メイ首相演説にみるBrexitの将来像
市川レポート(No.343)メイ首相演説にみるBrexitの将来像
- メイ首相が示したEU離脱の基本方針は、ハードBrexitとされるWTO型ではなく、英国独自型に。
- 英国は離脱通知後にEUと協議を開始、合意内容が双方の議会で承認されれば正式に離脱へ。
- ただ離脱は長い道のりで、交渉難航などの報道のたびに相場がリスクオフで反応する状況は続こう。
メイ首相が示したEU離脱の基本方針は、ハードBrexitとされるWTO型ではなく、英国独自型に
英国のメイ首相は1月17日の演説で、欧州連合(EU)離脱に関する基本方針を示しました。そのなかで離脱交渉に向けた12の優先項目が提示され、英国は移民の制限や司法権の独立を重視し、EU単一市場から完全撤退することが表明されました。しかしながらメイ首相は同時に、離脱後はEUと包括的な自由貿易協定(FTA)の締結を目指すと宣言しました。
また、可能な限り単一市場への自由なアクセスを求め、金融サービスや自動車といった特定産業については、これまでの共通ルールを取り入れる可能性が示唆されました。さらにEU予算については負担金を支払わず、EU域外国との自由貿易も進める意向が示されました。以上より離脱の基本方針は、世界貿易機関(WTO)型(EU単一市場へのアクセスがなく関税が生じる、いわゆるハードBrexit)ではなく、英国独自型と考えられます(図表1)。
英国は離脱通知後にEUと協議を開始、合意内容が双方の議会で承認されれば正式に離脱へ
英国独自型の基本方針は、当然ながら英国にとって望ましい内容になっています。しかしながらEUが離脱する英国にいいとこ取りを容認するとも思えず、離脱交渉は難航が予想されます。離脱に関する今後のスケジュールを大まかに整理したものが図表2です。まずは1月中に、英最高裁がEU離脱通告に関する議会承認の是非を判断する見通しとなっています。
承認が不要なら2017年3月までに離脱が通告され、承認が必要ならば議会承認を経て離脱が通告されます。その後、英国とEUとの離脱交渉が始まりますが、期間は2年と定められています。2017年3月に離脱を通告した場合、2019年3月が期限となりますが、EU加盟国の同意で交渉の延長は可能です。離脱交渉で合意した内容は、英国とEUの双方の議会で審議され、承認となれば英国は正式にEU離脱となります。
ただ離脱は長い道のりで、交渉難航などの報道のたびに相場がリスクオフで反応する状況は続こう
しかしながらスケジュールが順調に進むとは限りません。例えば、英最高裁が離脱通告に議会の承認が必要と判断すれば、2017年3月までの離脱通告は難しくなります。また通告以前に英議会で審議が難航すれば、離脱通告の可否を問うために下院解散、総選挙という展開もあり得ます。この場合は政治的不確実性が高まり、英国経済の見通しを悪化させる恐れがあります。
また英国とEUとの離脱交渉についても、前述の通り難航が予想され、英国が想定している英国独自型の離脱方針が実現するか否かは不透明です。仮に合意に至ったとしても、最終的にはその合意内容について、英国の議会承認とEU全加盟国の議会承認が必要となります。このように英国のEU離脱は長い道のりであり、その間、交渉難航やスケジュール遅延などの報道が出るたびに、相場がリスクオフ(回避)で反応する状況は続くと予想されます。
(2017年1月19日)
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