コバルト争奪戦の行方~米中対立という福音~
中国の電気自動車用バッテリー会社であるCATL(寧徳時代新能源科技)が洛陽欒川モリブデン業集団に対して1億3750万米ドルを出資する旨発表した。これによりCATLはコンゴ民主共和国にあるコバルトの世界最大級の未開発資源にアクセスが可能となる(参考)。
(出典:Wikipedia)
コバルトは電気自動車(EV)のバッテリーに使われており、世界のコバルト埋蔵量の約半数がコンゴ民主共和国に埋まっているとされる。
昨年(2020年)来の新型コロナウイルスによるパンデミックで同国勢の港が封鎖されるなどして物流の停滞が起きコバルト価格に影響を与えていた。加えて今年(2021年)1月には中国勢における電気自動車用バッテリーの生産量が前年同月比で300パーセント超増加するなどして需要が急増し、同月(2021年1月)から翌月(同年2月)にかけてコバルトの先物価格は2万米ドル以上急騰していた。
中国は2030年を二酸化炭素の排出量のピークとして2060年までにカーボン・ニュートラルになる旨宣言している(参考)。この目標達成のため中国では排出量の多い国内自動車市場の転換を進めており、来る2035年までに公共交通機関の自動車をすべて電動化するとしている。このように大きな成長が見込める中国電気自動車市場には海外からの投資も集まっている。
(図表:コバルト-先物契約価格)
中国のコバルト供給強化により懸念されるのが我が国への影響である。
上述の通りコバルトは偏在性が高く我が国もそのほとんどを輸出に依存している。そうした中で去る2010年には尖閣諸島近海で発生した中国漁船衝突事件を巡り中国側がレアアースの輸出制限を行い、供給確保に奔走する事態となった(参考)。
昨今の米中対立の深化に伴い中国勢が米防衛産業向けのレアアース輸出制限を検討しているとも報じられており、我が国もまたこれに巻き込まれる可能性もある(参考)。
我が国ではコバルト関係の企業としては有価金属回収などを手掛けるアサカ理研(5724)、貴金属やレアメタルのリサイクルを手掛ける旭ホールディングス(5857)、レアメタルなどの精密金属加工などを手掛けるアルコニックス(3036)などがある。
しかし今後の我が国におけるコバルト産業の行方として注目すべきは海洋鉱物資源である。
昨年(2020年)7月、経済産業省の委託を受けた独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が世界で初めてコバルトリッチクラストの採掘試験に成功した(参考)。コバルト立地クラストにはコバルトやニッケルが含まれており、南鳥島南方の排他的経済水域に位置する拓洋第5海山平頂部には我が国の年間消費量の約88年分のコバルトが存在するとされる。
レアメタル関係では海洋探査機「江戸っ子1号」を作成した岡本硝子(7746)や2014年11月~2019年10月の「レアアース泥開発推進コンソーシアム」に参画していた三井海洋開発(6269)なども注目されよう。
コバルトは「気候変動」などの関係で脱炭素化が推し進められる中で重要産業となる電気自動車に必須の材料である。コバルト獲得競争が激化する中で、米中対立が深まれば我が国の海洋に存在するコバルトにも注目が集まることとなる可能性を中心に、引き続き注視していきたい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す
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