過去の事例から考える地政学リスクと相場の関係
市川レポート 過去の事例から考える地政学リスクと相場の関係
- イランが米軍駐留のイラク基地を攻撃、地政学リスクの高まりで、円、原油、金などに買いが膨らむ。
- 円や金などが有事に選好される理由は、「流動性の高さ」だが、あくまで一時避難的な動きである。
- 米イランが協議に向かえば日経平均は22,200円、ドル円は105円の水準前に反転の可能性も。
イランが米軍駐留のイラク基地を攻撃、地政学リスクの高まりで、円、原油、金などに買いが膨らむ
日本時間の1月8日朝方、米軍が駐留するイラクの基地に対し、イランが攻撃を開始したとの報道が伝わりました。これを受け、為替市場では円が対主要通貨で全面高となり、ドル円は1ドル=108円台半ば付近から、一時107円台後半までドル安・円高が進行しました。日経平均株価は前日比300円超下げて寄り付き、時間外取引でのWTI原油先物価格は一時1バレル=65ドル台に達し、金先物価格も急騰しました。
ここで改めて、地政学リスクと相場の関係について考えます。一般に地政学リスクとは、ある国や地域で政治的な混乱や軍事的な緊張の高まりが、それらの国や地域の経済活動を停滞させ、場合によっては世界経済の先行きも不透明にするリスクのことです。地政学リスクが高まると、為替市場では日本円や米ドル、商品市場では金、中東情勢に関係する場合は原油も、買われやすい傾向がみられます。
円や金などが有事に選好される理由は、「流動性の高さ」だが、あくまで一時避難的な動きである
日本円や米ドル、金、原油が有事に選好される理由の1つは「流動性の高さ」です。つまり、日本円や米ドルは為替市場での取引量が十分に大きく、また、金や原油の先物は取引所に上場されているため、市場がリスクオフ(回避)に傾いても相対的に売買がしやすいということです。ただ、これらを選好する動きは、「投資目的」ではなく、「一時避難的」なものです。そのため、地政学リスクが鎮静化すれば、資金の巻き戻しは起こりやすくなります。
では、過去の事例に基づき、相場の動きを検証してみます。2001年9月11日、米国で同時多発テロが発生しました。これを受け、日経平均株価は下落、ドル円はドル安・円高、WTI原油先物価格と金先物価格は上昇で反応しました。その後、原油先物価格は9月中、日経平均株価とドル円は10月中、金先物価格は12月中に、それぞれテロ前の水準を回復しており(図表1)、やはり、これらを選好する動きは、一時避難的であることが分かります。
米イランが協議に向かえば日経平均は22,200円、ドル円は105円の水準前に反転の可能性も
また2003年3月20日、米英軍は対イラク軍事作戦(イラクの自由作戦)を開始し、4月9日には首都バグダッドを制圧しました。イラク情勢の緊迫は事前に相当程度、高まっていましたので、軍事作戦の開始3カ月前を基準として、日経平均株価、ドル円、WTI原油先物価格、金先物価格の動きを確認してみます。作戦開始3カ月前の水準を回復した時期は、日経平均株価が2003年5月中、ドル円は7月中で、WTI原油先物価格と金先物価格は、軍事作戦の開始前でした(図表2)。
地政学的な問題は、見通しにくい部分が多いのですが、米国、イランともに戦争を望んでいないと述べている以上、全面的な軍事衝突のリスクは抑制されていると思われます。弊社は1-3月期の日経平均株価の下限を22,200円に設定していますが、米国とイランが問題解決に向けた話し合いに動く流れとなれば、この水準を割り込む恐れは小さく、ドル円もまずは105円程度がドル安・円高のめどとみています。
(2020年1月8日)
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