中国の最大リスクは景気や債務ではく、「ソフトパワー」

2023/08/18

今週の株式市場ですが、日経平均はこれまでのところ、節目の32,000円台の攻防から下放れへの意識を強めつつあるような推移となっています。

こうした相場地合いに影を落としている要因のひとつが中国です。中国では今週15日(火)に7月分の経済指標がまとめて発表されましたが、工業生産や小売売上高などが市場予想や前回を下回る結果となり、先日公表された7月消費者物価指数が前年比マイナスとなったことと併せて、中国の景気減速やデフレスパイラルへの警戒感が強まっています。

このほかにも、中国の不動産大手企業の碧桂園がドル建て社債の利払いが実施されていないことや、中植企業集団(資産管理会社)や中融国際信託など、投資家から資金を集めて投資する側からも支払い遅延が発生するなど、中国発のネガティブな材料が報じられています。

実際に株式市場に目を向けると、上海総合指数や香港ハンセン指数の下落はもちろん、米国株市場に上場している中国企業で構成されている株価指数である、ゴールデン・ドラゴン・チャイナ指数については、200日移動平均線近くまで急落しています。

先ほども述べたように、中国では「カネ回り」の悪化が目立ち始めており、かつての日本が辿ったように、不動産バブルが崩れつつあるのは間違いなさそうです。とはいえ、こうした事態は一部で想定されていた展開でもあり、しばらくは国内外の株式市場の足を引っ張り、中国に投資した資金が回収できなくなるなどの影響は出てくると思われますが、このまま直接的に国際金融市場にパニックを引き起こす可能性は高くないかもしれません。

イメージとしては、3年前の中国恒大集団のデフォルト騒ぎと同様に、根本的な問題が解決されず、モヤモヤ感を引きずりながら時間だけが過ぎて行くようなイメージです。また、状況の悪化自体が中国当局の対策期待につながって、時々持ち直す場面があるかもしれません。

ただし、中国の動向が問題視されるのは、世界的な不安拡大よりも、中国国内からの不満や混乱が高まり、内政面・外交面でどうなっていくのかといった、政治的な影響の方が強いかもしれないこと、そして、中国が立ち直るには想像以上の時間が掛かるかもしれないことの方にあると思われます。

中国が抱えている問題は、カネ回りが悪化している以上、改善させていくには海外からの資金流入が不可欠になりますが、いきなり碧桂園の社債取引を停止させたり、若年層(16歳~24歳)の失業率の公表を取りやめたりと、中国への金融アクセスは必ずしも透明性が確保されていないだけでなく、いわゆる「改正反スパイ防止法」の施行による懸念や、米中対立の影響など、外国企業が中国でビジネスを行う上での環境も悪化しており、製造業などを中心に外国企業が中国から離れる動きも出始めています。

急速な発展や巨大なマーケットの魅力などにより、経済的なチカラを強めて「ハードパワー」を手にした中国ですが、対外的には「戦狼外交」という言葉に示されているように、周囲との協調や信頼といった「ソフトパワー」の構築ができていなかったことが、今後の中国を苦しめることになり、最大のネックであるとも言えそうです。

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