.2%と3年4ヵ月ぶりの下落となった。民間エコノミストの予測平均では21年4-6月期まで低下が続く。こうした状況下で、日銀は22日に臨時の金融政策決定会合を開き、30兆円規模の新たな資金供給策を発表。政府も第2次補正予算案の予算規模を100億円とする調整に入った。
■米議会予算局(CBO)は2020~2021年の経済見通しを19日に改定。4-6月期の実質経済成長率は前期比▲11.2%(年率換算▲37.7%)と予測。失業率は7-9月期に15.8%まで上昇すると予測した。20年後半に雇用情勢は回復するものの鈍く、21年10-12月期においても失業率は8.6%と高止まりを予想する。
■こうした経済環境下では金融緩和の長期化が見込まれている。米FRBは、短期債や中期債の利回りに上限を設ける政策目標の検討に入った(20日発表の4/28-29分のFOMC議事録)。英国では期間3年の国債入札で平均落札利回りが初めてマイナスとなった。 こうした行き場を失った消去法的な資金「TINA(There Is No Alternative)」が株式市場を押し上げているとの見方が強まっている。米株も日本株もバリュエーションでは説明できない水準にあるが、さらに持ち上げられる傾向にある。そのため、持たざるリスクが強まっている。
■しかし、こうした需給関係で形成された株価は、何らかの切っ掛けで崩落する危険を孕んでいることは意識しておくべきである。米上院は20日、米国に上場する外国企業に経営の透明性を求める法案を可決した。他方で、22日に開幕した中国の全人代において、香港の自治を脅かす「香港国家安全法案」の制定が掲げられた。台湾問題も改めて「独立を目論む分裂行動に断固として反対する」と言及された。コロナの情報を隠蔽した責任問題も含めて欧米と中国の対立が深刻だ。

 

 

◇日経平均妥当水準(レンジ)

18,600円~20,100 (前回17,900円~19,300円)

*「IFIS/TIWコンセンサス225」(5月22日)来期予想ベースEPSをもとに算出

◇IFIS/TIWコンセンサス225(5月22日)

今期予想EPS 1097.49 (前週998.11円)
来期予想EPS 1327.60 (前週1451.01円)
再来期予想EPS 1451.26 (前週1455.13円)
今期予想PER 18.58 (前週20.08倍)
来期予想PER 15.36 (前週13.81倍)
再来期予想PER 14.05 (前週13.77倍)
来期予想PBR 0.96 (前週0.93倍)
来期予想ROE 6.28% 前週 6.73%)
来期予想
インプライド・リスク・プレミアム
6.37% (前週 6.89%)

5月22日経平均終値より、PER、PBR、ROE等を算出

  



522日時点の今期コンセンサス予想PER 18.58倍、来期 15.36倍、再来期14.05倍。来期・再来期予想の見直しが進む過程でやや上昇した。金融緩和効果等からの持ち合い相場が続くとしても上昇は限定的。想定外のリスク顕在化で腰折れする可能性があるだけに、一辺倒の強気は禁物。

 

来期予想ベースのプラス企業比率は、 30.542.243.755.3%→35.2
再来期予想ベースのプラス企業比率は、25.037.641.053.1%→47.0
対象決算期の移行途中のイレギュラーが過ぎ、正常化したと思われる。
来期・再来期の50%超えが定着して来ない限りは、本格上昇相場にはほど遠いと考える。

[注:例年4~5月は、対象決算期変更の影響があるのでイレギュラーな値になることに留意]

出所:IFISコンセンサスを基にTIW作成
いずれも2014年1月から表示

 

 

 

「IFIS/TIWコンセンサス225」について
IFIS/TIWコンセンサス225」は、株式会社アイフィスジャパンが集計しているアナリストコンセンサス・データ等を原データとして、2009年4月より株式会社ティー・アイ・ダヴリュが東証株価指数(日経225)に対応するように構成銘柄のEPSを算出・集計したものである。今期予想EPS、来期予想EPSの変化を追うことによって、マーケット全体の業績見通しを確認する。
理論上では株価は、自己資本配当率(ROEと配当性向の積)、EPS成長率、無リスク証券の利回り(国債利回り)、リスクプレミアムの4要素で決定される。株価をこれら構成要素に分解することによって、株価変動の要因について考察するとともにファンダメンタルからの妥当な株価(マーケット)水準を思量する。なお、リスクプレミアムを正確に計測することは、一定期間を経た後でないと困難なことであることから、当レポートではインプライド・リスクプレミアム(株価と他の構成要素からの逆算値)を使用している。
4つの構成要素の内、株価の短期的な変動に最も影響を与えるのがリスクプレミアムである。リスクプレミアムは、無リスク証券の金利に対して投資家が要求する上乗せ金利と定義されるが、投資家心理(マーケットセンチメント)、他の投資対象(金融商品)との利回り格差の変動などによって変化する。長期的な見通しの変化が無い中では、インプライド・リスクプレミアムは一定のレンジ内で推移する傾向にある。日経平均株価の妥当水準を算出には、インプライド・リスクプレミアムの一定レンジからの逆算によって行っている。
〔今期予想ベースEPS、来期ベースEPSにおける“今期”、“来期”の取扱い〕
会計上の業績計測期間ではなく、本決算発表を基準とする。例えば、2011年4月30日現在では、2011年3月期は決算発表前であれば今期、決算発表が行われていれば前期、となる。
〔予想EPS増減社数〕
今期ベースならびに来期ベースを示している。週間(週末値)のデータを基に、前週末に比べてEPSが増加・変化無し・減少した企業の数。
〔予想PBR(今期末)〕
前期末BPS(1株純資産)に今期予想EPSを加えて、予想DPS(1株配当)を控除した値(=予想BPS)で株価を除した数値。中間配当は考慮していない。
〔予想ROE(来期ベース)〕
前述の予想BPSで来期予想EPSを除した値。
〔リスクプレミアム〕
特に断りの無い限りインプライド・リスクプレミアムを表す。計算式は、{ 1-予想配当性向×(1-予想B/Pレシオ)}×予想ROE-無リスク証券利回り

 

株式会社ティー・アイ・ダヴリュ
独立系証券リサーチ会社TIWのアナリスト陣が、株式市場における時事・トピックスや業界動向など、取材に基づいたファンダメンタル調査・分析を提供するともに、幅広い視野で捉えた新鮮な情報をお届けします。