米国とイラン~対立の構図を整理する
市川レポート 米国とイラン~対立の構図を整理する
- 米国は昨年核合意から離脱、欧州諸国の懸念をよそに今年5月にはイラン産原油を全面禁輸に。
- イランは欧州などに米制裁回避策を求める一方、核合意の義務に違反する措置を相次いで発表。
- 米国とイランの軍事衝突の可能性は低く、最終的には関係国で再交渉せざるを得ないと思われる。
米国は昨年核合意から離脱、欧州諸国の懸念をよそに今年5月にはイラン産原油を全面禁輸に
核開発を巡り、米国とイランの対立が深まっています。今回のレポートでは、これまでの対立の経緯を振り返り、今後想定される展開について考えます。今から4年前の2015年7月、米英独仏中ロの6カ国とイランは、「包括的共同作業計画」に最終合意しました(図表1)。合意内容は、イランが濃縮ウラン貯蔵量の削減など、核開発にからむ活動の制限を受け入れる代わりに、米英などがイランへの経済制裁を解除するというものでした。
しかし、トランプ米大統領は2018年5月、この核合意から一方的な離脱を表明し、イランへの経済制裁を再開しました。英独仏は2019年1月、イランとの貿易を継続するため、特別目的事業体である「貿易取引支援機関(INSTEX)」を創設しましたが、稼働は進みませんでした。こうしたなか、米国は2019年4月、日本を含む8カ国・地域にイラン産原油の輸入を認める特例措置を5月に打ち切ると発表し、全面禁輸に踏み切りました。
イランは欧州などに米制裁回避策を求める一方、核合意の義務に違反する措置を相次いで発表
米国の経済制裁に苦しむイランは5月8日、英独仏中ロの5カ国に対し、原油輸出や金融決済に関して、米国の経済制裁を回避するための施策を60日以内に示すよう求めました。5カ国は6月28日、イランにINSTEXの準備完了を報告しましたが、取引は人道物資に限られるなど、原油取引の再開にめどが立つものではなかったため、イランはまだ不十分との評価を下しました。
この間、ホルムズ海峡近くで何者かによるタンカー攻撃(6月13日、米国はイランが関与と主張)、イランが米無人偵察機を撃墜(6月20日)、米がイラン最高指導者ハメネイ師を制裁対象に指定(6月24日)、などの一連の出来事により、米国とイランの対立はさらに深まりました。このような状況下、イランは7月1日から、核合意の義務に違反する措置を相次いで発表しました(図表2)。
米国とイランの軍事衝突の可能性は低く、最終的には関係国で再交渉せざるを得ないと思われる
核合意の義務違反によるイランの主な狙いは、英独仏中ロの5カ国に揺さぶりをかけ、米国の経済制裁を回避しつつ、早期に原油輸出や金融決済を再開することにあると推測されます。報道によれば、現状程度の違反であれば、ウラン濃度を薄めることで、すぐに規定水準にもどるとのことです。少なくともイランには、米国との衝突を念頭に核武装を強化する意図はないと考えられます。
また、来年に大統領選挙を控えるトランプ米大統領にとっても、イランとの交戦は再選に影響しかねません。そのため、米国とイランの対立が直ちに軍事衝突へ発展する可能性は低いと考えます。一方、欧州諸国によるINSTEXを通じたイランとの原油取引再開は、米国の厳しい制裁で難航しています。したがって、最終的にイランと、米国を含む6カ国は、再交渉のテーブルに着かざるを得ないとみています。ただし、そこに至るまでの道のりは険しく、相応に時間を要すると思われます。
(2019年7月9日)
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