リスクオフ相場と日本株
市川レポート(No.185)リスクオフ相場と日本株
- 原油安を嫌気して相場はリスクオフに傾斜、日経平均は一時19,000円近くまで下落。
- ただし日本株の下げは一時的な需給の歪みや、買われ過ぎの短期的な調整という側面も。
- 原油安によるリスクオフ相場においても、日本株は比較的冷静な見方が可能と思われる。
原油安を嫌気して相場はリスクオフに傾斜、日経平均は一時19,000円近くまで下落
今週は世界の金融市場で原油安を嫌気したリスクオフ(回避)の動きが散見されました。12月4日から10日までの間、日米欧の主要株価指数はそろって下落し、日米独の10年国債利回りは軒並み低下(価格は上昇)しました。為替市場では円が全面高となり、またECBの追加緩和期待を背景に積み上げられたユーロ売りのポジションが巻き戻され、ユーロは対ドルを中心に買い優勢の展開となりました。
原油安でのリスクオフは「思惑」の影響が大きいと思われます。例えば「原油安→エネルギー関連企業の業績悪化→債務の不履行(デフォルト)→当該企業の株式や社債の価値下落」、あるいは「原油安→産油国の経済・財政の悪化→産油国の政府系ファンド(SWF)による投資資金の回収→株安」という思惑です。実際にこのような事態が起こらなくても、思惑の段階で相場は反応します。日経平均株価が10日、11日と19,000円近くまで下落したのも、これに沿った動きと推測されます。
ただし日本株の下げは一時的な需給の歪みや、買われ過ぎの短期的な調整という側面も
それならば原油相場の落ち着きと共にリスクオフは修正されることになるため、足元の相場動向を過度に警戒する必要はないと考えます。なお日本株の下げについては一時的な需給の歪みも影響していた可能性があります。日本では12月11日が先物・オプションの特別清算指数(SQ)算出日でした。裁定買い残をみると11月まで高水準に積み上がっていたため(図表1)、SQを控えて裁定取引の解消に伴う現物の売りが一部出回ったと推測されます。
またDatastreamのデータによれば、10月1日から12月3日まで、東証株価指数(TOPIX)の予想1株あたり利益(EPS)は0.4%低下した一方、予想株価収益率(PER)は一気に16.9%上昇しました。そのため相場の過熱感を測る騰落レシオ(値上がり銘柄数を値下がり銘柄数で割りパーセントで表す)をみると、12月3日は123.1%に達し、買われ過ぎとされる120%を上回りました。つまり短期的に調整が入ってもおかしくないタイミングだったといえます。
原油安によるリスクオフ相場においても、日本株は比較的冷静な見方が可能と思われる
SQを通過すれば裁定取引の解消に伴う現物の売りは一巡することになります。また12月10日時点の騰落レシオは102.1%まで低下しました。これでリスクオフのきっかけとなった原油相場が落ち着けば、日本株を買い戻す動きも徐々にみられると考えられます。しかしながら原油価格については、石油輸出国機構(OPEC)が価格よりも生産シェアを優先する姿勢を明確にしており、しばらく下値不安がくすぶり続ける可能性はあります。
ただ前回のレポートでもお話しした通り、原油輸入国である日本にとって原油安はそれほど悪い材料ではありません。2014年12月30日から2015年12月10日までWTI原油先物価格は32.1%下落しましたが、TOPIXは9.4%上昇しました。東証33業種のうち鉱業、石油・石炭製品など14業種はTOPIXをアンダーパフォームしていますが、電気・ガス業、化学、陸運業、空運業など19業種はアウトパフォームしています。つまり原油安によるリスクオフ相場においても日本株は比較的冷静な見方ができると思われます。
(2015年12月11日)
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