欧米の金融不安がもたらしたもの ~依然として火種はくすぶる~

2023/04/14

今週の国内株市場ですが、これまでのところ、日経平均は節目の28,000円台を回復する場面があるなど、値を戻す展開が目立っています。

最近の日本株は東証が旗振り役となって進めている低PBR企業に対する改善要請期待で下値の堅さを見せていましたが、今週は、米著名投資家のウォーレンバフェット氏が日本株への追加投資の検討を表明したことや、IR統合型リゾート計画の大阪誘致案で最終調整に入ったと報じられたことでカジノ関連銘柄が物色される動きなどが追い風となった格好です。

とはいえ、足元の日経平均の株価水準は、先月の欧米金融不安が高まる前の株価(3月10日の高値である28,424円)を超えきれていません。その一方で、事の発端となった米国株市場では、主要株価指数(NYダウ・NASDQ・S&P500)が金融不安前の株価水準をすでに回復しているほか、戻り高値の更新をうかがうような動きとなっています。日米の企業決算シーズンが本格化しつつある中で、決算の動向によっては株価の一段高もありそうなムードとなっています。

ただし、欧米の金融不安がもたらしたものを整理すると、依然として火種は燻っています。

相場を大局的に見渡すと、現在の相場環境は2008年のリーマン・ショックから実施されてきた大規模かつ長期にわたる金融緩和局面から、昨年(2022年)より米国で始まった利上げやQT(量的縮小)などが異例の速さで進められてきた引き締めの局面に入っています。いわば極端な緩和から急激な引き締めへと、振り子の振れ幅の大きい流れであるため、今になって景気への影響などの問題が出始めている状況で、欧米の金融不安はその表れのひとつと言えます。

緩和局面では低金利と豊富なマネーによる「過剰流動性」により、株式をはじめとする資産価格の上昇や、より高い収益を志向するリスクテイクの動き、資産運用における時間的バランス(アセット・ライアビリティ・マネジメント)の偏りが顕著となっていました。それが、急ピッチな引き締めによる金利上昇によって、米国債やMBS(不動産担保証券)といった運用資産の価格が下落して損失が発生し、金融機関の経営に対する影響が懸念され、さらに、ネット時代の特徴(SNSによる情報拡散や、ネットバンキングを通じた預金引き出しの速さ)が加わったことが今回の金融不安につながりました。

当局の素早い対応によって、不安はいったん落ち着いているように見えますが、今回の経験や今後の見通し不安から、今後は金融機関の経営姿勢が保守的になることが予想されます。現金保有率を高めるために、保有資産の売却や、融資の貸し渋りや貸しはがしなどが進むことで、あらたな不安を呼び込む可能性があります。

特に、不動産については要警戒かもしれません。3月15日に米抵当銀行協会が公表した情報によると、現在の米国の商業用不動産の融資残高が4兆4,000億ドルあり、そのうちの約3割の残高が2023年と2024年に償還を迎えるスケジュールとなっています。先ほども触れたように、金融機関の保守的な姿勢によって、融資の借り換えが困難になったり、MBSを通じた資金調達もMBSの買い手である金融機関が売却を進めている中では、こちらも難しくなることが予想されます。

株式市場はしばらくの間、さらなる上昇を演じることもありそうですが、「いつ梯子を外されてもおかしくはない」状況であることを認識しつつ、相場に臨む必要がありそうです。

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