機関投資家のスチュワードショップ活動~大手生保のケースとその対応

2017/01/16

・生命保険会社は大手機関投資家である。第一生命ホールディングス(コード8750)は株式会社として上場しており、情報開示に熱心である。運用資産の規模は35兆円で、そのうち9.6%の3.3兆円を日本株に投資している。保有銘柄は1200社に及び全上場会社の3分の1にあたる。

・かつては保険契約とともにその企業の株式を持つという面があったので、事業活動における株式の持ち合いに対して、その意義が問われた。現在は、投資リターンを追求するという観点で、建設的で目的を持った対話に力を入れている。

・第一生命はスチュワードシップ(SS)活動を行う専任チームをおいて、年間250社余りの企業と対話を行っている。運用チームやアナリストチームとの連携も図っている。総会議案というレベルではなく、自社の保有残高や企業活動の中身からみて、対話すべき会社を選んでいる。

・個別に会社を訪問して議論をする。その時に、自分たちの問題意識をレポートにまとめて、情報提供も行う。相手の会社の課題をリストアップし、それについて面談を通してフォローアップしていく。主な論点を、1)コーポレートガバナンス、2)業績と資本効率、3)配当および株主還元におく。

・まずは相互の理解を深めることに重点をおいており、すぐにダイレクトなアクションをとるわけではない。対話の中身は社内で共有しており、投資判断に反映させる方向で検討していく。

・PRI(責任投資原則)に基づいて、ESGを投資分析と投資決定プロセスに取り入れるように図っているので、それに資する議論も行う。経営陣とともに社外取締役との面談にも力を入れていく方針である。

・こうした専門チームが本格的に活動している。今後こうした対話を一段と充実させるのであれば、陣容の拡大や連携の強化がさらに求められよう。とりわけ、企業価値評価の仕組みに体系的に統合していくような新たな展開が期待される。そうすると、対話がより充実したものとなっていこう。

・企業のIRサイドから見ると、中長期の経営戦略についてきちんと語れる必要がある。ガバナンスの観点から、形式基準だけでなく、どのような運営や議論がなされているかを適切に理解してもらう必要がある。非財務情報と財務情報の結びつきを統合的に理解して語っていく必要がある。財務戦略と資本効率については、欧米流ファイナンス理論の巧拙も十分踏まえて、自社の考え方を主張していく必要もあろう。

・IRに関わるチームは、経営企画、財務、CSR/ESG、総会議案などに熟達したメンバーで構成していくことが求められる。上場企業のIRチームは役割が増しており、もっと強化することが必須である。会社全体を知り、投資家と向き合うという点で、キャリアディベロップメントにおいて、その人材育成効果は大きい。

・トップマネジメントは、IRチームの陣容強化と教育訓練に一段と力を入れてほしい。企業の実態価値が向上するのであれば、有効な投資と位置付けられるからである。

 

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