英EU離脱は欧州分裂の序章なのか?

2016/06/27

市川レポート(No.269)英EU離脱は欧州分裂の序章なのか?

  • 英国民投票の結果を受け、EU域内に離脱の連鎖が広がり、英国内に亀裂が広がるという懸念も。
  • 離脱通告から2年は英国にEU法を適用、ただ離脱派は通告を急がず離脱時期は見通しにくい。
  • 英離脱が欧州分裂の序章とみるのは行き過ぎ、英国とEUの積極行動が危機を乗り切るポイント。

英国民投票の結果を受け、EU域内に離脱の連鎖が広がり、英国内に亀裂が広がるという懸念も

6月23日に行われた英国の国民投票では、欧州連合(EU)からの離脱支持が51.9%という結果になり、英国のEU離脱が決まりました。欧州の政治・経済の先行きに不透明感が強まったことで、6月24日の金融市場では世界的に株価の急落などリスクオフ(回避)の流れが加速しました。EUの大国である英国が抜けることで、欧州の結束が揺るぎ、他国の反EU勢力を勢いづけて、離脱の連鎖が広がるという懸念もみられます。

また今回の投票結果を受け、英国内にも亀裂が生じています。残留を訴えてきたキャメロン首相は辞任を表明し、離脱派を中心とする新政権が発足する見通しです。また英連合王国を構成するイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドのうち、スコットランドは英連合王国からの独立を問う住民投票を再度実施する可能性が高まり、北アイルランドは隣国アイルランドとの統一に関わる住民投票実施の意向を示しています。

離脱通告から2年は英国にEU法を適用、ただ離脱派は通告を急がず離脱時期は見通しにくい

ただ英国はすぐにEUを離脱する訳ではありません。今後のスケジュールを整理すると以下の通りになります(図表1)。まず英国では10月の保守党大会で新党首が選出され、新政権が発足する見通しです。キャメロン首相はここまで職務を続けることになります。新政権はリスボン条約50条に基づき離脱の意思を欧州理事会に通告しますので、通告時期は10月以降になるとみられます。

離脱の交渉期間は通告時期を起点として2年間ですが、全EU加盟国が合意すれば延長が可能です。この間、英国にはEU法が適用され、英国とEUは既存のEUとの貿易協定(図表2)を参考に、新たな通商関係構築のための交渉を行います。交渉妥結後、所定の手続きを経て、英国はEUから離脱することになります。ただ離脱派はEUへの通告は急がないとしており、また交渉自体も難航が予想されるため、離脱時期は見通しにくい状況です。

英離脱が欧州分裂の序章とみるのは行き過ぎ、英国とEUの積極行動が危機を乗り切るポイント

欧州における経済統合は、約60年にわたって「深化」と「拡大」が進められてきました。今回EUは、英国の離脱という大きな試練に直面しましたが、これが欧州分裂の序章とみるのは行き過ぎと思われます。欧州では過去にも通貨危機(1992年)や債務危機(2010年)が発生し、そのたびに統合への強い懸念が浮上しましたが、欧州各国は協調して制度改革などで乗り切り、統合を強化してきました。

ただ英国のEU離脱は既定路線となったため後戻りはできません。欧州の政治・経済を安定させ、世界の金融市場を落ち着かせるためには、英国、EUともまずは離脱に向けて速やかに交渉を開始することが求められます。また英国の新首相には英連合王国をまとめる求心力と国内景気への十分な配慮が期待され、EUも改めて域内の結束を固める必要があります。つまり英国とEUの積極行動が今回の危機を乗り切るポイントと思われます。

160627図表1160627図表2

 

 (2016年6月27日)

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