トランプ米政権のドル安政策の現在地

2025/06/09

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◆外交・安保・軍事戦略の情報収集

国家の外交政策・安全保障・軍事戦略を支えるための情報は、インテリジェンスと呼ばれます。その主な集め方として、①人に直接会って情報を得る「ヒューミント(HUMINT: Human intelligence)」や、②公開情報から意図を読み解く「オシント(OSINT: Open source intelligence) 」と呼ばれる手法等があります。

一般に重要政策の9割以上は公開情報(OSINT)から導き出せると言われます。マスメディア報道・ソーシャルメディア情報・公的文書・統計データ・学術文献などの公開情報に、核心的な情報のほとんどが潜んでいるというわけです。ただし、オシントには高い専門性が必要とされています。膨大な情報の信頼性や正確性を見極めながら、有価値情報を見出し、それらを繋ぎ合わせて考察・分析する作業が必要なためです。

◆「レートはファンダメンタルズ反映」 vs 「水準議論せず」

金融市場が注視する経済政策に関する情報は、国家機密が多く含まれる外交・安保・軍事戦略に比べて、オシントが重視される傾向が強いと考えられます。以下では、公開情報に基づいて、最近の米国の為替政策の分析に挑戦してみたいと思います。

第2次トランプ政権になってから、日米財務相会談が2度(4/24と5/21)開かれました。市場の注目は、「日米政府間で為替レートの認識がどう議論されたか」でした。4/24の会談後、ほぼ全てのマスメディアが一斉に「為替の議論はなかった」と指摘しました。ただ、国内大手新聞1社だけが1面トップで「米国はドル安を望むと述べた」と報じたのです。日本政府はこの報道の内容を強く否定しました。

5/21の会談後にも一波乱ありました。米財務省が発表した声明に「今回も両氏は為替水準については議論しなかった(as in their previous meeting, they did not discuss foreign exchange levels)」と記されました。ただ、「現在のドル円レートはファンダメンタルズを反映している(at present, the dollar-yen exchange rate reflects fundamentals)」との記述もありました。水準を議論していないのに、現在のレートがファンダメンタルズを反映しているとの説明は、矛盾しているように見えます。

なお、日本の財務省が別途発表した声明では、「為替水準は議論していない」と明記していますが、「レートはファンダメンタルズを反映している」とは書かれていません。

◆背景に米国のドルを巡る複雑な思惑?

製造業の復権を目指すトランプ政権は、ドル安を嗜好しているとみられています。強すぎるドルは輸出に不利であり、国内製造業の逆風だからです。他方、足もとの為替市場では、ドルが韓国ウォンをはじめとするアジア通貨等に対して下落しています。総合的価値を示すドルインデックスは約3年ぶりの安値圏にあります。また、トリプル安(米株・米国債・ドルの同時安)もしばしば発生しています。背景にはトランプ大統領の政策運営を巡る不安や米国債の格下げなどがあります。ドル安誘導はドルの大幅安を招くリスクと隣り合わせの状況です。2回の日米財務相会談後の混乱には、「長期的にはドル安が望ましいが、当面はドル安誘導は回避しておきたい」という米国の複雑な思惑が背景にあるのではないでしょうか。

今の米国には、日本に対してすぐに円安是正を求める余裕はないように見えます。そうであれば、当面は日銀に対して円安是正を意図した利上げ圧力が向かう可能性は低いのかもしれません。

(シニアストラテジスト 稲留 克俊)

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