最近の新興国市場動向

市川レポート(No.427)最近の新興国市場動向

  • 通貨は年初から堅調に推移、その背景には金融市場の安定や、緩やかな米利上げペースがある。
  • 株価指数は大幅に上昇、債券指数も底堅い動きにあるなど、新興国からの資金流出はみられず。
  • 新興国経済の見通しは良好、今回は米利上げで新興国市場が混乱という単純な流れにはない。

 

通貨は年初から堅調に推移、その背景には金融市場の安定や、緩やかな米利上げペースがある

今回は、最近の新興国市場の動向を確認します。まず為替市場からみていくと、年初から主要新興国の通貨は対米ドルで総じて堅調に推移していることが分かります(図表1)。2017年は、春先に地政学リスクが浮上したものの、2016年の年初にみられたような中国の景気減速懸念や原油安を背景とする金融市場の大きな混乱はなく、これが新興国通貨の安定につながっていると思われます。

また米国では、利上げ局面のなか、米連邦準備制度理事会(FRB)が極めて慎重な金融引き締めの舵取りを行っているため、年初から長期金利の上昇が抑制されています。その結果、米ドルが対主要通貨で総じて軟調に推移し、これが新興国通貨の相対的な堅調さにつながっています。FRBは今後も金融政策の正常化をゆっくり進める見通しで、米利上げを起因に新興国通貨が動揺する可能性は低いと考えます。

 

株価指数は大幅に上昇、債券指数も底堅い動きにあるなど、新興国からの資金流出はみられず

次に株式市場の動きを検証します。MSCI新興国株価指数(現地通貨建てのトータル・リターン指数)について、2016年12月30日から2017年8月14日までの騰落率は、19.7%となっています。MSCI先進国株価指数(現地通貨建てのトータル・リターン指数)の同期間における騰落率は9.6%ですので、総じて新興国株は、先進国株を上回る良好なパフォーマンスを示していることになります。

また債券市場に目を向けると、バンクオブアメリカ・メリルリンチ新興国ソブリン債券指数(現地通貨建てのトータル・リターン指数)の同期間における騰落率は2.9%でした。株式市場ほどの勢いはありませんが、債券市場も底堅い動きが確認できます。つまり、為替、株式、債券の各市場をみる限り、米利上げ局面においても新興国市場には資金が流入し続けていると推測されます。

 

新興国経済の見通しは良好、今回は米利上げで新興国市場が混乱という単純な流れにはない

最後に、新興国市場から一転して資金が流出する、リスクシナリオについて考えてみます。例えば、世界的にインフレが加速し始め、米国などの早期利上げ観測が強まった場合は、米長期金利や米ドルの急騰が予想されます。新興国では相対的に通貨が下落し、株式市場や債券市場に動揺が広がる恐れがあります。この他、中国の景気が急速に冷え込んだ場合、新興国経済が悪影響を受けるとの見方から、資金流出につながる可能性があります。

ただ弊社では、新興国の景気について、この先も回復傾向が続くとみており(図表2)、また世界全体でも、緩やかな経済成長と低インフレが継続すると予想しています。この見通しの下では、新興国市場からの資金流出は限定され、むしろリスクを選好する投資マネーが新興国の資産を下支える展開が見込まれます。少なくとも今回は、米利上げ→米長期金利上昇→新興国市場混乱、という単純な流れにはなっていません。

 

 

 

170815図表1170815図表2

 

 

(2017年8月15日)

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