香港問題と米中対決の帰趨
【ストラテジーブレティン(253号)】
レッドラインを超えた香港問題
中国は5月22日から開催されていた全人代において、香港における国家安全法の導入を決めた。戦前日本の治安維持法と同様、政府批判を国家転覆罪とみなして取り締まることを可能にするもので、香港における自治と民主運動を根絶やしにできる劇法である。英国の香港統治時代最後の総督クリス・パッテン氏は、「返還後に香港の自治を保障してきた一国二制度が壊された。習近平政権は新たな冷戦を引き起こすリスクを冒し、国際金融ハブとしての香港の地位を危うくしている」と厳しく批判した。米中対決がいよいよ最後の一線を越えたとの発言が、米国トランプ政権や各種報道で氾濫している。
強硬貫く習政権、一見宥和的なトランプ政権
中国の強硬姿勢は顕著である。早くも香港では6月4日、天安門事件追悼集会が禁止された。また米国の香港優遇措置撤廃に対して中国は米国産大豆、豚肉輸入停止を検討と報道されている。米中第一次通商合意を中国側から破棄する姿勢を示したのである。欧米がコロナパンデミックで大混乱している間隙を縫って南シナ海、尖閣列島などへの示威行為も顕著である。
一方、香港国家安全法に対する米国の対抗措置は特恵関税の撤廃、ビザ発給面での優遇廃止等、中国の想定内にとどまっており、恐れられていた関係者のドル資産凍結等はなく、宥和的姿勢に見える。香港ドルの発券銀行3行(HSBC、スタンダードチャーター銀行、中国銀行)のうち英系2行は中国による国家安全法導入に支持を表明した。懸念された香港の金融機能は安泰に見え、中国の強気の横暴は通りつつあるかのようである。香港株式も国家安全法導入決定以降も堅調に推移している。