郵便投票~米大統領選に潜む警戒すべきリスク

2020/10/08

郵便投票~米大統領選に潜む警戒すべきリスク

  • 今回の選挙では、郵便投票の割合が急増する見通しで、選挙結果の判明が遅れるリスクが高い。
  • 郵便投票は共和党に不利との見方も、トランプ氏は郵政公社トップに共和党に近い人物を指名。
  • 郵便投票がトランプ氏に不利なら提訴の恐れもあるが、バイデン氏圧勝ならば提訴のリスクは低下。

今回の選挙では、郵便投票の割合が急増する見通しで、選挙結果の判明が遅れるリスクが高い

米国では、大統領選を前に多くの州が、新型コロナウイルスの感染拡大を予防する措置の一環として、郵便投票の制度を拡充するための法整備を進めました。2016年の大統領選では、全投票に占める郵便投票の割合は、約24%とみられていますが、今回、その割合は大幅に増える見通しです。ただ、この郵便投票を巡っては、いくつか考慮しておくべき点があるため、以下、検証していきます。

全米50州およびコロンビア特別区(首都ワシントンD.C.)のうち、投票用紙を自動的に全有権者に郵送するのは、カリフォルニア州など9州とコロンビア特別区で、希望すれば郵便投票の利用を認めているのは、ニューヨーク州など36州です(図表1)。また、投票用紙の必着日は図表2の通りで、18州およびコロンビア特別区は、選挙当日の消印を有効としており、郵便投票の割合が急増すれば、選挙結果の判明が遅れるリスクが高まります。

郵便投票は共和党に不利との見方も、トランプ氏は郵政公社トップに共和党に近い人物を指名

米大統領選では一般に、投票率が上がると、非白人や低所得層の票が増えるため、民主党が有利になるとの見方があります。実際、世論調査では、バイデン氏支持者の47%が郵便投票を活用すると回答し、トランプ氏支持者の11%を大きく上回っています。そのためか、トランプ米大統領は、郵便投票に猛反対しており、郵便投票は大量の不正に結び付くと主張しています。

トランプ氏は5月、米郵政公社の総裁に、共和党の大口献金者として知られるルイス・デジョイ氏を指名しました。デジョイ氏は6月に総裁就任後、郵便物を仕分けする機械や、郵便ポストの一部撤去、職員の残業時間の削減など、事業改革に取り組みました。これに対し民主党は、選挙直前に郵便サービスを混乱させる意図的な郵便投票妨害であると非難し、デジョイ氏が事業改革は選挙後まで停止するという声明を出す事態に至りました。

郵便投票がトランプ氏に不利なら提訴の恐れもあるが、バイデン氏圧勝ならば提訴のリスクは低下

また、トランプ氏は先月、連邦最高裁判所判事に保守派のエイミー・バレット氏を指名しました。この指名については、保守層と女性票の獲得を狙うだけでなく、選挙結果が最高裁の判断まで必要となった場合、自身に有利な判定を期待しているとの見方もあります。共和党は、10月22日にも上院本会議で採決する意向ですが、共和党上院議員のなかにコロナ感染者が複数おり、また選挙前の採決に反対するものもいるため、採決は見通しにくい状況です。

なお、仮に郵便投票で結果判明が遅れ、それが僅差なら、投票再集計でさらに遅れることも予想されます。最終結果は、選挙人の投票日12月14日までには判明すると思われます。なお、郵便投票がトランプ氏に不利な結果となった場合、トランプ氏が郵便投票の不正を訴える恐れがあります。ただ、開票の早い時点でバイデン氏圧勝が確認されれば、提訴のリスクは大きく低下しますが、これは選挙当日の状況を見極めざるを得ません。

(2020年10月8日)

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