新型コロナウィルスと米国株高シリーズ③ 強権中国が新型コロナウィルス戦争に勝利するという皮肉
【ストラテジーブレティン(246号)】
新型コロナウィルス感染の連鎖が、中国全体主義の終わりの始まりとなる可能性はある。新型コロナウィルスの発生と初動において、中国の全体主義が大きな責任を負っていることは明らかである。だが、短気は禁物、むしろコロナウィルス問題は習近平政権の強権を強める方向に働き、その新型コロナウィルス撲滅は習政権の基盤を一時的に強化する可能性がある。
先週(2月最終週)コロナウィルス問題は3つの新展開を見せた。①韓国、イタリア、イランで感染者急拡大、②米国株式急落(一週間でNYダウは-12%と史上最高速度の下落、2月12日の史上最高値比では-14%。新型コロナウィルスの世界的パンデミック化の可能性が高まり、市場は最悪事態を織り込み始めた形)、③中国での感染者数のピークアウト、である。世界は中国以外の国での蔓延拡大に恐怖しているが、中国での改善に希望を見出すかもしれない。
中国強権体制の対新型コロナウィルス戦争における有効性は疑いない。中国はコロナウィルス撲滅戦争での、中国システムの優位性を誇示するだろう。世界は中国の新型コロナウィルス撲滅を歓迎するだろう。中国をコアとするグローバルサプライチェーンは一旦は再構築されるだろう。中国での感染ピークアウトが確かとなれば、最悪を一旦織り込んだ世界金融市場は落ち着きを取り戻すだろう。
(1) 希望は中国、恐怖は韓国、イラン、イタリア、日本などという皮肉
中国でピークアウトした新型コロナウィルス感染
WHOは2月28日、新型コロナウィルスに関するリスクアセスメント「世界蔓延pandemic*のリスクは非常に高いがまだ最悪を回避できる可能性もある」を発表した。
*pandemic: 全ての世界市民が一定期間感染する可能性がある状態
要点は、①まだ数名以上の感染者報告国は23ヵ国(感染者確認国は51ヵ国)にとどまっている、②欧州・中東地域では初感染者発生のイタリアから14ヵ国へ、イランから11ヵ国へと概ね感染経路やクラスターが追跡できている、③中国では新規感染者数は329人(2月27日)とピークの8割減となり、非中国新規感染者数の半分となっている。(3月1日付Financial Times)
しかも「河北省を除けば31の省・自治区・直轄市の約9割は新規感染者が連日0~1人にとどまる」(3月1日付日経)。この中国の公表データに信頼性はないとの見方があり、そうかもしれない。しかし虚偽のデータにより事態が深刻化すれば、中国習近平政権にとって命取りとなる。総力戦によって武漢で起きた爆発的感染連鎖は回避され、かつ中国国内に限ってみれば、事態は沈静化に向かっていくと考えていいのではないか。
中国は民主主義国では見られない強権とテクノロジーを活用した監視制度によって、人々の行動に絶大な支配力を持っており、その効果が如実に表れているとみられる。コロナウィルスの蔓延を契機に、ネット監視を一段と強めている。この中国での感染封印の進展は、世界の希望になっている。中国は新型コロナ感染の圧倒的症例情報と有効な封印対策事例をもっており、対新型コロナウィルス戦争では最前線に立っている。