国は赤字だが日本国は黒字である理由

2019/12/05

(要旨)

■国の赤字は中央政府の赤字のこと

■外国との取引を記録したのは国際収支統計

■経常収支は貿易収支、サービス収支等の合計

■経常収支は家計簿と似ている

■国が赤字なのに日本国が黒字なのは民間が黒字だから

 

(本文)

■国の赤字は中央政府の赤字のこと

「国の赤字は巨額だから、増税が必要だ」といった話を耳にする。なんだか日本国が赤字なので大変だ、といった気分になりそうであるが、それは違う。

ここで「国」というのは、「地方公共団体ではなく中央政府の財政の話をするぞ」という意味なのである。日本国と外国との関係ではなく、中央政府と民間部門の関係という意味なので、間違えないようにする必要がある。

政府は民間から税金を集めて、様々な行政サービスを行っている。集めた税金の方が多ければ、「財政が黒字だ」と言われ、政府の財産が増える(または借金が減る、以下同様)。税金の方が少なければ、財政は赤字であるから政府の財産は減る。

日本国の中央政府は、何十年もの間、税収等で集めたよりも多くの金を使っているので、財政収支は毎年赤字である。だから、「もっと税金をたくさん集めなければならない」と言う意見が出てくるわけだ。

以上は、国内の取引の話である。日本政府は日本人(人および企業等、以下同様)から税金を集め、日本人を雇って日本人に給料を払っている。つまり、財政が赤字だろうと黒字だろうと、「日本国と外国との取引」には何も関係ないのである。

■外国との取引を記録したのは国際収支統計

日本企業が外国に物を輸出して外貨を受け取ったり、外国から物を輸入して外貨を支払ったりするのが貿易である。ちなみに、円貨を受払する事もあるが、外国との取引は原則として外貨で行われるので、本稿では外貨と記す。

海外旅行へ行って外国のレストランで食事をし、代金を払うのはサービス貿易と呼ばれる。外国の銀行に貯金をして利子を受け取ったりする取引もある。

こうした取引の結果、日本国の財産が増えたのか減ったのかを知るための統計が「経常収支」である。そして、日本国の経常収支は毎年大幅な黒字となっているので、日本国が外国に持っている財産は毎年増え続けているのである。

厳密に言えば、海外の株価が暴落して日本人が海外に持っている資産が大きく減ってしまうと、輸出企業が外貨を持ち帰っても日本国の海外に対する財産が増えない事もありえるが、本稿では株価等の変化は考えないことにしよう。

■経常収支は貿易収支、サービス収支等の合計

経常収支は、貿易収支、サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支を合計したものである。いずれも収支であるから、外貨の受取から支払を差し引いた金額となる。

貿易は、財の輸出入である。サービス貿易というのは、日本人が海外旅行で食事代金を払えば輸入、外国人が日本旅行で食事代金を払えば輸出になる。

じつは、材の輸出入とサービスの輸出入は似ている。日本人が自動車を作ったり料理を作ったりして働き、外国人が自動車に乗ったり料理を食べたりして楽しみ、外国人が日本人に代金を支払うのが輸出である。反対が輸入である。

そこで、統計上も「財・サービスの輸出と輸入」といった具合にまとめて表示される場合がある。

第一次所得収支は、海外との利子や所得の受払である。外国の銀行に預金して受け取った利子、外国の株式を持っていて受け取った配当、等が受取に、反対が支払となる。

第二次所得収支は、途上国に対して日本国が行なっている援助などである。

ちなみに、日本の経常収支統計を見ると、貿易収支とサービス収支と第二次所得収支は概ねゼロで、第一次所得収支が大幅な黒字となっていて、合計した経常収支も当然ながら大幅な黒字となっている。

■経常収支は家計簿と似ている

じつは、経常収支は家計簿と似ている。財・サービスの輸出は、日本人が働いて他人が喜んで代金を払ってくれるわけであるから、会社のために働いて給料を受け取るのと似ている。

財・サービスの輸入は、外国人が働いて日本人が楽しんで代金を払うものであるから、家計で言えば消費に当たる。

第一次所得収支は銀行預金の利子受取や住宅ローンの利子支払等の差額に相当する。第二次所得収支は赤い羽根共同募金等に相当する。

以上を合計したものが「家計簿の黒字、赤字」であり、「経常収支の黒字、赤字」となる。家計簿が黒字ならば一家の純資産が増えている(預金等が増えているか借金が減っているか、以下同様)ということだし、経常収支が黒字ならば日本国の純資産が増えているという事なのである。

ちなみに、筆者が貯金を引き出して株を買った場合でも、我が家の財産総額は変化しないし、家計簿にも載らない。家計簿以外の「財産や借金の一覧表」等には載るであろうが。

それと同様に、日本人投資家が銀行から預金を引き出して米国の株を買った場合でも、経常収支には影響しない。

ただ、その場合には他の投資家からドルを買う必要がある。ドルを買った相手が輸出企業であれ、他の日本人投資家であれ、日本人の間での取引であるから、日本国と海外との取引にはならない。

外国人からドルを買って円を払った場合には、日本人のドル資産が増え、外国人の円資産が増えるが、差し引きすればゼロである。そうした取引は、国際収支統計の中で経常収支とは違う場所に記載される。

■国が赤字なのに日本国が黒字なのは民間が黒字だから

日本国を日本政府と民間部門に分けよう。本稿では簡略化のため、地方公共団体も「民間」に入れてしまおう。政府は海外との取引をしないとすれば、世の中の取引は「政府と民間」「民間と海外」のみになる。

国が赤字だという事は、中央政府が民間から借金をして物やサービスを買ったという事である。日本国が黒字だという事は、海外が民間から借金をして物やサービスを買ったという事である。

つまり、日本国の民間部門は、政府にも外国にも金を貸して物やサービスを売っているという事になる。

「父さんが給料の範囲で暮らせずに母さんから借金をしている」「母さんは給料をほとんど使わず、一部を父さんに貸しているが、なお余っているので銀行に貯金している」「その結果、家族全体としては財産が借金より多い」というわけである。

一家を全体として見れば、何も問題は無い。家の中では夫婦喧嘩が絶えないかも知れないが(笑)。

(12月2日発行レポートから転載)

TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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