イエレン発言にみる財政・通貨政策の方向性

イエレン発言にみる財政・通貨政策の方向性

  • 現時点では大型経済対策の実施が増税より優先事項、50年債発行も精査するとの考えを示す。
  • 米国が競争的な通貨切り下げを志向することはないと述べトランプ氏のドル安誘導政策と決別へ。
  • 増税よりも財政拡大、為替は市場次第という方針は株価の好材料、今後は政策の中身に注目。

現時点では大型経済対策の実施が増税より優先事項、50年債発行も精査するとの考えを示す

米次期財務長官に指名されたイエレン前米連邦準備制度理事会(FRB)議長は1月19日、上院財政委員会での指名承認公聴会に出席し、財政政策や通貨政策などに関する見解を述べました。まず、財政政策については、大規模な経済対策で債務は増大するものの、金利が歴史的な低水準にある現在、大きな行動に出ることが最も賢明であり、長期的には経済対策の恩恵は代償を大きく上回ると述べ、公聴会参加者に財政拡大の理解を求めました。

企業や富裕層への増税については、バイデン氏が公約に掲げるインフラ投資や研究開発支援などを実施する際、これらの財源としていずれ必要になるものの、当面は新型コロナウイルスの感染拡大抑制と、経済の回復が優先されるとの考えを示しました。また、50年債について問われると、超長期の資金を調達する利点はあるとした上で、この年限の国債が市場でどう受け止められるか精査したいと述べました。

米国が競争的な通貨切り下げを志向することはないと述べトランプ氏のドル安誘導政策と決別へ

次に、通貨政策について、イエレン氏は米国が競争的な通貨切り下げを志向することはないとの立場を明確にしました。これにより、FRBに金融緩和を求めるなど、ドル安を誘導してきたトランプ前大統領の方針は、完全に修正されることになります。また、為替レートは市場で決まるものだと述べ、貿易相手国に対しても、競争的な通貨の切り下げは、決して容認できないとけん制しました。

なお、イエレン氏はこれまで、対中政策について、踏み込んだ発言をすることはありませんでしたが、今回の公聴会では、厳しい姿勢を示しました。中国は、米国にとって最も重要な戦略的競争相手であるとし、中国政府のダンピング(不当廉売)や、貿易障壁の構築、自国企業への違法な補助金付与は米国企業を圧迫していると指摘、これらに対処するため、すべての手段を使う用意があることを強調しました。

増税よりも財政拡大、為替は市場次第という方針は株価の好材料、今後は政策の中身に注目

イエレン氏が理解を求めた財政拡大について、共和党からは早速、消極的な姿勢が示されており、今後は議会との十分な調整が必要になると思われます。ただ、市場ではすでに、バイデン政権の財政拡大を織り込み、利回り曲線(イールドカーブ)の傾斜化とドル下げ止まりの動きがみられます(図表1、図表2)。なお、50年債は需要を疑問視する向きもあり、実現には相応の時間を要するとみられ、目先のイールドカーブへの影響は限定的と考えます。

また、通貨政策について、イエレン氏はドル安誘導を否定しただけで、ドル高を標榜した訳ではないため、具体的な方向性を示すものではありませんでした。以上より、今回の公聴会では、①財政拡大が重要、②増税より経済回復を優先、③為替レートの決定は市場に委ねる、というバイデン政権の基本姿勢が改めて確認されました。これらは、株式市場にとって好材料ですが、今後はバイデン氏の各政策の具体的な中身が注目されます。

(2021年1月21日)

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