何故香港民主派の勝利が転換点なのか

【ストラテジーブレティン(239号)】

習近平強硬路線の転換不可避
香港区議会議員選挙で民主派が圧倒的多数を占めた。香港で唯一の真の民意を反映できる直接選挙でのこの成果は、中国の一国二制度の形骸化の野望を完全に砕くものである。米国では上下両院の圧倒的多数で香港人権法が成立しており、国際社会の監視圧力は極めて大きい。非人権的対処は中国の国際的評価を決定的に失墜させるので、香港への武力介入・制圧という選択肢はないだろう。しかし他方で香港の混迷を長引かせ、香港経済の悪化・衰弱を引き起こし、香港の持っている金融・通商機能を深圳や上海に吸収するという選択肢もない。香港は、中国にとって通商と金融の対外ゲートウェイであり、その役割の喪失は中国にとって致命的だからである。米国と協議し米国の意を伺う形で、民主派に譲歩して事態を沈静化させるしかないだろう。米国議会における香港人権法の成立と、香港区議会議員選挙における民主派勝利は、現在進行中の米中通商協議において中国側に譲歩と早期決着を迫る誘因にもなるだろう。

一国二制度の中の香港と世界
中国の社会主義市場経済という欺瞞的ヌエ的制度が機能したのは、世界資本主義体制が、民主主義国でない中国を民主主義体制と疑似的に見なし、資本を提供しつづけたからである。その仲介を果たしてきたのが、香港の一国二制度というシステムである。香港の経済規模(香港GDP対中国本土GDP)は2.7%程度と、1997年の返還時の18.4%から大きく低下しているが、資金のゲートウェイとしての香港の役割は全く変わっていない。これは、中国が香港を弾圧した場合に金融面で大きなコストが生じることを意味する。

中国のドル調達に必須の香港の地位、香港人権法で危うくなる
欧米型の法の支配が確立し、自由な資本移動が保証され、低税率・英語の使用などの要素を持ち、米ドルリンクの独自通貨を持つ香港は、グローバルプレイーヤーにとって安心できる投資ロケーションであり、その巨額の資本プールが、中国企業にとっては絶好の資金調達拠点であった。WSJ紙(10/23日付)によると1997年以降中国企業のIPOによる資金調達の累計額は香港市場3350億ドル、上海市場2680億ドルと香港の役割が大きい。銀行融資や社債発行においては、香港の重要性はさらに大きい。中国企業による米ドル建て債券発行の過半は香港で行われ香港市場に上場されている。2018年の中国の対内直接投資1380億ドルの内65%の900億ドルは香港経由、対外直接投資1430億ドルの内61%、870億ドルは香港経由であった。

今後中国の経常収支は大幅に悪化し、ドル資金調達がますます困難になると予想される。その中で、ドル資金調達のゲートウェイとしての香港の重要性はさらに高まっていくだろう。香港問題の処理を間違えば、習近平政権にとって命とりになることは明らかである。

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