実質賃金とアベノミクス:シンプルで不都合な真実
実質賃金とは
いま盛り上がっている統計不正問題のおかげで、経済学の重要概念である「実質賃金」への関心が高まっています。とはいえ専門知識を持ち出さなくても、それが重要であることは誰でも知っています。
つまり見た目の賃金(名目賃金)が増えても、物価がもっと上がると実質賃金は減ってしまいます。これを喜ぶ人はいないはずです(なお、実質賃金は「名目賃金÷物価指数」。ただし日本のように賃金や物価の変動率が小さい場合、実質賃金上昇率は「名目賃金上昇率-消費者物価上昇率」で概算してよい)。
異様な言い訳を強いられる状況に
アベノミクス開始後、この実質賃金が明らかに減ってしまいました(特に円安と消費税増税の影響による。図表1)。立場上これを弁護しなければならない人々は、いろいろな苦しい言い訳を行っています。
第一に、実質賃金は抽象概念にすぎず名目賃金の方が重要、というものです。そんな主張をするのは、買い物の経験がない人だけでしょう。第二に、実質賃金はデフレ(物価下落)によっても増加するので適切な指標ではない、というものです。これは「デフレは常に害悪」と信じ込んでいる時点で誤りです。
アベノミクスの期間中に総雇用者所得は増えたが
第三に、以上の話は就業者一人あたりの賃金についてですが、より重要なのは全就業者分の合計を示す総雇用者所得だ、との主張があります。たしかに、それは実質でも増えています(統計が正しければ)。
一人あたりの賃金が減る中で総賃金(一人あたり賃金×就業者数)が増えたのは、就業者が増えているからです(6年で約380万人)。これは良いことかもしれません。新規の就業者のために既存の就業者が賃金低迷を我慢する、という「分かち合い」の精神は、いかにも日本的(社会主義的)だからです。
高齢者や低賃金の就業拡大を喜んでよいのか?
ただ、380万人のうち約7割は、65歳以上の人です(図表2)。中には、生活苦などのため働かざるを得なくなったケースもあります。就業者の増加を単純に称賛するのは、そうした配慮を欠いています。
第四に、新規就業者は低賃金なのでその参入により平均賃金が減るのは当然、というものです。しかし1年あたりの純増数は、全就業者の約100分の1です。よって平均を例えば0.5%押し下げるには、新規の賃金水準は、既存賃金比で約50%低い必要があります。そんな搾取が行われているのでしょうか。
「超金融緩和→円安→物価上昇→実質賃金減」はアベノミクスの本質そのもの
第五に、まずは就業者増などに伴い実質賃金は減るが、いずれ労働需給が引き締まって実質賃金も必ず上がる、というものです。しかしアベノミクス開始後6年もたった現在、この主張は完全に無効です。
真実はシンプルです。アベノミクスと言えば超金融緩和であり、それらに伴う円安および増税で食品を中心に物価が上がったため、実質賃金が減った、という自明のことが生じただけです。この不都合な真実を覆い隠すべく統計の手法を変えたくなったとしても(現政権は否定)、何ら不思議ではありません。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
※本資料は、ご投資家の皆さまに投資判断の参考となる情報の提供を目的として、しんきんアセットマネジメント投信株式会社が作成した資料であり、投資勧誘を目的として作成したもの、または、金融商品取引法に基づく開示資料ではありません。
※本資料の内容に基づいて取られた行動の結果については、当社は責任を負いません。
※本資料は、信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。また、いかなるデータも過去のものであり、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。
※本資料の内容は、当社の見解を示しているに過ぎず、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。記載内容は作成時点のものですので、予告なく変更する場合があります。
※本資料の内容に関する一切の権利は当社にあります。当社の承認無く複製または第三者への開示を行うことを固く禁じます。
※本資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。
しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第338号
加入協会/一般社団法人投資信託協会 一般社団法人日本投資顧問業協会