全人代よりも気になる人民元の動き

2018/03/09

今週の国内株市場ですが、米国で保護主義的な政策スタンスに対する警戒感がにわかに高まったことで、日経平均はこれまでのところ不安定な推移となっています。テクニカル分析的には200日移動平均線がサポートとして機能しているため、まだ相場は崩れていない印象ですが、様子をうかがいつつ次の展開を探っている状況です。

 

一方、中国では今週の月曜日(3月5日)から「全人代(全国人民代表大会)」が開催されています。毎年何かと話題に上るこの全人代ですが、その注目度の高さに反して、全人代でサプライズ的な物事が決まるということはほとんどありません。全人代は日本でいう国会に相当しますが、重要な方針や決定事項はあらかじめ中国共産党の中央で決めています。全人代が開幕する前に、「憲法の改正を議論し、国家主席の任期を削除する」などが報じられたのもそのためです。共産党の決定を、国家の機関である全人代で承認するといった政治プロセスになっています。

 

その全人代よりも気になるのが為替市場での人民元の動きです。人民元/ドルレートの推移を辿ると、2016年末を底にして人民元高の傾向が続いています。気が付けば、2015年夏場の「チャイナ・ショック」時の水準が迫っています。元々、チャイナ・ショックは中国の金融当局自身が人民元を切り下げたことで人民元安が進んだことを踏まえると、中国当局が人民元安よりも人民元高に舵を切った可能性があると思われます。

 

その理由として考えられるのが、(1)経済構造のシフト、(2)債務問題、(3)主要基軸への野望です。(1)についてですが、中国の経済政策は、外需から内需への移行や先進技術立国を目指す方針を採っています。電子決済やSNS、Eコマース、AI、EVなどの分野で積極的な投資や普及が進んでいる報道は日本でも多く目にするようになりました。つまり、これまでの人民元安で輸出を増やすよりも、人民元高で海外から資金を呼び込むことのメリットの方が大きくなってきたことになります。

 

(2)は、中国悲観論の根拠として真っ先に挙がる債務問題に絡んでいます。中国の債務残高の増加ペースが経済成長のペースを上回っていることが問題視されていますが、ここ数年で増えているのがドル建ての債務です。つまり、ドル高(人民元安)になってしまうと債務負担が増えてしまうことになるため、人民元高を志向することはこの面でも有効です。

 

(3)は、国際通貨としての人民元の側面です。2016年10月にIMFのSDR(特別引き出し権)の構成通貨に採用されましたが、その延長線上にある主要通貨としての国際的地位の確立やドルへの挑戦という議論です。

 

また、(3)については中国で始まる原油先物取引が大きな意味を持つかもしれません。中国の原油先物取引は数年前から話題になっていたのですが、いよいよ今月下旬の3月26日に上海国際エネルギー取引所(INE)で取引がスタートすることになりました。主な特徴として、人民元建てで取引されることと、外国人も取引に参加が可能であることが挙げられますが、中長期的に単なる先物取引サービスの開始だけにとどまらない可能性があります。

 

中国は昨年2017年に米国を抜いて世界最大の原油輸入国となりました。ただ、原油取引のほぼ全てがドル建てで行われるため、原油価格の値動きだけでなく為替の影響も受けます。今後人民元建ての原油先物取引が活発化すれば、自国通貨建てで取引できるという大きなメリットがありますし、取引が増えれば、WTIや北海プレントに並ぶ新たなベンチマークが加わる可能性も出てきます。

 

原油は殆どの国が必要とする資源ですし、その資源の決済がドルで行われていることがドルが基軸通貨であることの裏付けでもあります。原油の取引で人民元という新たな決済通貨の選択肢の出現によってドルの存在が脅かされ、ドル安要因のひとつになるシナリオも中長期的に浮上してくるかもしれません。

 

 

 

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