新興国市場は大丈夫か?

2016/12/08

市川レポート(No.329)新興国市場は大丈夫か?

  • トランプ相場で新興国市場はトリプル安、インフレや外貨債務増などで経済への影響が懸念される。
  • 脆弱な収支構造は資金流出と通貨安の度合いを強めやすいが、アジアはほとんどが経常黒字国。
  • 米政策は要注意も、新興国の通貨危機リスクは小さく、流出資金は再びアジアなどへ戻るとみる。

トランプ相場で新興国市場はトリプル安、インフレや外貨債務増などで経済への影響が懸念される

11月8日の米大統領選挙後、トランプ次期大統領が掲げる大規模減税とインフラ投資の政策に対し、市場では米国の景気拡大、物価上昇、利上げペース加速という見方が強まりました。その結果、米長期金利と米ドルの上昇が顕著になると、投資資金はいったん新興国から米国に還流する動きが加速し、新興国市場では、株安、債券安、通貨安というトリプル安の動きがみられました(図表1)。

年初から低下傾向にあった米長期金利が上昇に転じたことで、これまで新興国に滞留していた利回りを追求する投資マネーが、より安全な米国に移動することは合理的な動きだと思われます。ただこの資金シフトが、米ドル高・新興国通貨安という為替レートの変動を伴って急激に発生した場合、多くの新興国では通貨安による国内物価の上昇や外貨建て債務の急増につながる恐れがあり、新興国経済への影響が懸念されます。

脆弱な収支構造は資金流出と通貨安の度合いを強めやすいが、アジアはほとんどが経常黒字国

図表2は新興国9カ国について、横軸に財政収支の対GDP比、縦軸に経常収支の対GDP比をとり、各国通貨の対米ドル下落率の大きさをバブルチャートで表したものです。双子の赤字(財政収支・経常収支ともに赤字)を抱えるブラジルやトルコなどでは、通貨の下落率が大きくなっていることが分かります。つまり脆弱な収支構造は、資金流出と通貨安の度合いを強めやすいということになります。

ただアジアは、ほとんどの国が経常黒字であり、通貨安は必ずしも経済にマイナスではありません。また物価も総じて落ち着いており、早急な金融引き締めは必要ありません。なお図表2ではマレーシアの通貨安が目立ちますが、同国は原油の純輸出国であるため、米大統領選挙後の米ドル高で、原油相場がしばらく低迷したことが影響したと思われます。なお原油価格はすでに持ち直しており、通貨の下げ幅は縮小に向かうとみています。

米政策は要注意も、新興国の通貨危機リスクは小さく、流出資金は再びアジアなどへ戻るとみる

今後を展望した場合、次の2点について整理しておく必要があります。すなわち、①米金利上昇と米ドル高の持続性、②資金流出に対する新興国経済の耐性、この2点です。①は足元でさすがに一服感がみられ、新興国市場の動揺も落ち着きつつあります。ここからはトランプ政策の内容次第ですが、急激な米金利上昇や米ドル高につながる極端な政策は、米国内の景気や製造業にもマイナスであり、採用される可能性は低いと考えます。

②について、近年では多くの新興国が変動相場制を採用しているため、固定相場制と違い自国通貨安が進行しても自国通貨買い介入を行う必要はありません。そのため介入によって外貨準備が減少し、通貨危機に発展するリスクは過去に比べて小さくなっています。またそもそもトランプ政策は米国の成長を促すことを目的としており、新興国にも恩恵は大きいと考えます。従って流出した資金のうち相応程度は、再び新興国市場に戻る可能性があり、その際は収支の健全性からアジア諸国が選好されやすいと予想します。

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 (2016年12月8日)

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