米中貿易戦争の全体像を探る~功を奏すトランプ政策と貿易摩擦の行方(勝ち組、負け組)~
【ストラテジーブレティン(201号)】
(1) 高まるトランプ大統領評価
トランプ政策の戦略性
世界経済や市場を考えるうえでますますトランプ氏から目が離せなくなっている。トランプ氏はますます本領を発揮し、成果を続々挙げている。落ち込んでいた支持率も昨年の35%近辺から10ポイントほど上昇した。特に共和党支持者の間では80%と圧倒的な支持を得ている。
メディアや専門家の間では相変わらず、トランプ氏のモチベーションを、選挙対策、人気取り、自己顕示欲・虚栄心、利己主義(白人優先、金持ち優先、ビジネス優先、米国優先、キリスト教優先)、と決めつけて、否定的に解釈しているが米国政治を采配する権力者を色眼鏡で見ていては、本質をとらえることはできない。トランプ氏は驚くほど選挙公約に忠実であり、毀誉褒貶に意を介さない。その強い意志の根源は米国大統領として当然の、America first 、Make America Great againであることも明らかであり、それは(行き当たりばったりとは全く逆の)明確な戦略性というべきである。
トランプ政策の背後にある合理性を探ることが必要だ
先入観に基づく批判が蔓延する中で、見るべき論評は少ないが、FTラナ・フォルーハ氏の一連のコラム「トランプはメッセージの達人だ・・・ダボスの群衆に目もくれず、米国有権者に公約を守っている姿を見せつけ人気を保っている」(2018年6月18日)、「保護主義モードのトランプ通商政策の実相・・・経済と安保は密接に結びつく時代に入った」(2018年6月11日)、産経新聞田村編集委員のコラム「毅然とトランプ政権につけ・・・米中貿易戦争で日本はどうする」(2018年6月24日)は一読に値する。
フォルーハ氏は、「トランプはダボスに集うエリートの評価には目もくれず、ごく正確に選挙公約を実行し、中国や不法移民にタフに対応し彼の支持者である労働組合、中小企業経営者、農業州の支持を強めている。また貿易戦争を始めるタイミングが米国経済成長率が3%を超えるという好景気下であることもよい。容易に貿易のマイナス影響はカバーされてしまう。」と主張し、トランプ政権の一連の政策成功と支持の高まりを伝えている。さらに「トランプ氏が世界の貿易体制を壊したとの通説は間違い。トランプ以前から多国間貿易体制は中国の台頭とデジタルエコノミーにより創造的破壊に直面していた。」として国際分業が新たな時代に入りつつあることを指摘している。また田村氏は「WTOはこれまでの中国の不公正貿易慣行是正に無力だった。ルール無視常習犯の中国を従わせるには、強制力を持つ覇権国の米国を盛り立てることが先決だ。」と解説している。
トランプ大統領が就任して一年間で規制緩和と税制改革を断行し大きな経済的成果を上げた。オバマ政権は理想主義に基づきあたかも経済を敵視するかような政策をとった。それに対してトランプ大統領は規制緩和によってビジネスとワシントンの関係を強めビジネスセンチメントを大きく改善させている。また昨年末の史上最大級の野放図というほどの税制改革は、経済の成長力を大いに強め、米中貿易戦争のマイナス要素を打ち消すだろう。株価もトランプ大統領当選以降3割高の水準で推移しており一年目において大きな経済的成果をあげたと言える。