米財務省とFRBの対立が表面化?

2020/11/24

米財務省とFRBの対立が表面化?

  • 米財務長官は、緊急支援制度の一部打ち切りをFRBに要請も、FRBは継続が望ましいとの立場。
  • FRBの主張は理にかなうが、財務長官は打ち切りによる余剰資金を追加経済対策に充てる考え。
  • 両者の対立は好ましくないが、余剰資金活用に加え安全策の用意もあり、市場の混乱は回避へ。

米財務長官は、緊急支援制度の一部打ち切りをFRBに要請も、FRBは継続が望ましいとの立場

ムニューシン米財務長官は11月19日、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長宛に書簡を送りました。内容は、「CP資金調達制度、Commercial Paper Funding Facility(CPFF)」など、4つの流動性支援制度について90日間の延長を求める一方、「発行市場企業信用制度、Primary Market Corporate Credit Facility(PMCCF)」など、5つの制度の打ち切りを要請するものです(図表1)。

打ち切りが要請された5つの制度は、3月に成立した米緊急経済対策「CARES法(コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法)」の資金を使用した制度です。ムニューシン氏は、改めて同制度の期限(12月31日)に言及し、未使用の資金を財務省に返還するよう要請しています。これに対しFRBは、経済がまだ脆弱であり、すべての支援制度は継続が望ましいとの見解を明らかにしました。

FRBの主張は理にかなうが、財務長官は打ち切りによる余剰資金を追加経済対策に充てる考え

米財務省とFRBは、春先にコロナ・ショックで金融市場が動揺した際、協調して積極的に多くの流動性支援制度を打ち出してきました。そのため、今回、同制度を巡る両者の対立が表面化したことは、市場にとって基本的に好ましいことではありません。また、米国では新型コロナウイルスの感染拡大が加速しており、この状況を勘案すれば、FRBの主張は理にかなっていると思われます。

ただ、ムニューシン氏も、単に支援制度の一部を打ち切ると言っている訳ではありません。書簡では、一部支援制度の終了によって、財務省に余剰資金が4,290億ドル発生するため、これに未使用の財務省直接融資資金260億ドルをあわせた4,550億ドルを、議会に再配分できると述べています。つまり、この再配分を追加経済対策の原資に充てることが可能ということになります。

両者の対立は好ましくないが、余剰資金活用に加え安全策の用意もあり、市場の混乱は回避へ

また、ムニューシン氏は、将来これらの制度の再構築が必要になった場合、FRBは財務長官の承認を要請することができ、承認が得られれば、法律で認められている範囲内で資金を調達することが可能という、「バックストップ(安全策)」も、書簡に盛り込んでいます。なお、今回対象となった5制度については、財源の権限が財務省にあるため、書簡では要請という形になっていますが、打ち切りは確実です。

今回の書簡が市場に与える影響について考えた場合、前述の通り、米財務省とFRBの対立が表面化したことは、決して好ましいものではありません。ただ、①一部制度の打ち切りによる余剰資金が追加経済対策に充当される可能性があること、②FRBが必要に応じて再申請できるバックストップが設定されていること、を踏まえれば、大きな混乱には至らないとみています。

(2020年11月24日)

市川レポート バックナンバーはこちら

http://www.smam-jp.com/market/ichikawa/index.html

三井住友DSアセットマネジメント株式会社
市川レポート 経済・相場のここに注目   三井住友DSアセットマネジメント株式会社
主要国のマクロ経済や金融市場に関する注目度の高い材料をとりあげて、様々な観点から分析を試みます。
●当資料は、情報提供を目的として、三井住友DSアセットマネジメントが作成したものであり、投資勧誘を目的として作成されたもの又は金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。
●当資料に基づいて取られた投資行動の結果については、当社は責任を負いません。
●当資料の内容は作成基準日現在のものであり、将来予告なく変更されることがあります。
●当資料は当社が信頼性が高いと判断した情報等に基づき作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。
●当資料に市場環境等についてのデータ・分析等が含まれる場合、それらは過去の実績及び将来の予想であり、今後の市場環境等を保証するものではありません。
●当資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。
●当資料の内容に関する一切の権利は当社にあります。本資料を投資の目的に使用したり、承認なく複製又は第三者への開示等を行うことを厳に禁じます。
●当資料の内容は、当社が行う投資信託および投資顧問契約における運用指図、投資判断とは異なることがありますので、ご了解下さい。

三井住友DSアセットマネジメント株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第399号
加入協会:一般社団法人投資信託協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会

このページのトップへ