封印された出口論、2%インフレ期待等価株価を想定しよう~日銀は株価水準誘導目標を視野に入れたらどうか~

【ストラテジーブレティン(204号)】

(2)評価できる出口論の完全封印

2020年まで出口封印は追加金融緩和と同義
2%インフレターゲットの早期実現が困難な中で、今日銀に求められるのは忍耐である。その点で、早期の出口論を完全に封印したフォワードガイダンス決定(2018年7月31日)は追加金融緩和策として評価できる。市場は2019年10月の消費税増税後の影響の見極めがつくまで、調整は行われないと考えて、リスクテイクに動きだすだろう。日本は2000年以降の長期デフレという長患いに加えて、2008年のリーマンショック時にQE導入が米国より4年遅れたこと、QE導入遅れに起因する超円高の進行、により、世界に例を見ないデフレのトラウマが強烈に定着した。この特殊性にかんがみれば、容易に2%インフレ目標を達成できないのはむしろ当たり前である。デフレ脱却を本心から必要と思っていない(としか思えない)量的金融緩和批判派の雑音に悩まされる必要はない。

ここ一週間の日銀政策変更騒ぎのノイズ性は明らかであった。出口に踏み出すとの不安心理を掻き立てたショート筋の売りにより、株式とドル円レートは大きく売られた。しかし2%インフレ目標は不変であり、それには相当の株高(バリュエーションの上昇)と円高回避が必須である。円高株安に結び付く政策決定がなされるとの想定は明らかに仕掛けであった。政策発表後の市場は素直にそれを評価して値を戻した。

根拠薄弱な日銀政策批判
それにしてもここ一週間、日銀の政策変化が、株価や為替に失望感を生むと言わんばかりのコメントが垂れ流されていた。なぜそのようなコメントが蔓延するのかだが、それは、①2%インフレ目標は不必要(日銀は旗を降ろすべきだ)、②2%インフレ目標は実現不可能(いずれ日銀は白旗を上げる)、と思っている超金融緩和反対論が根強いからである。超金融緩和批判論者は、黒田日銀の発足当時からQQE反対論を唱え続けていた。超金融緩和批判派が、この間の成長率の高まり、企業業績の高進、雇用の顕著な改善、株価上昇、円安などの成果を等閑視しつつ、2%目標未達という欠点のみを強調しているのは、公正とは言えない。この政策に対するノイズともいえる超金融緩和批判が封印されることの意義は大きい。

 
(2)不当株安の是正は日銀ができるし、やるべきだ

実は資産価格コミットメントがデフレ脱却に決定的
黒田日銀の困難は、超金融緩和がインフレ期待に結び付くと理論的に説明できても、それは蓋然論であり、実証が困難であることだろう。インフレは貨幣供給の従属変数なので、金融政策でデフレ脱却は可能とのリフレ派や日銀執行部の議論に対しては、超金融緩和批判派は懐疑的である。確かにインフレ期待は多くの経路 (トランスミッションメカニズム)を経て変化するものであり、金融政策が明示的に直結してはいない。

日銀は株式バリュエーションの誘導目標を想定せよ
しかし株価・資産価格が貨幣供給の従属変数であることを疑う人はいないのではないか。また為替も相手国の金融政策が不変であれば、貨幣供給により決定される。つまり超金融緩和政策は、為替と株・資産価格に対しては直接的な影響力を持ち得るのである。あえて言えば金融政策➡株価・為替➡インフレ期待との因果関連があり、株価・為替は金融政策の最終目標であるインフレ期待実現のための中間項、媒介項とみることができる。であれば2%インフレ期待と等価にある株価水準、為替水準が想定できるはずである。為替水準は相手国があるので自由には裁量できないが、株価はもっぱら国内金融政策のリーチ内にある。

株価は一株当たり利益×PER(バリュエーション:人気料)である。株価がどこまで上がれば2%のインフレ期待が引き起こされるか、今の業績水準のもとで、PER13倍、日経平均22500円であるが、それが5割増しのPER20倍なら34000円、二倍ならPER26倍の45000円・・・・。

以上のような因果関連が明白な以上、日銀は株価誘導目標、より正確に言えばPER(バリュエーション)誘導目標を持つべきではないか。2%インフレ期待に等価となる株価水準(株式バリュエーション水準)は現在よりも相当高いはずである。この株価水準に対するコミットメントの議論は日銀が2%インフレ目標堅持の姿勢を示し、そのための政策手段はいくらでもあると言明したことで、より重要になっている。

そもそも図表1に示す如く、債券の利回りとの比較において、株式リターンは著しく高く、日本株式は歴史的割安水準にある。これは明白なミスプライシングである。

 

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