日米の株価、5月にかけ変動性高まるか─北朝鮮や景気指標で

2018/03/26

 

米国景気は力強いため『トランプ株高』の中断は一時的とみられ、過剰反応は禁物のようです。

『貿易戦争』不安は一過性の売り材料か

米国株(NYダウ)は先週末にかけ2日間(3月22-23日)合計で1,149ドル安(4.7%下落)の大幅安となり、2016年秋の大統領選から続く株価上昇トレンド──すなわち『トランプ株高』──の下値抵抗線を割り込みました(図表参照)。

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きっかけは、トランプ大統領が中国製品に関税を課す大統領覚書に署名したことで「『貿易戦争』懸念が高まったため」と報道されましたが、実は、そうでもなさそうです。市場は、輸入関税が、EU(欧州連合)は適用除外(3月22日)となり、カナダ、メキシコ等も除外され、むしろ安堵しています。

全ての国を対象とする輸入関税を進言したナバロ氏の主張を、トランプ大統領は100%は採用せず、対中強硬派としてのナバロ氏に利用価値を見出しているようです。『トランプ減税』を実現させ役割を果たしNEC(国家経済会議)委員長を辞任したコーン氏の後任には、部下だったナバロ氏を昇格させませんでした。自由貿易の信奉者で、輸入関税を「愚策」と批判する米CNBC番組コメンテーターであり、かつてNY連銀エコノミストだったクドロー氏を充てると発表したのです(3月14日)。中間選挙を11月に控え、対米貿易黒字国──かつては日本、今は中国──への強硬姿勢をアピールすることが狙いだったようです(拙稿MYAM Market Report「トランプ『貿易戦争』の波乱は一時的か─コーン氏の辞任で」2018.3.8参照)。

5月の米朝トップ会談に向けた動きが波乱要因に

むしろ市場の注目は、中間選挙を控え、さらなるアピール材料となり得る「米国本土への脅威となっている北朝鮮の核ミサイル開発」に対するトランプ大統領の強硬姿勢です。

先週の株価急落の初日(22日<木>)、トランプ大統領はマクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を更迭し、ボルトン元国連大使の後任起用を表明しました。マクマスター氏は、米国がベトナム戦争にはまり込んだ原因を批判的に分析した著書『職務怠慢』(Dereliction of Duty)で知られ、分別ある職業軍人として、市場は信頼していました。核ミサイル開発を北朝鮮に断念させるための選択肢の一つとしては先制攻撃も容認し、「北朝鮮の現体制を崩壊させる意図は無いと明示して、攻撃目標を限定すれば、全面戦争回避は可能」 (ロイター、1月11日)と進言したようです。この点では(強硬な交渉スタイルを好む)トランプ大統領に気に入られた模様です。しかしトランプ大統領は、かつてブッシュ政権の対イラク攻撃でフセイン体制崩壊(2003年)に関与したボルトン氏を起用し、北朝鮮の体制崩壊も辞さない姿勢を内外に誇示したのです。

後任のボルトン氏は、「手りゅう弾をブッシュ政権時代、執務デスク上に置いていた」(ロイター、3月23日)とのエピソードもある、軍事力至上主義の強硬派です。2003年には北朝鮮の核開発6ヵ国協議に際し、ボルトン氏は金正日総書記(当時)を『圧政的な独裁者』と呼び、北朝鮮側がボルトン氏を『人間のクズ』と呼ぶ、非難の応酬となった模様です。最近でも「核武装が整う前に今、北朝鮮を先制攻撃しておかないと、後刻の攻撃では米国が被る被害は甚大。報復で韓国が受ける被害は仕方ない」(USA Today、2017年12月17日)と、全面戦争も辞さない強硬姿勢です。

米朝トップ会談に向けた体制固めはすでに始まっています。2週間ほど前(3月13日)、トランプ大統領は、ティラーソン国務長官を更迭し、ポンペオCIA(中央情報局)長官を起用すると表明しました。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との「米朝トップ会談の前までに国務長官を交代させておきたい、とトランプ大統領は側近に語った」(POLITICO、3月13日)模様です。「対話重視のティラーソン氏(財界出身)では、軍事力で相手に恐怖心を抱かせるタフな対北朝鮮交渉に不向き」と判断されたようです。後任のポンペオ氏も強硬派です。北朝鮮とイランとの連携を断つ狙いも込めて、イラン核合意の撤廃等を主張しています。強硬姿勢で相手を怖気づかせ、有利に交渉を進めるトランプ流交渉術が、朝鮮半島の軍事的緊張を高めつつあり、5月にかけ市場の波乱要因となりそうです。

「米国景気が一時的に減速」観測も波乱要因に

加えて、米国小売売上高(3月14日公表)が3ヵ月連続で落ち込んだことで、一時的ながら、米国GDP成長率の鈍化が見込まれることも、市場の波乱要因となりそうです。当面は、「景気減速懸念」を口実にした短期筋の米国株やドル売り崩しも見込まれ、市場の変動性は高まりそうです。日本株にも波及しそうですが、5月頃を過ぎれば、米国景気は力強いので、反発が見込まれ、過剰反応は禁物なようです。

明治安田アセットマネジメント株式会社
明治安田アセット/ストラテジストの眼   明治安田アセットマネジメント株式会社
かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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