株価はなぜ上がるようにできているのか - 株価上昇の本源的メカニズム【前半】

2025/10/03
  • 株価が上がる理由は「インフレ」
  • インフレ局面が圧倒的に長い根本的理由
  • インフレが企業価値「株価」にもたらすもの

株価が上がる理由は「インフレ」

日経平均が年末までに5万円になると予想したレポート(9月19日付ストラテジーレポート「年末までに日経平均5万円」)では、以下のように述べた。

「日経平均が5万円になる」というのは自明のことなので、それは「予想」にはならない。5万円に行くか、行かないか、というのは行くに決まっているので議論の余地がない。もうこれまでに500万回くらい言っているけれど、株価というのは上がるようにできているので、いつかは5万円になるのである。さらに6万円になり、いつかは10万円にもなる。

株価というものは上がるようにできている。そう、繰り返し述べてきたが、その理由はしっかり説明してこなかったような気がする。このたび10月4日の投資の日に寄せて寄稿した特別コンテンツでも、「株は上がるものである」と述べたが、その理由を説明すると長くなるので、その説明はこのストラテジーレポートをご参照くださいとした。

そんなわけで、今回はなぜ株価が上がるのか、その根本的な理由を説明したい。前述の投資の日に寄せて寄稿した特別コンテンツを読まずに、このストラテジーレポートだけを読む人がいるかもしれないので、その特別コンテンツで述べた「断り書き」をここに再掲することから始めたい。

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ここでは話を簡単にするため、「株」とは「株式市場全体」または株式市場全体の動きを表すインデックス(株価指数)を指すものとします。ですから、株は上がるようにできている、と言っても個別銘柄についてはその限りではないとお断りしておきます。

また期間についても5年、10年、20年といった長期のスパンの話です。僕らは「年末まで」とか「向こう1年間」とかの期間を区切った相場の見通しを語りますが、それは不確実性が非常に高く、いくつもの前提のうえで述べている予想です。当然、そのような短期の予想は当たるときもあれば外れることもあります。それは言ってみれば株価の長期トレンドの周りで揺れ動いている変動(ノイズといっても良いかもしれません)を当てにいくようなものですから。短期的な株価変動は予想もつかずに上がったり下がったりするものです。しかし、長期的な株式市場全体の軌跡は右肩上がりで推移していきます。これは予想ではなく、「社会構造的なメカニズム」、もっと言ってしまうと自然界の法則に近いものだと僕は考えています。(ストラテジーレポート「株は上がるものである」より)

出所:マネックス証券作成

なぜ「株は上がる」のか。いくつも理由はありますが、かいつまんでその根本的な理由を述べます。

まずインフレです。インフレというと物価が上がることと思われるでしょうが、上がるのはモノの値段だけではありません。インフレは「おかねの価値(購買力)が下がること」とも解釈できるので、「おかね以外のもの」の値段が上がるのです。おかね以外のもの - 例えば、お米やマンションの価格や金など。そして「おかね以外のもの」ですから株もその中に含まれるのです。

インフレ局面が圧倒的に長い根本的理由

歴史を振り返ると、一時的にデフレになった局面(日本の1990年代以降、世界恐慌後の1930年代など)はありますが、人類史全体を見ればインフレ局面のほうが圧倒的に長いです。その根本的な理由を整理すると以下のようなものが指摘できます。

■貨幣制度の性質(信用創造と通貨供給の拡大)

現代の経済は「信用貨幣」に基づいており、銀行の貸出によって通貨が増えていきます。経済成長にあわせて中央銀行も通貨供給を拡大し続けるため、長期的には貨幣価値は下落しインフレが基調的な状況が生まれます。金本位制時代ですら、金の供給量が増えれば物価は上がる傾向にありました。

■政府財政と債務インセンティブ

政府は歳出(公共投資、社会保障、戦費など)をまかなうために借金をします。デフレは債務の実質負担を重くするため、政府はむしろ「緩やかなインフレ」を望みます。インフレは借金の実質価値を薄めるため、財政運営上も都合がよいのです。

■政治・社会的要因

デフレは失業や倒産を誘発しやすく、社会不安を拡大します。インフレは一定水準までは「成長している感覚」を与えるため、政治的にも容認されやすいという面もあります。そのため、各国の政策運営は「デフレ回避」=インフレ志向になりやすいのです。

■長期的な人口・需要の増加

歴史的に人口増加は常態であり、それが需要拡大を支え、インフレ圧力になります。現代では少子化もありますが、グローバルで見ると新興国の人口増・所得増が世界的インフレ圧力を生んでいます。

以上をまとめると、貨幣制度(信用創造・通貨供給拡大)、政府債務のインセンティブ(インフレ志向)、賃金・価格の下方硬直性、デフレの社会的不安定性、人口・需要の増加などの点が指摘できます。これらの構造的要因が組み合わさり、歴史的に「デフレは例外」「インフレは常態」となってきたわけです。

とにかく世の中はインフレであることが常態であり、「お金以外のものの値段が上がる」というインフの本質から半ば自動的に株は上がるのです。

インフレが企業価値「株価」にもたらすもの

もう少しインフレと株価の話をしましょう。株価というのは何を表しているのでしょう。「企業価値」を表すとよく言われますが、では具体的に企業価値とは何でしょう?一概にいうことは難しいですよね。人的資本やブランド、またはキャラクターなどの知的財産(IP:Intellectual Property)などの直接数値で測れない無形資産も企業価値の一部を成す重要な要素です。しかし、わかりやすいのは、やはり数値になる財務指標です。バランスシート上の資産や純資産、損益計算書で言えば売上高や利益などは、企業価値を測る重要な要素であることに異を唱える人はいないでしょう。それらの資産や売上高もインフレによって膨らみます。名目値である株価が上がるというのは、実は株価が表す企業価値の根源にある企業が有する資産価格や企業が稼ぎ出す売上高、利益がインフレによって水増しされるからだと考えると納得がいくのではないでしょうか。

単に水増しされるというより、インフレが常態化した経済では企業の値上げも通りやすくなり、その結果、売上高の名目値が増えるということもあります。原材料価格や人件費などコストもインフレで増加するので最終的には利益がどうなるかが重要ですが、社会に必要とされる商売をおこなう企業は、コストに利幅を上乗せして売ることが可能であり、結果として利益も増えやすいと言えます。

ではインフレがなければ株価は上がらないのでしょうか。そんなことはありません。むしろインフレによる株価上昇は「おまけ」みたいなもので、インフレがなくても株価は上がるメカニズムがちゃんと備わっています。

株は上がるものである - 投資の日によせて(特別寄稿)
株価はなぜ上がるようにできているのか - 株価上昇の本源的メカニズム【後半】

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