欧米の取締役会の実効性~建設的対話とアクティビストのインパクト

2017/10/03 <>

・欧米企業の取締役会はどのように運営されているのだろうか。取締役会の実効性について、投資家はいかにエンゲージメント(対話)をしているのだろうか。6月に一橋大学院の田村俊夫教授、8月にラッセル・レイノズ・アソシエイツのジャック・ラスティオケリー氏(マネージングダイレクター)の話を聴いた。参考になる点をいくつか取り上げてみたい。

・田村教授は、誰と話すかについて、①執行担当のマネジメントと、②独立社外取締役に分けている。昨今は、社外取締役と機関投資家の対話も増えようとしている。何を話すかでは、①ガバナンスについて(G)、②経営戦略について、③環境・社会(ES)について、と分けている。端的に言えば、経営戦略とESGに注目している。

・アクティブ運用中心のTロウプライスでは、1)多数の企業と簡潔な対話を行うライトエンゲージメントと、2)少数の企業に深く立ち入って長めの対話を行うヘビーエンゲージメントに分けて対応している。

・パッシブ運用中心のブラックロックでは、毎年1.5万社に議決権行使を行うが、そのうち1割の約1500社と対話を行っている。特に、長期投資家として、企業の長期的な価値創造と取締役会のリーダーシップを重視している。

・また、マネジメントの後継者選任、敵対的買収の提案、アクティビスト・ファンドの要求などについて、執行サイドのマネジメントの対応が不十分な場合に、社外取締役との対話を求める。通常は筆頭独立取締役や各委員会の委員長である取締役とミーティングを行う。

・公的年金のカルスターズ(カリフォルニア州教職員退職年金基金)では、企業の経営判断がESGにどう影響するのか。その理解を深めるために対話を行う。

・いずれにおいても対話の内容として、1)取締役会が、個人としてもグループとしても、長期的成長を推進できる専門性を明確に備えているか、2)CEOの報酬は業績の実態、株価パフォーマンスと乖離した高額なものになっていないか、3)長期成長戦略のフレームワークを開示しているか、4)M&Aや資本配分について、執行マネジメントと取締役会が密接に協力しているか、つまり監督と助言が効いているか、5)E&S(環境と社会)について、経済的視点もふまえて、長期的な価値創造に組み込んでいるか、などを重視する。

・独立社外取締役と投資家との対話は、欧米でも一般的ではない。英国の方が、米国よりも積極的であるが、そのあり方についてはよく考えておく必要がある。社外取締役は株主の代表でもあるわけだから、投資家や株主と話すのは当然である。

・一方で、執行を任務とするマネジメントを監督する立場なので、執行の内容について独自に語ることはできない。その線引きはフェアディスクロージャーの観点からも難しい面がある。何もふれないのでは、そもそも対話の場に出ていく必要はないし、投資家からは失望されるだけである。

・社外取締役と投資家との対話は本来望ましい。とすれば、そのルールを定めて、その内容についてよく合意しておく必要がある。IRの一貫として、同じ土俵に乗って活動するというのが基本である。

・1)取締役会が実効性を上げているか、という観点から社外取締役と対話する、2)会社が抱えている課題に対して、投資家のニーズをよく知っておくために対話する、3)執行サイドと同じ範囲のディスクローズになるとしても、社外取締役が自分の言葉で話す中で、会社の価値創造の仕組みについて、投資家に理解が深まる、ということは十分期待できよう。

・ラッセルレイノルズは、コーポレートガバナンスについて、アンケート調査を行った。世界120カ国の1000人にアンケートを出して369名から回答を得た。

・効果的な取締役会(effective board)とは、①リーダーシップ:議長がファシリテーターとなって、異なる見解を引き出しているか、②戦略:深いレイヤーで軸合わせができているか、③構造とプロセス:よくないところを修正してけるか、④役員と構成:戦略に合わせてフレッシュな状態を確保しているか、⑤カルチャー:独立した考えを持ち、異議を言える文化ができているか、にあるとして分析を進めた。

・サーベイの結果をみると、国による差は意外にも小さかった、とオケリー氏はいう。よい社外取締役(ディレクター)とは、1)投資家のニーズをよく理解し、2)マネジメントと信頼関係を築き、3)常に最新の情報を含めて問題に当たり、4)全力で参加してエンゲージメントを行う人である、と指摘する。

・世界を代表する機関投資家は、バンガード(EUM2.9兆ドル、EUMは株式運用額)、ブラックロック(2.6兆ドル)、ステートストリート(1.5兆ドル)、フィデリティ(1.2兆ドル)、キャピタルグループ(1.1兆ドル)、Tロウプライス(0.6兆ドル)、ノーザントラスト(0.48兆ドル)、BNYメロン(0.47兆ドル)、インベスコ(0.40兆ドル)、ディメンショナル(3.58兆ドル)で、この上位10社で11.8兆ドル(1300兆円)に達する。

・エンゲージメントでは、どんなことを重視するか。この点で、1)バンガードは、①社外取締役の独立性、②業績連動の報酬制、③株主との対話を、2)ブラックロックでは、①ESG、②長期的な視点、③取締役の評価プロセスを、3)ステートストリートでは、①独立性、②取締役会の実効性評価、③ジェンダー(男女)ダイバーシティに注目する、とオケリー氏は指摘する。

・もう1つ重視すべき点は、アクティビズムが米国から世界に広がっていることである。企業経営の改革に具体的な提案を行って、その戦略を、議決権を通して強力に実行させようとする。建設的な対話で、マネジメントに気付きをもたらすというレベルではなく、敵対的であっても、論理的に強引に提案を実現させようとする。

・このアクティビストの動きは、かつては異端で、例外で、社会的にも害悪ではないかとみられていた。しかし、今や全く違った存在となっている。どの世界をみても、一定の主張をもった人はいる。それがまともな場合もあれば、独りよがりな場合もある。運用の世界で、アクティビスト・ファンドは今や1つのアセットクラスとして、それに投資する機関投資家や年金オーナーが増えている。

・会社を改革するには少し強引でも、筋の通った経営にトランスフォームする必要があり、それを実行すると、目先の利益ではなく、長期的な企業価値が明らかに向上することがありうる。そこに共感する投資家は、アクティビスト・ファンドに投資をする。その方が、パフォーマンスが上がるからである。

・かつては業績不振会社がキャンペーンの対象とされたが、今では業績がそれなりによい会社でもターゲットとされる。しかも、米国企業から欧州の企業へ広がっている。現状と違った戦略を採用すると、より価値向上が図れるとみて、そうした提案をぶつけてくる。

・取締役会のメンバーもターゲットにされる。1)価値創造のトラックレコード(実績)はきちんともっているか、2)その任に当たるスキル(能力・経験)を有しているのか、3)社会的に何か不十分なところはないか、という点が問われる。

・アクティビストが狙ってくる経営改革の内容は、オケリー氏によると、全体の46%が戦略の変更、29%がM&Aの見直し(事業の売却)、27%が取締役会の構成(後継者の指名)についてであるという。

・そして、一定の水準を超えるパフォーマンスを達成しているという満足度基準ではなく、他社よりよいというだけでも不十分で、ベストを尽くしてフルパフォーマンスを上げよと、企業価値の極大化を要求してくる。

・日本のコーポレートガバナンス改革におけるエンゲージメントは、今のところ建設的対話に留まっているが、海外投資家主導のマーケットになっているので、外人投資家からアクティビスト的要求が強まってくる可能性は大いにある。アクティビスト・ファンドが1つの有力なアセットクラスになっているという点には注目しておきたい。

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