米中冷戦自体より怖いのが、投資家等々の不安心理-

2019/08/09

(要旨)
■米中は本格的な冷戦状態に
■米中貿易戦争自の影響は軽微
■「景気は気から」が怖い
■要注意なのは米中分断の恐怖

(本文)
■米中は本格的な冷戦状態に
米国は中国に追加関税を課し、中国を為替操作国に指定した。一方の中国は、米国からの農産品の購入を一時停止すると発表した。米中の冷戦が本格化しつつあるわけだ。

米国では、トランプ大統領が選挙目当てで中国に妥協を迫る一方、議会多数派は米中の覇権争いを強く意識しているので、妥協せずに肉を切らせて骨を断つ覚悟であるようだ。

米国議会の多数派としては、中国が不正に入手した技術などで米国を凌駕する力を付けようとしている事が我慢できず、中国経済を叩き潰す必要性を感じているわけである。

一方の中国も、メンツの国なので、売られた喧嘩は買わざるを得ない。国内事情としても、下手に妥協をすると対米強硬派との権力闘争が激化して指導部の権力が揺らいでしまうリスクがあるようだ。

中国としては、時間稼ぎを試みていたようだが、米国がそれを認めない姿勢を見せたことで、いよいよ対立の激化が避けられなくなってきた、という事であろう。

■米中貿易戦争自体の影響は軽微
もっとも、米中貿易戦争自体の世界経済への影響は、限定的であろう。米中両国は痛むだろうが、それは覇権争いのコストとして捉えられるはずである。「覇権を争ってミサイルを撃ち合うよりはマシだ」と考えるのである。

米国が中国から輸入しているものは、他国(以下ではベトナム等と記す)から輸入される事になろう。したがって、中国の景気が悪化した分だけベトナム等の景気が拡大し、世界の景気への影響は限定的な筈だ。

もちろん、「ベトナム等が中国ほど上手に作れないため、世界が困る」といった事は起こり得るが、影響は限定的であろう。本当に中国でしか作れないなら、米国企業が関税を支払って中国から輸入すれば良いのだ。それで米国の景気が悪化した分は、米国政府が関税収入を用いて景気対策をすれば良かろう。

中国の対米輸入についても同様である。こちらの方が「米国でしか作れないから、関税を払って米国から輸入する」ケースが多そうだが。

日本企業としては、中国の景気が悪化して対中輸出が減った分は、ベトナム等への輸出が増えるから、特段の影響は受けないはずである。

むしろ、漁夫の利が期待できるかも知れない。中国が米国から輸入していた物の一部は、日本からの輸入に振り替えられるかも知れないからだ。

加えて、資源多消費国である中国の景気が減速すれば、世界的な資源価格の下落が日本経済に恩恵をもたらすかも知れない。

■「景気は気から」が怖い
このように、米中貿易戦争自体の影響は限定的であるが、問題は「米中貿易戦争で何が起きるかわからないから、当分の間は投資をせずに様子を見よう」と考える投資家や企業が増える可能性である。

皆が株価が下がると思うと皆が株の売り注文を出すので株価が実際に下がる、というのが株式市場の「美人投票」であるが、景気に関しても似たような事は起こり得るのである。

筆者としては日本の輸出企業に「中国向けの輸出が減ってもベトナム等への輸出が増えるから、安心して設備投資をしましょう」と言いたいが、責任ある経営者としてはそうも行かないのであろう。

「ベトナム等への輸出が増えない可能性もある。設備投資をしてベトナム等への輸出が増えなかった場合の損失は大きい。設備投資をせずに輸出のチャンスを逃すのも嫌だが、そちらの方がまだマシだ」と考えかねないのである。

世界中の企業がそう考えて設備投資を手控えるような事になれば、世界経済が不況に陥り、日本の輸出が本当に減少してしまうかも知れない。

■リスクシナリオは米中分断の恐怖
貿易戦争による景気悪化を恐れて設備投資を手控える、というのも困るが、それより遥かに大規模な影響が出る可能性があるのは、米中分断への恐怖であろう。米中関係が、かつての冷戦時代の米ソ関係のようになっていく、という恐怖である。

現在の米中関係が一気に米ソのようになるというわけではなかろうが、リスクとしては「米国と付き合いたければ、中国とは付き合うな」という事になる可能性はあろう。

世界中の企業が、そうなるリスクを意識して中国との取引を減らすような事になれば、影響は甚大なものとなりかねない。

まずは、中国に投資する企業が激減するだろう。中国に工場を建てても、将来は中国での商売が出来なくなるかも知れないからだ。そうなれば、中国向けの設備機械や部品の輸出が激減するだろう。

それに加えて、「今後は中国向けの輸出が減って行くかもしれない。そうだとすれば、中国向けの輸出のための製造ラインは新設せず、古くなっても維持更新せずに放置しよう」という企業が増えるならば、世界の設備投資が激減するかも知れない。

その時に、ベトナム等への投資が増え、ベトナム等への輸出増加を見越した国内工場の増設が行われれば良いのだが、上記のような経営者の心理を考えると、それは容易ではないかも知れない。

「米中冷戦がどうなるか」にも要注目だが、「人々が米中冷戦をどう予想するのか」にも要注目である。こちらの方が遥かに難しい作業となるが、今後数年間の世界経済を考える際には、避けて通れない課題であろう。

本稿は以上であるが、関連する拙稿https://column.ifis.co.jp/toshicolumn/tiw-tsukasaki/95456も併せてお読みいただければ幸いである。

(8月7日発行レポートから転載)

久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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