米雇用統計後の日米株式市場の動き

2015/06/09

市川レポート(No.88) 米雇用統計後の日米株式市場の動き

  • 5月の米雇用統計で「スラック(需給の緩み)」の改善傾向が確認された。
  • 年内利上げ観測が高まり、米国市場は長期金利上昇、米ドル高、株安で反応。
  • 利上げができるほどの米景気回復は、日米株式市場にとって好ましい状況。

 

5月の米雇用統計で「スラック(需給の緩み)」の改善傾向が確認された

 米労働省が発表した5月の非農業部門雇用者数は前月比28万人増と、市場予想の同22万6千人を大幅に上回りました(図表1)。直近6カ月を平均した雇用者数の伸びは月23万6千人となり、雇用の底堅い伸びが続いています。内訳をみると、民間サービス部門が前月比25万6千人増と好調で、レジャー・接客業、小売業で雇用が伸びた一方、民間生産部門では鉱業で雇用の減少が続くなど、さえない動きが目立ちました。

 労働市場の「スラック(需給の緩み)」に関連する指標として、①平均時給の前年比伸び率、②6カ月以上の長期失業者比率、③労働参加率、④経済的理由によるパートタイマー、この4つが挙げられますが、今回は④を除いて改善しました。具体的な数字を確認すると、①は2.2%から2.3%へ拡大し、②は29.0%から28.6%へ低下、③は62.8%から62.9%へ上昇しましたが、④は658万人から665万2千人へ増加しました。なお5月の失業率は5.5%と前月から0.1ポイント悪化しましたが、これは労働参加率の上昇が示す通り、求職者の増加が主因と思われます。 

年内利上げ観測が高まり、米国市場は長期金利上昇、米ドル高、株安で反応

 5日の米国債市場では、雇用統計の結果を受けて年内の利上げ観測が強まり、中長期ゾーンを中心に利回りが上昇しました(図表2)。また為替市場では米ドルが主要通貨に対し全面高の展開となり、株式市場では利上げ警戒感からダウ工業株30種平均とS&P500種株価指数が下落しました。利上げをにらんだ動きとしては、国債、通貨、株式ともこれまで通りの反応だったと思われます。なお金利上昇と株価の関係を簡単に整理しておきますと、景気回復に起因する金利上昇は、良好なマクロ経済環境の証左であり、株価の好材料と考えられます。一方、急速なインフレ懸念の強まりに起因する金利上昇は、株価の重しになる恐れがあります。現状の米国における金利上昇は前者によるものと考えます。

利上げができるほどの米景気回復は、日米株式市場にとって好ましい状況

 利上げに対する株式市場の警戒感は強く、週明け8日の東京株式市場は米株安につれて小幅安となりました。この先、米国の利上げ時期が近付くにつれ、世界の金融市場は緊張感の強まる時間帯に入っていくと思われ、日米をはじめ主要株価指数の調整色が一時的に強まる場面も想定されます。ただ米国が利上げを開始できるほどに景気が回復することは、米国株にも世界経済にもプラスに働きます。また米経済の成長拡大で米国向け輸出の増加が見込まれることや、日米金利差拡大によるドル高・円安の動きが輸出関連株などの追い風となることから、日本株にとってもまた好ましい状況です。

 米連邦準備制度理事会(FRB)は慎重に金融政策の正常化を進めるとみられ、米国では経済の成長ペースがゆっくりと加速するなか、緩やかな長期上昇と米ドルの増価が進むと予想されます。そのため利上げ警戒の株安という流れは次第に弱まり、米国の長期金利急騰による金融市場の混乱も回避される可能性が高いとみており、株式市場に深刻なダメージを与え得る米国発のリスクは最終的には抑制されると考えています。

 150609 図表1150609 図表2

 (2015年6月9日)

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