米国株市場による景況感の織り込みに注意

2023/06/02

「月またぎ」で6月相場入りを迎えた今週の国内株市場ですが、これまでのところ、日経平均が31,000円台を挟んで上げ下げを繰り返す動きが目立っています。

これまでの急ピッチな上昇や、米国の債務上限問題の見極め、次回FOMC(6月13~14日開催予定)に向けて、金融政策に対する思惑が高まりつつあるなど、上値を追う動きがいったん落ち着いてもおかしくないタイミングではあります。

株式市場の流れとしては、「このあたりで株価や時間的な調整局面を迎える」のか、「あくまでも小休止で、このままさらに上値を目指す」のかを見極めようとしている状況と言えますが、注意したいのは、「この短期間の株価上昇において、相場のけん引役が変わっている」点です。

日本株の本格的な株価上昇は4月半ばからスタートしましたが、当初は、海外株と比べた想定的な割安感や出遅れ感、比較的堅調なインフレと景気、低PBRをはじめとする企業改革への期待など、日本株の再評価の動きが中心でした。それが、足元では米国の「AIブーム」に乗っかる格好で半導体関連株などの値嵩株が買いの中心となっています。

実際に、米国株市場ではこうした動きが際立っており、年初来高値を更新しているNASDAQに対し、NYダウは200日移動平均線あたりまで株価が調整するなど、温度感がかなり異なっています。NASDAQの強さは、先ほどのAIブームが材料となっていますが、「ADライン」と呼ばれる、値上がり銘柄数と値下がり銘柄数の状況を示す線がNASDAQにおいて低下傾向にあり、一部の大手IT企業や半導体関連株に資金が集中している様子がうかがえます。

さらに、米国市場については、景況感の悪化を織り込みきれていない可能性もあります。米国では昨年から景況感の悪化を警戒する見方がくすぶり続けており、経済指標の中には、企業の倒産件数の増加やクレジットカードの延滞率の上昇など、景気後退時に現われるものも増え始めています。

それでも、相場自体が崩れていないのは、米FRBが実施してきた金融緩和の影響がまだ残っているからです。FRBはリーマンショック時や、コロナショック時に大規模な金融緩和を実施して相場を支えてきましたが、とりわけコロナ禍においては、FRBのバランスシートが4兆ドルから9兆ドル近くまで倍増させています。そのため、多少の景況感悪化の兆候が出現しても、緩和マネーがカバーしている面があるといえます。

しかし、米国の金融政策は、2022年3月から利上げが開始され、同年6月からはQT(量的引き締め)も実施されています。途中の今年(2023年3月)に発生した、金融機関に対する不安の高まりで、一時的に資産が増加する場面もありましたが、基本的には今後もQTが継続されます。FRBが目標とするペースとしては、2025年までに資産額を6兆ドルまで減少させるといわれています。

つまり、足元の株高は、「景況感の悪化をこれまでの金融緩和の余韻がカバーしている」状況とも言え、QTが今後も続くことを踏まえると、金融政策面では次第に相場環境が悪くなってしまうことが考えられます。もちろん、目先についてはあえて強気姿勢を崩す必要はないと思われますが、株式市場がどこかのタイミングで景況感の悪化を織り込む場面が訪れるかもしれないことは意識しておいた方が良いかもしれません。

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