米国は物価目標の達成目前

2018/05/11 <>

▣ 物価目標に近づく

米商務省が4月30日に発表した3月の個人消費支出物価指数(PCEデフレーター)は、前年同月比で1年1か月ぶりに物価目標の水準である2%まで上昇しました(図表1)。エネルギーや食品を除いて趨勢をみるコアPCE価格指数(コアPCEデフレーター)の上昇率も1.9%と2%に接近しました。コアPCEデフレーターは米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げ判断で重視する指標です。

FRBは5月1-2日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で予想どおり現状維持を決定しましたが、物価上昇を受け声明文では、「前年同月比でみると、全体とエネルギー・食品を除くコア指数の物価上昇率はいずれも2%に近づいた」としました。ただ、期待インフレ率も若干上昇してきていますが、声明文では「低いまま」としました(図表2)。

また、インフレの先行きについての文言を、前回の「前年同月比での物価上昇率は向こう数か月で高まっていくと予想され、中期的には2%近辺で安定するとみられる」から、「前年同月比での物価上昇率は中期的に委員会の対称的な(symmetric)目標である2%近辺で推移するとみられる」に変更しました。2%を“対称的な目標”としたのは、物価上昇率が2%から上振れたり下振れたりしながらも、平均して2%に安定させることを意味している模様です。

▣ 足元の原油価格は上昇も、先行きは落ち着く見通し

物価の上昇は、堅調な雇用環境に加え、原油など国際商品価格の上昇が寄与しているとみられます。原油価格については、協調減産の影響などで、供給超から需要超に転じてきています(図表3)。国際エネルギー機関(IEA)によると、今年についても需要超が継続する見通しです。

もっとも、米エネルギー情報局(EIA)などの原油価格の見通しは、足元はしっかりも徐々に落ち着いていく方向です(図表4)。原油価格については、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟国による協調減産が継続する中、米国のイラン核合意の破棄で、イランの原油生産が滞ると、一段と上昇する可能性はありますが、他国の供給増で賄えるとの見方が広がると、上値が抑制されることも想定されます。米国の原油生産も原油価格の上昇に連動して、拡大していく見通しで、徐々に原油価格の上昇を抑制することが見込まれます。

 ▣ 米長期金利は3%乗せも、一段の上昇は限定的か

米金融当局者は、「物価上昇圧力はいくぶん高まっているが、物価がFRBの目標を多少上回っても、より積極的な対応を必要とするような問題ではない」(アトランタ連銀のボスティック総裁)、「金属の輸入関税や原油の値上がりを受け米企業のコストは上がっており、物価や賃金の上昇圧力は高まっているが、今のところFRBの政策金利見通しを変える必要はない」(ダラス連銀のカプラン総裁)など、物価上昇率が2%を若干上回って推移しても、すぐに利上げペースを加速する必要はないとの考えを示しています。

米長期金利はインフレ加速への警戒などから、5月9日には再び3.0%まで上昇しました。市場が織り込む今年の利上げ回数は、3月の利上げを含め3回~4回。4回の織り込みに近づくと、米長期金利は3.2%前後まで上昇することも想定されます(図表5)。とはいえ、米10年国債先物の売りポジションは過去最大まで拡大しており、やや売りに傾き過ぎの状況で、売りポジションの拡大が一服すれば、一段の米金利の上昇が抑制される可能性がありそうです(図表6)。

FRBは利上げを急がない姿勢を示しています。中東情勢を警戒しながらも、原油価格が落ち着いてくれば、米金利の上昇も限定的となりそうです。10日には米消費者物価指数(CPI)の伸びが予想を下回ったことから、米利上げペース加速への警戒が後退し、米株高、米長期金利低下、ドル安となりました。内外の金融市場は、米インフレ動向をめぐり神経質な動きが続きそうです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/env/

 

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