FRBのバランスシート縮小~基本的な仕組みを考える(その2)

市川レポート(No.393)FRBのバランスシート縮小~基本的な仕組みを考える(その2)

  • FRBへの償還金を賄うための証券発行で米財務省のバランスシートは不変、焦点は証券の年限。
  • 発行証券がT-Billsなら米民間銀行が準備預金で購入、よって民間銀行のバランスシートも不変。
  • FRBのバランスシートは2023年に3兆ドルへ、市場との対話が十分ならボラティリティ急騰は回避。

FRBへの償還金を賄うための証券発行で米財務省のバランスシートは不変、焦点は証券の年限

今回は、5月17日付レポートに引き続き、米連邦準備制度理事会(FRB)の保有資産(バランスシート)縮小について、その基本的な仕組みについて考えます。すでにお話しした通り、FRBが「資産の部」における「財務省証券」などの償還金再投資を段階的に終了していくと、財務省証券などの勘定科目の残高が減少します。同時に「負債の部」では「準備預金」の残高が減少し、バランスシートは縮小に向かいます。

この時、他の経済主体、具体的には米財務省や米民間銀行のバランスシートがどのような影響を受けるのか、以下確認します。FRBは財務省証券の償還金を再投資しない場合、米財務省から償還金を受け取ります。米財務省は、財政収支に変化がない限り、新たな財務省証券を発行してFRBに支払う償還金を賄います。そのため米財務省のバランスシート規模はほぼ不変と考えられますが、新たに発行する証券の年限が焦点となります。

発行証券がT-Billsなら米民間銀行が準備預金で購入、よって民間銀行のバランスシートも不変

米財務省が、FRBへの償還金を賄うために新たに発行する財務省証券は、長期、中期、短期、いずれの年限になるかということについては、当然ながら米財務省の方針次第となります。しかしながら市場では、FRBのバランスシート縮小開始後、しばらくは短期債、すなわちT-Bills(償還期間が1年以内の割引債)の発行が増えるのではないかとの予想もみられます。

FRBの段階的な再投資終了により、米債券市場では、米民間銀行がFRBに代わる証券購入主体になると思われます。米民間銀行の証券購入原資は、FRBに預けている準備預金です。米財務省が新たに発行する財務省証券が、一般的に価格変動が小さいとされるT-Billsであれば、準備預金からの資金シフトはスムーズに行われる可能性があります。なおT-Billsも準備預金も、米民間銀行では資産の部の勘定科目ですので、米民間銀行のバランスシート規模もほぼ不変と考えられます。

FRBのバランスシートは2023年に3兆ドルへ、市場との対話が十分ならボラティリティ急騰は回避

以上をまとめると、①FRBが償還金の再投資を終了、②FRBの資産の部で財務省証券などの残高が減少、③米財務省が償還分の証券(T-Billsなど)を発行(米財務省のバランスシートは不変)、④民間銀行がFRBに預けている準備預金を原資にT-Billsなどを購入(米民間銀行のバランスシートは不変)、⑤FRBの負債の部で準備預金の残高が減少(FRBのバランスシートは縮小)となり、これがFRBのバランスシート縮小の基本的な仕組みとなります(図表1)。

なお弊社は、再投資の段階的終了は12月に通知され、翌年3月から実行されると予想します。またバランスシートの最終的な規模は3兆ドル程度を想定し、月間230億ドル程度の縮小ペースで、2023年に到達すると考えます(図表2)。FRBはバランスシート縮小にあたり、市場との対話を十分に行い、慎重に操作を進めると思われ、その限りにおいては、米長期金利やドルの為替レートの変動性(ボラティリティ)が急拡大するリスクは抑制されるとみています。

 

170522図表1170522図表2

 

(2017年5月22日)

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