“米国衰退論”誤りのみならず罪作り
~世界の民主自由主義秩序は再構築される~
【ストラテジーブレティン(303号)】
プーチンの勝利は無くなった
ウクライナ戦争勃発以降、連日報道される悲劇の連続に気が重くなる。が、だからと言って世界の将来を悲観するべきではないだろう。ウクライナ戦争でプーチンが勝利する可能性はない。短期決戦での決着に失敗し、長期化すればするほど不利になる。戦争コストが高じ、ロシア軍の残虐性に対する国際批判は高まり、経済制裁がもたらすロシア国民の生活の悪化と死傷者の増加により厭戦気運は高まらざるを得ない。他方、ウクライナ側は国際世論の支援と米国・NATO諸国の軍事・経済支援、高まる士気により抵抗力を増していくだろう。プーチンは最善でもメンツを保つ休戦に応ぜざるを得ないだろう。ロシアは経済弱体化と政治的プレゼンスの低下を余儀なくされる。密かにロシアを支援する中国も不動産バブルのピークアウト、コロナ再発による経済の減速、輸出先欧米での対中批判の高まり等により、経済情勢は困難化していく。国連内では南アフリカやブラジルがロシア非難に及び腰であるが、そうした趨勢が力を増すとは考えにくい。
世界リセッション回避、米国株式は大底を付けた可能性
先走りとの批判は覚悟の上での推論だが、最終的には米国に有利な決着となる可能性が高
いのではないか。そもそもロシアの経済規模は世界GDPの1.7%程度と小さく、この戦争そのものが世界経済を揺るがすものとはなりにくい。唯一ロシアからの原油、ガス、石炭の供給減による価格の高騰、小麦価格の高騰がもたらすインフレが懸念されるが、それも心配されたほどcatastrophicではないようである。石油ガスのロシアからの全面的禁輸が回避されていること、米国のシェールガス増産等、代替供給源へのシフトが12年内には大きく進むこと、エネルギーインフレに対して各国ともリフレ策で対応していくと見られる こと、等が想定される。
米国株式市場の最大の懸念要因は戦争というよりは、インフレの高進と金融引き締めの行き過ぎによるオーバーキルであるが、それは何とか回避される可能性が大きい。CPIは3月前年比8.5%と40年振りの上昇率となったが、原因の多くは供給体制の制約による一過性のものなので今年後半にははっきりピークアウトしていくだろう。供給に原因があるインフレに対して、金融や財政の引き締めで需要を抑える政策は誤りである。このことは米国政府、FRB、市場のコンセンサスとなっているので、オーバーキルは回避されるだろう。米国株価はウクライナ侵攻直後の急落で大底をつけた可能性が高い。湾岸戦争時の事例のように戦争勃発直後が株価の大底という過去の経験が今回も当てはまりそうである。
米国国力の圧倒的優位
そうなると米国の圧倒的優位性が浮かび上がってくる。米国は世界最大の石油ガス産出国かつ純輸出国である。エネルギー価格上昇は国全体ではマイナスではない。またトウモロコシ、小麦、大豆など世界最大の穀物輸出国でもある。実際年初来SP500株価指数が 7.8%下落している中でエネルギーセクターの株価は43.7%、農産物セクターは43.4%と突出して上昇している。 製造業の衰退が強調されるが、先端産業での競争力は圧倒的である。中国を除く世界のインターネット・サイバー空間を米国のFANGM5社が支配しており、その技術力イノベ ーションの力は他国を寄せ付けない。また基軸通貨ドルを通して世界の金融を支配している。ロシアはそのくびきから逃れるために人民元と金保有を大きく高めたが、米、欧、日、英の中銀の連携によりその外貨準備の約半分は凍結されてしまった。米国の7782億ドルの軍事予算は、世界第二位の中国の3倍、ロシアの10倍と圧倒的 (2020年)で、正面対決すればどの国も敵ではない。世界大戦への展開を回避するために正面からウク ライナ支援をして