トルコの実験:アベノミクスよりも大胆な
インフレでも利下げ
アベノミクスは、冒険的な実験でした。その柱である金融緩和策も、「大胆さ」が持ち味でした。しかし、上には上がいるものです。特に、トルコが現在実施している経済政策の大胆さには、とてもかないません。
アベノミクスは、超低金利政策などで、日本をデフレ(物価下落)から脱却させよう、という試みでした。この点では、経済学説に沿っていました。他方、トルコでは今、インフレ(物価上昇、図表1)が加速しています。にもかかわらず中央銀行は、政策金利を引き下げているのです(8月:19%→現在:15%)。
エルドアン氏の信念
一般的な理論に基づくと、インフレを抑えるには利上げを行うべき、となります。様々な借入れ金利を上昇させることで、経済活動の過熱が冷やされ、物品・サービスへの需要が減ると考えられるためです。
そうした理論に迎合しないのが、トルコのエルドアン大統領です。同大統領は、利上げを行うとインフレがさらに進む、という特異な考えを持っているのです。そして、インフレ時にも利下げを行うことが経済発展を促す、と信じています。そのため、独裁的な同大統領は、中央銀行に対し利下げを強いています。
本当に全くの誤りか?
欧米のメディア、経済学者、金融市場参加者は、エルドアン氏の考えに驚き、嘲笑しています。たしかに、主流の経済学(=欧米流の理論)に慣れた人から見ると、トルコの金融政策は、常軌を逸しています。
しかし、エルドアン氏は間違っている、とは言い切れません。例えば、利上げを行うと、生産者の資金調達が難しくなり、生産が滞り、供給制約でインフレが一層加速するかもしれません。逆に利下げは、供給を円滑化し、インフレを抑えるかもしれません。それを試す大胆な実験を、トルコは行っているのです。
市場の評価は厳しい
とはいえ、金融市場は、そのような実験の結果を待つ忍耐強さを欠いています。このため、トルコにおける利下げや高インフレに反応し、同国の通貨リラは、足元、米ドルなどに対し急落しています(図表2)。
利下げは、その国の債券への魅力を低め、高いインフレ率は、当該通貨の購買力を損ないます。よっていずれも、通貨安要因です。特に今は、米国などが、インフレを抑制すべく利上げを検討しています。それだけに、高インフレにもかかわらず利下げ、というトルコの異端ぶりが際立ち、リラが売られています。
通貨安で苦しむ国民
リラの急落は、輸入品の値上がりを通じ、インフレ率を一段と高めています。中でも食品の値上がりが国民を苦しめていますが、それでもエルドアン大統領は、自国通貨安による輸出増などに期待しています。
エルドアン氏が利下げに執着するのは、高利息は倫理に反する、というイスラムの教えが根底にあります。よって、低金利政策→通貨安→インフレ、の連鎖は、トルコの総選挙が予定されている2023年まで、続く可能性があります。そうした通貨安や食品高で苦しむのは、アベノミクスと同じく、多くの国民です。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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