原油価格と関連市場の動向
市川レポート(No.307)原油価格と関連市場の動向
- ロシアとサウジアラビアの減産に対する前向きな発言で、WTI原油先物価格は51ドル台へ上昇。
- ただ原油関連資産は、米利上げ見通しを背景とする米ドル高などにより、上昇の勢いは幾分抑制。
- 金融市場は全般に落ち着いているが原油高は期待先行、減産の詳細が決まるまで楽観は禁物。
ロシアとサウジアラビアの減産に対する前向きな発言で、WTI原油先物価格は51ドル台へ上昇
ロシアのプーチン大統領は10月10日、トルコのイスタンブールで開催されている世界エネルギー会議(WEC)において、石油輸出国機構(OPEC)による減産への取り組みに協力する意向を明らかにしました。またサウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は11月末までの減産合意に楽観的な見方を示し、これらの発言を受けたWTI原油先物価格は同日、取引時間中に一時1バレル=51ドル60セント水準の高値をつけました。
一般に原油高は、カナダドル、ノルウェークローネ、ロシアルーブルなど産油国通貨の対米ドル為替レートの上昇につながりやすく、またエネルギー関連企業の起債が多い米ハイイールド債券や、資源関連事業の多いMLP(Master Limited Partnership、米国で行われる共同事業形態のひとつ)の価格上昇要因と考えられています。そこで今回は、これら関連市場の動向を確認し、原油価格の当面の見通しについて考えます。
ただ原油関連資産は、米利上げ見通しを背景とする米ドル高などにより、上昇の勢いは幾分抑制
OPECが減産の枠組みで合意した9月28日の前日から10月10日までの期間について、原油および原油関連資産の変化率をまとめたものが図表1です。この期間、WTI原油先物価格は約15%上昇しましたが、産油国通貨の対米ドル為替レートの上昇率は総じて小幅で、カナダドルは0.2%にも満たない状況です。また米ハイイールド債券指数やMLP指数の上昇率も1%台で伸び悩んでいます。
この理由について考えてみます。図表1の参考値で、米長期金利と米ドルの上昇が確認できます。この背景には米利上げ確率の上昇があります。フェデラルファンド先物金利から算出した12月の利上げ確率は、9月27日が49.9%でしたが、10月10日は67.6%へ上昇しました。つまり米利上げの織り込みが進んだことによる米ドル高が産油国通貨の対米ドル上昇率を抑制し、同じく利上げ織り込みによる米長期金利の上昇が、米ハイイールド債券や高配当資産であるMLPの価格上昇を抑制したと推測されます。
金融市場は全般に落ち着いているが原油高は期待先行、減産の詳細が決まるまで楽観は禁物
このように原油高と米利上げの織り込みが同時に進む状況下では、単純に原油高で原油関連資産が上昇するのは難しいことが分かります。ただ今回の大幅な原油高は、少なくとも原油関連資産の下支えになっており、そのため以前よくみられたような、「米利上げ確率の上昇→米ドル高→原油安→原油関連資産安」という流れから生じる市場の混乱は回避されています。
現在、原油相場はポジティブなニュースに反応しやすい地合いにあり、原油先物取引における投機筋の買いポジションも増加傾向にあります(図表2)。ただ国別の生産上限はまだ決まっておらず、OPEC加盟国間の協議はこれから行われる見通しです。そのため原油高は期待先行の側面が大きく、11月30日のOPEC総会で最終的な減産の詳細が決まるまで楽観はできないと思われます。
(2016年10月11日)
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