日銀政策委員の顔ぶれと金融政策の見通し(その2)
市川レポート(No.155)日銀政策委員の顔ぶれと金融政策の見通し(その2)
- 家計については現状「所得から支出への前向きな循環メカニズム」の作用が確認できる。
- 企業活動には中国経済の減速が響いており、また物価の伸びは鈍いがデフレ懸念は不要。
- 来年1月までの追加緩和を見込むが、そろそろ現行の政策理論を見直してもよかろう。
家計については現状「所得から支出への前向きな循環メカニズム」の作用が確認できる
前回お話しした通り、政策委員の幅のある緩和スタンス(積極派3名、慎重派3名、中立派3名)や最近の個人消費動向、また比較的安定しているドル円相場などを考慮すれば、10月30日に急いで追加緩和を決定する理由は少ないと思われます。しかしながら、ここ数カ月の金融市場の混乱によって、追加緩和の可能性は春先よりも高まったとみています。
そこで今回は日銀の次なる一手とその時期について考えます。まずは国内のマクロ環境を整理するため、消費動向から順に確認します。8月の毎月勤労統計調査では実質賃金指数が前年同月比+0.2%と2カ月連続のプラスとなり、同月の家計調査では2人以上の世帯の実質消費支出が前年同月比+2.9%と3カ月ぶりに増加しました。つまり黒田総裁が指摘する「所得から支出への前向きな循環メカニズム」が作用していることが確認できます。
企業活動には中国経済の減速が響いており、また物価の伸びは鈍いがデフレ懸念は不要
次に企業動向に目を向けます。9月の日銀短観では業況判断指数が大企業製造業で悪化した一方、非製造業は改善しました。また設備投資についても全体的に強気の姿勢がうかがえます。一方、8月の鉱工業生産は前月比-0.5%と2カ月連続で減少し、同月の機械受注も前月比-5.7%と3カ月連続で減少しました。また共に基調判断が前月から下方修正されており、中国経済の減速が強く影響していることが分かります。
8月の消費者物価指数の前年比伸び率をみると、生鮮食品を除く総合指数は-0.1%と前月から低下したものの、食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数は+0.8%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は+1.1%と、共に前月から上昇しました(図表1)。また9月の日銀短観における全規模全産業の1、3、5年後の物価見通しは、それぞれ前回調査から小幅に低下したものの(図表2)、デフレを懸念するほどではありません。
来年1月までの追加緩和を見込むが、そろそろ現行の政策理論を見直してもよかろう
そのため10月30日の追加緩和は見送る可能性が高いとみています。ただ黒田総裁自身、2%の目標達成はまだ道半ばと認めており、10月30日公表の展望レポートで物価見通しが下方修正され、目標達成時期が先送りとなった場合、次回の展望レポート公表時、すなわち来年1月までには追加緩和が行われると予想します。その際、円高が大幅に進行していた場合は長期国債の買い入れ増額(年間保有残高を10兆円程度拡大)が、そうでない場合は買い入れ平均残存期間の延長、指数連動型上場投資信託受益権(ETF)の買い入れ増額が、政策の中心になると思われます。
ただ6月19日付レポートでも述べた通り、そろそろ現行の政策理論を見直してもよいとみています。例えば目標達成時期は、物価の安定的なプラスの伸びが続いた時点で、「2年程度」を「中期」に変更し、国債の大量購入による市場への影響を考えれば、操作目標をマネタリーベースから金利に戻す議論も必要と思われます。
(2015年10月9日)
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