ポストコロナ社会における“住みたい街“と働き方とは

2021/08/27

ワクチン接種が進んでいる国々では、我が国に先んじて新型コロナウイルスに関する法的な規制が解除され、街に人通りが戻るケースも見られるようになってきた。パンデミックは人々の日常生活を一変させてきたが、今後、日々の生活が正常を取り戻した場合、どのような時代となっていくのか。テレワークが広がりをみせる中、通勤や働き方に対する意識がどのように変化していくのかという問題に改めて注目してみたい。

去る2021年7月に規制が解除されたイギリス・ロンドンでは、通勤者の間でテレワークを支持する声が根強くあるようだ。英世論調査会社 YouGovの調査では、通勤を回避できるというのが、テレワークを支持する最も一般的な理由であり、ほとんどまたは全ての日でテレワークを好むサラリーマンの62パーセントが、通勤時間が長すぎると述べているという結果がある(参考)。

アメリカでの意識変化にも新型コロナウイルス感染拡大の影響が色濃く見られる。モビリティサービスソリューション企業Moovitの“2020 Global Public Transport Report”によると、新型コロナウイルスとそれに関連する自宅待機命令によって、アメリカ人の約50パーセントが公共交通機関を使う機会が以前より減った(41パーセント)、もしくは、まったく使っていない(11パーセント)と回答している。

また、新型コロナウイルス感染者数が最も多いカリフォルニア州サンフランシスコでは21パーセントもの人が公共交通機関をもはや利用していないと答えている。公共交通機関を利用しないと回答した人はその他の国々でも広がっており、セサロニキ、アテネ(ギリシャ)、パレルモ、トラパ二(イタリア)でも2割以上に及んでいる。

そして、46パーセントのアメリカ人が、より安全な公共交通機関を求めるためにはモバイル決済手段に関心を寄せていると回答するなど、新型コロナウイルスの影響によって通勤や公共交通機関の利用に対する意識の変化が強まっている(参考)。

我が国でも、都市において生活を営む上で通勤は頭を悩ませる問題の一つである。「平成28年社会生活基本調査結果」(総務省統計局)によると、平日一日あたりの往復の通勤・通学時間の平均は,神奈川県が1時間45 分と最も長く,次いで千葉県1時間42 分,埼玉県1時間36 分、東京都1時間34分の順となっており,首都圏で長くなっている。都市部で長時間通勤と公共交通機関の利用が一体化した社会システムを築いてきた証しといえるだろう(参考)。

(図表:日本の大都市圏の通勤ラッシュ)

(出典:Wikipedia

東京都内では現在も地下鉄の新路線建設の動きが見られる。東京メトロの既存ネットワークとの接続も想定される東京8号線(有楽町線)の延伸(豊洲〜住吉)、都心部・品川地下鉄構想の2つのプロジェクトである。完全民営化の方針がある東京メトロではあるが、経営状態に影響を及ぼすことがないように事業が進められることになっている。(参考

しかしながら、昨年から不動産会社が集計する「住みたい街」の調査のいくつかには変化の兆しが見られる。不動産情報サイト「LIFULL HOME’S」を運営する株式会社LIFULL(2120)の「借りて住みたい街ランキング」(調査対象期間:2020年1月1日 ~12月31日)は顕著な「郊外志向」を示しており、トップは神奈川県の本厚木となった。(参考)また、不動産情報サイト「SUUMO(スーモ)」を運営する株式会社リクルート(6098)が行った「住みたい街ランキング」(調査対象期間:2021年1月4日~ 1月15日)では、埼玉県の浦和など郊外の中核駅で人気の伸びが見られる結果となった。(参考

さらに、「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を足し合わせた新しい概念である「ワーケーション」に対する注目度も高まっている。「ワーケーション」は、リゾート地などを含む地方に滞在し、休暇を取りながら仕事も行うという新たな働き方である。(参考

我が国において定着してきた公共交通機関を利用した通勤を中心とした都市生活のスタイルは、ポストコロナを見据えてどのような変化がもたらされるのだろうか。新たな方向性が我々の生活にもたらすかもしれないポジティブな動きに期待したい。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

倉持 正胤 記す

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所
原田武夫グローバルマクロ・レポート   株式会社原田武夫国際戦略情報研究所
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