円高をもたらす米国の混迷

2016/02/12

マイナス金利で円高

日銀のマイナス金利政策は円安・株高を狙ったはずでしたが、逆に円高・株安が大きく進んでいます。

日銀の政策などアベノミクスは非力で、海外の動き、特に米国の利上げの方が重要ということでしょう。年明けには3回程度の利上げを見込む人が多かったものの、今は0~1回という見方が増えています。

これを受け、ドルは円やユーロに対し大きく下落しています。ユーロについては欧州中央銀行(ECB)がマイナス金利の拡大に前向きです。にもかかわらず、ユーロ高・ドル安が進んでいます。

要するに、為替を決める上で一番強力なのは米国の金融政策です。その米国はドル高を相当警戒しています。このため日本や欧州のマイナス金利競争でドル高圧力が生じれば、米国はドル高要因である利上げに躊躇します。つまり日欧のマイナス金利は、ドル高(円安・ユーロ安)につながるとは限りません。

米経済は失速

ただし、米国の利上げが遅れそうだという最大の理由は、米経済が失速した模様であるからです。

昨年10-12月期の国内総生産(GDP)は前期比年率0.7%増にとどまりました。年末商戦も今一つだったようです。最近の指標も冴えません。製造業の不調は想定済みですが、サービス業は好調、という見立ても怪しくなっています。たとえば1月のISM非製造業景況指数は、約2年ぶりの低水準です。

また、10年物国債利回りは昨年12月の利上げ後、むしろ低下しています。長期金利は将来の成長見通しを反映します。とすれば長期金利の低下は、米経済の長期的な低成長を織り込んでいると言えます。

雇用は、表面的には回復しています。そのため米国がリセッション(連続的なマイナス成長)に陥ったとしても、浅く短いものにとどまりそうです。しかし米国の有する問題は、より根深いとみるべきです。

大統領選も混迷

今月に本格化した大統領選も混迷の様相です。アイオワ州では、民主党はクリントン氏、共和党はクルーズ氏、ニューハンプシャー州では、民主党はサンダース氏、共和党はトランプ氏が勝利しました。

この4名のうちクリントン氏を除く3名は強い個性を持ち、「非主流」と言われています。サンダース氏は「民主社会主義者」と自称し、格差拡大や金融機関の強欲を非難しています。トランプ氏は移民への攻撃で物議を醸しています。クルーズ氏は既存政治の打破を訴え、共和党でも異端視されています。

「非主流」の台頭は、不満の表れです。特に、景気が良いと感じている人は多くありません。実際、富裕層以外の実質所得は、今世紀に入り、むしろ減っています。そして不満や怒りを、リベラルな人(左派)は富豪や金融業界に向け、保守的な人(右派)は移民や政治家に向ける、との構図です。

これをみると、GDPなどが示すよりも米国の実状は厳しいとわかります。それは利上げ判断にも影響します。当面、利上げは見送らざるを得ず、よって、ドル高・円安基調には戻りにくいと思われます。

 

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