日銀の追加緩和の可能性
市川レポート(No.144)日銀の追加緩和の可能性
- 日銀の追加緩和期待が高まりつつあるなか、リフレ派議員の発言に相場は大きく反応。
- 国内外の経済・金融環境を勘案すれば、追加緩和の可能性は春先よりも高まっている。
- 年内に追加緩和が実施された場合でも現行政策の枠組みを維持できるか見極めが必要。
日銀の追加緩和期待が高まりつつあるなか、リフレ派議員の発言に相場は大きく反応
9月10日午後、自民党の山本幸三衆議院議員による「日銀の追加緩和は経済・物価情勢の展望(展望レポート)を公表する10月30日の金融政策決定会合が良い機会」という旨の発言が伝わると、ドル円は1ドル=120円30銭付近から121円30銭付近まで、一気に1円近くドル高・円安が進行しました。また日経平均株価も18,100円付近から200円近く上昇しました。
山本議員はデフレ脱却には大胆な金融緩和が有効と考えるリフレ派の代表的な論客とみられており、4月30日の金融政策決定会合直前にも追加緩和に踏み切る必要があるとの見解を示していました。現在、中国景気の動向や米利上げに関する不透明感が日本経済の先行き不安につながっており、日銀の追加緩和期待が徐々に高まりつつあります。今回の発言はこうした状況のなかで伝わったため、為替や株価が大きく反応したと思われます。
国内外の経済・金融環境を勘案すれば、追加緩和の可能性は春先よりも高まっている
最近の国内経済指標は予想を下回るものが多く(図表1)、7月の機械受注では民間設備投資の先行指標となる船舶・電力を除く民需の受注額が前月比-3.6%と2カ月連続の減少になりました。基調判断は8カ月ぶりに下方修正され、設備投資の先行きにやや慎重な見方が必要になりつつあります。また8月の景気ウォッチャー調査では、2~3カ月先の景気の先行きに対する判断DIは48.2と、横ばいを示す50を8カ月ぶりに下回りました。
個人消費については、急速な円安の進行が輸入物価を押し上げ、食品価格などの上昇による実質購買力の低下が重しになっている可能性があります。こうした足元の国内状況と、米中を中心とする外部要因の不透明感の高まりを勘案すれば、日銀の追加緩和の可能性は春先よりも高まったと判断されます。この先も不安定な相場が続き、国内経済の一段の減速が指標で確認される状況となれば、日銀は年内の追加緩和を検討すると予想します。
年内に追加緩和が実施された場合でも現行政策の枠組みを維持できるか見極めが必要
金融政策に関する年内の主な予定をまとめたものが図表2です。金融・経済環境がここから急速に悪化すれば、日銀の物価目標の達成は更に困難となるため、早ければ10月30日の会合で追加緩和が決定される可能性もあります。また11月4日の郵政3社の上場や、11月16日の7-9月期実質GDP1次速報値の発表を経て、11月18日、19日の会合で追加緩和を判断するというシナリオも考えられます。一方、政府が金融緩和に先んじて2015年度補正予算による経済対策を打ち出し、景気悪化を阻止する姿勢を示すことも、また十分予想されます。
なお日銀が追加緩和を行う場合、具体的な施策として、長期国債の買い入れ増額(年間保有残高を10兆円程度拡大)、買い入れ平均残存期間の延長、指数連動型上場投資信託受益権(ETF)の買い入れ増額などが考えられます。追加緩和が行われた場合、市場はいったん素直に好感すると思われますが、その追加緩和をもって、「期待に強く働きかけることで2016年度前半頃に物価の伸びが2%程度に達する」という現行政策の枠組みを維持できるかどうか、十分に見極める必要があると思われます。
(2015年9月14日)
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