改革でブラジルレアルは上昇に向かうのか?

改革でブラジルレアルは上昇に向かうのか?

1.財政赤字、投資の不振から低成長続くブラジル経済
2.改革の第一歩、年金改革法は成立。新たな行財政改革も進展中
3.経済指標の改善と政治・政策の安定化がブラジルレアル反転のカギ

資源輸出の低迷による景気悪化や、政情不安の高まりを背景に、南米諸国の通貨は11月以降下落傾向にあります。ブラジルも例外ではなく、11月下旬には対米ドルで最安値を付けるなど、不安定な動きとなっています。
ブラジルは、今年の11月に大きな政治的課題だった年金改革法を成立させ、これまでの低成長から抜け出すことが出来るとの期待が高まり、通貨レアルの支援材料になるはずだっただけに、南米周辺国の政治不安の影響等を強く受けている形です。本稿では、ブラジル経済のこれまでの低迷の要因を振り返り、年金改革の重要性を改めて確認した上で、通貨レアルの今後の見通しを考えてみたいと思います。

1.財政赤字、投資の不振から低成長続くブラジル経済

■2003年以降、急速に経済成長する新興国、BRICSの一つとして注目されたブラジル経済は、2010年代には減速し、2014年にはゼロ成長、2015年、2016年は連続してマイナス成長となりました。

■2003年から13年続いた労働者党(PT)政権下で行われたバラマキ政治によって、政府の財政赤字が深刻化し、2015年から公共料金を大きく引き上げたため、インフレの加速と中央銀行の利上げを招いたことが景気後退につながりました。ブラジルの投資や消費は減速し、ブラジルレアルは下落しました。

■現在はマイナス成長からは脱したものの、前年比1%前後の低成長が続いています。この低成長の主な背景としては財政赤字が挙げられます。

■PT政権のバラマキ政策と景気減速の影響等により2014年以降ブラジルの一般政府債務残高は急速に増加し、対GDP比率は2018年に87.9%となりました。2010年~2017年平均での中国の46.3%、インドの34.8%に比べてもかなり高い水準です。財政赤字のため公的投資が控えられた他、汚職の横行などから投資意欲が低下した可能性があり、投資の不振が顕著となりました。

2.改革の第一歩、年金改革は成立。新たな行財政改革も進展中

年金改革は成功

■こういった状況下、ブラジルは2016年から本格的な財政赤字削減に乗り出しました。その中で最も重要と考えられるものが年金改革です。

■ブラジルの年金制度は過度に手厚いものだったことに加え、高齢化の進展もあり財政赤字の主因となっていました。年金改革は、まず2016年12月に当時のテメル政権が法案を議会に提出しましたが、反対が多く2017年に断念されました。その後、2018年の総選挙を経て発足したボルソナロ政権が、今年2月に新たに法案を議会に提出し、11月12日、年金改革法が成立しました。

■この年金改革法の柱は、年金支給年齢の引き上げです。これまでは、例えば18歳から働き保険料を払い始め、納付年数が35年に達すれば男性では53歳から年金を受け取れました。これが改革後は65歳からの受取開始となります。

■今回の改革により今後10年間で計8,000億レアルの歳出削減効果が見込まれています。ブラジル経済省財務局公表の財政改善効果の年次ブレークダウンを基にした弊社の試算では、財政収支対名目GDP比率の改善幅は10年間で7.3%ポイント(0.7%ポイント/年)となり、実質GDP成長率を6.4%引き上げ、年当たりでは約0.6%の成長に相当すると見込まれます。

■ボルソナロ政権にとって経済立て直しは最重要課題であり、財政を再建し、インフラを中心とした成長促進のために投資余力を生み出す必要があります。年金改革法の成立は改革の第一歩であり、過去の政権が成し遂げられなかった大きな成果と言えます。

次は構造改革

■今後は更に、公営企業の民営化の進展、規制緩和や公務員給与の柔軟化などが注目されています。

■公営企業の民営化では、国営石油会社ペトロプラスの子会社の資産売却やインフラ運営権(港湾、空港、鉄道など)の売却などが進められています。2019年の民営化計画は概ね達成されていますが、更に郵政電信公社などの民営化が発表されました。

■政府は構造改革として「ブラジルの更なる飛躍プラン」を発表し、公共支出の柔軟化、地方政府の財政独立強化、公務員関連規則変更等による歳出削減や公共投資拡大を目指しています。

3.経済指標の改善と政治・政策の安定化がブラジルレアル反転のカギ

■年金改革法の成立や、11月に発表されたボルソナロ政権の新たな行財政改革案などは金融市場から好感されています。その結果、ブラジル中銀は金融緩和を続けていますが、金利低下にも拘わらずレアルは比較的安定的に推移していました。

■ところが、その後行財政改革は評価されながらもブラジルレアルは反落し、11月下旬には対米ドルで過去最安値を付ける展開となりました。

■通貨が堅調を維持できなかった背景は3つあると考えられます。

■第一に、原油資源の存在が以前ほど資本流入・通貨サポート要因とならなくなっていると考えられます。11月初旬の油田入札で石油メジャーが参加を見送り、海外からの資金流入期待が剥落した可能性があります。

■第二に、内外の政治的リスクが挙げられます。ボルソナロ大統領の支持率が当選直後より低下している中で、汚職で収監されていたルラ元大統領の釈放を受け、野党勢力が盛り返すとの見方や、アルゼンチンの政治不安、チリのデモなど中南米地域の政治的に不安定なイメージが再確認された可能性があります。米中対立も不透明要因です。

■第三に、米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利据え置きの姿勢を明確にする中で、ブラジル中銀の追加緩和観測は根強いことが挙げられます。

経済指標の改善と政治・政策の安定により、レアルが反転する可能性があろう

■弊社では、改革の進展→リスクプレミアム低下(実質金利低下)→景気回復という見方から、レアルの緩やかな回復を予想してきました。しかし、原油資源の重要性の低下、内外の政治リスク、ブラジルの金融緩和等の要因からある程度慎重な見通しとする必要があると見ています。

■但し、レアルが大きく下落するリスクは限定的と見ています。ボルソナロ政権の政策は中期的にブラジルのファンダメンタルズを改善するものであり、また、通貨は下落しましたがインフレ率は安定しています。ただ、レアルが下げ止まり、安定を取り戻すためには、金融緩和による実質金利の低下によって成長率が持ち直し、ブラジル中銀の利下げに一服感がでることが必要です。ブラジル経済は2019年1.0%成長の後、2020年は2.4%程度に回復すると予想され、2020年前半にかけて景気指標の動向がレアル反転のカギになりそうです。

(2019年12月 4日)

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