実質賃金とアベノミクス:シンプルで不都合な真実

2019/02/26

実質賃金とは

いま盛り上がっている統計不正問題のおかげで、経済学の重要概念である「実質賃金」への関心が高まっています。とはいえ専門知識を持ち出さなくても、それが重要であることは誰でも知っています。

つまり見た目の賃金(名目賃金)が増えても、物価がもっと上がると実質賃金は減ってしまいます。これを喜ぶ人はいないはずです(なお、実質賃金は「名目賃金÷物価指数」。ただし日本のように賃金や物価の変動率が小さい場合、実質賃金上昇率は「名目賃金上昇率-消費者物価上昇率」で概算してよい)。

異様な言い訳を強いられる状況に

アベノミクス開始後、この実質賃金が明らかに減ってしまいました(特に円安と消費税増税の影響による。図表1)。立場上これを弁護しなければならない人々は、いろいろな苦しい言い訳を行っています。

第一に、実質賃金は抽象概念にすぎず名目賃金の方が重要、というものです。そんな主張をするのは、買い物の経験がない人だけでしょう。第二に、実質賃金はデフレ(物価下落)によっても増加するので適切な指標ではない、というものです。これは「デフレは常に害悪」と信じ込んでいる時点で誤りです。

アベノミクスの期間中に総雇用者所得は増えたが

第三に、以上の話は就業者一人あたりの賃金についてですが、より重要なのは全就業者分の合計を示す総雇用者所得だ、との主張があります。たしかに、それは実質でも増えています(統計が正しければ)。

一人あたりの賃金が減る中で総賃金(一人あたり賃金×就業者数)が増えたのは、就業者が増えているからです(6年で約380万人)。これは良いことかもしれません。新規の就業者のために既存の就業者が賃金低迷を我慢する、という「分かち合い」の精神は、いかにも日本的(社会主義的)だからです。

高齢者や低賃金の就業拡大を喜んでよいのか?

ただ、380万人のうち約7割は、65歳以上の人です(図表2)。中には、生活苦などのため働かざるを得なくなったケースもあります。就業者の増加を単純に称賛するのは、そうした配慮を欠いています。

第四に、新規就業者は低賃金なのでその参入により平均賃金が減るのは当然、というものです。しかし1年あたりの純増数は、全就業者の約100分の1です。よって平均を例えば0.5%押し下げるには、新規の賃金水準は、既存賃金比で約50%低い必要があります。そんな搾取が行われているのでしょうか。

「超金融緩和→円安→物価上昇→実質賃金減」はアベノミクスの本質そのもの

第五に、まずは就業者増などに伴い実質賃金は減るが、いずれ労働需給が引き締まって実質賃金も必ず上がる、というものです。しかしアベノミクス開始後6年もたった現在、この主張は完全に無効です。

真実はシンプルです。アベノミクスと言えば超金融緩和であり、それらに伴う円安および増税で食品を中心に物価が上がったため、実質賃金が減った、という自明のことが生じただけです。この不都合な真実を覆い隠すべく統計の手法を変えたくなったとしても(現政権は否定)、何ら不思議ではありません。

図表入りのレポートはこちら

http://www.skam.co.jp/newest_report/contents_type=8&type=topics

 

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